お付き合い編
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久しぶりに仕事で追い込まれていた私は、精神的にだいぶやられていたのだろう。
家に居たくない、外に出たい。と、数日ぶりに来てくれた銀さんに普段言わないことをボヤいていた。
余程酷い顔だったのか、顔をひきつらせた銀さんは、じゃあちょっと走るかとスクーターを準備してくれた。
初めての乗り物に緊張しながらも、銀さんの後ろに跨り彼のお腹の辺りに緩く手を回すと、その手をぎゅっと握り直すよう掴まれた。
「しっかり掴まってねーと落ちるぞ」
「えっ!?」
「ウソウソ!んな簡単に落ちねーよ。でも危ねーから掴まってて」
ニヤリと笑う銀さんに、ほんの少し恐怖を抱きながらもしっかりと掴まれば、ぽんぽんと手を叩かれて出発した。
初めは周りを見る余裕などなく銀さんの背中に張り付いていたが、だんだんと頬を撫でる風や運転する銀さんの背中の温かさに慣れた私は景色を楽しむようになっていた。
あれほど落ち込んでいた気分も、あっという間に晴れたようで目に飛び込む風景や人の流れに目を奪われてしまう。
「もう夏になるんですね」
手を借りながらスクータから降りて、ヘルメットを外すと解放された髪が風に靡き、丁度よく肌が冷やされて気持ちがいい。
「おうよ。今年もまたクソあちぃ季節が来るなんて嫌にならァ」
茶屋に寄った私と銀さんは、道行く人を眺めながら冷たい緑茶で喉の乾きを潤して一息ついた。
まだ風鈴こそ出てはいないが、引きこもっていた数週間の間に、昼間はこんなに暑かったかと驚くほど季節が変わっていた。
「銀さんは暑がりなんですね?」
「暑がりっつーか、猛暑すぎて毎年記録更新してんだろ?体がついていけねーっての」
やれやれと手を振る銀さんは、心の底から嫌なのだろう。あからさまにうんざりした顔をしていて、思わず笑ってしまった。
「なぁーに笑ってんだよ」
「ふふっ、すみません」
大きな手のひらでぐりぐりと頭を撫でられる久しぶりな感覚に目を閉じて、銀さんのなすがままにされれば、そのままグイッと肩に頭を引き寄せられた。
「やっと笑顔ンなったな」
子供をあやすかの様にポンポンと軽く頭に触れられて、銀さんがずっと気にかけてくれていた事を知った私は少し顔を伏せてお礼を述べた。
そんな私に銀さんは「気にすんな」と、いつも通り気だるげに返すだけだった。
このやり取りも久しぶりで、私は銀さんに身を預けて頬を撫でる風に目を伏せた。
***
どのくらいの距離を走らせてくれたのか、かぶき町に戻る頃にはすっかり日も落ち、辺りは暗くなってしまった。
もう少し居たいとわがままを言った私の言葉に銀さんは嫌な顔せず笑って、分かったと言うとスクーターをお登勢さんのお店の裏に駐車して、今度は少し歩いた先の公園で話すことにした。
途中で缶チューハイを二本買って向かった公園には、当たり前だが誰もおらず、ただ静かに街頭が辺りを照らしている。
「あ、月…」
ベンチに座って夜空を見上げれば、目を見張るほど大きな月が浮かび上がっていた。
そういえば満月だったことを思い出し、隣りに座る銀さんをそっと伺えば、キラキラと輝く銀髪が私の目にピタリと止まった。
「あ?何?どしたよ」
視線に気づいた銀さんがこちらを振り向くと、キラリとその瞳が光に反射して、小さく胸が高鳴る。
あぁ、こんなに人を惹き付けて、彼は何てずるい人なんだろう。
「いえ、見てください、今夜は月が……」
「月?やけに明るいと思ったら、そういや満月か」
私の指先を追って空を見上げた銀さんは、でっけー月だなとポツリと零した。
その横顔に見とれていると、銀さんがこちらを向いてニヤリと笑った。
「何てったっけか、あれ」
「あれ、とは…」
「あー、えっと……あぁ、アレだ」
少し腰をうかして私の方へとズレながら顔を近づけてくる銀さんに、少し緊張して缶を両手でキュッと握りしめる。
吐息がかかる距離で止まった銀さんは酔っているのか、ほんのり頬が赤い。
死んだ魚のような、と皆さんに揶揄される瞳は少し濡れて光が潜んでいるように見えた。
「月、が……綺麗ですね」
そう囁いた銀さんは、ふわりと重ねた唇を離すとすぐにどっかりとベンチに座り直した。
そして恥ずかしそうに頭を掻きながら「何かそういうアレあったろ、何か、恥ずかしいやつ。忘れたけど」と、こちらを見ずに言った。
私も酔いが回っているのだろうか。
いや、そういうことにしておこう。
缶を横に置くと、離れた銀さんの手を掴む。
その太い指に私の指を絡めて、今度は私が銀さんの方へと距離を詰めた。
驚いてこちらを見た銀さんの唇を塞ぎ、体勢を少し崩して背もたれに体を預ける彼に覆い被さるようのし掛かれば、銀さんが持っていた缶は地面に音を立てて落ちてしまった。
「…あなたと……」
「え、ぽん子…?」
「あなたと見る、月だから、です」
あからさまに狼狽える銀さんに、もう一度噛み付くように口付ければ、私たちはそのままベンチに倒れ込んだ。
銀さんの、ぐぅという苦しそうな声に笑えば「なぁーに笑ってんだよ」と、昼間のように頭を撫でられた。
月が綺麗ですね
「つーかすまん、ぽん子のあれ、何?」
「えっ!?あっあれは、その、銀さんの言葉のお返事というか…」
「えっ?あっ!そういうアレ!」
「そっそういうアレです……」
「そっ、そっかァ……」
「……か、帰りましょうかね」
「お、おぅ……」
家に居たくない、外に出たい。と、数日ぶりに来てくれた銀さんに普段言わないことをボヤいていた。
余程酷い顔だったのか、顔をひきつらせた銀さんは、じゃあちょっと走るかとスクーターを準備してくれた。
初めての乗り物に緊張しながらも、銀さんの後ろに跨り彼のお腹の辺りに緩く手を回すと、その手をぎゅっと握り直すよう掴まれた。
「しっかり掴まってねーと落ちるぞ」
「えっ!?」
「ウソウソ!んな簡単に落ちねーよ。でも危ねーから掴まってて」
ニヤリと笑う銀さんに、ほんの少し恐怖を抱きながらもしっかりと掴まれば、ぽんぽんと手を叩かれて出発した。
初めは周りを見る余裕などなく銀さんの背中に張り付いていたが、だんだんと頬を撫でる風や運転する銀さんの背中の温かさに慣れた私は景色を楽しむようになっていた。
あれほど落ち込んでいた気分も、あっという間に晴れたようで目に飛び込む風景や人の流れに目を奪われてしまう。
「もう夏になるんですね」
手を借りながらスクータから降りて、ヘルメットを外すと解放された髪が風に靡き、丁度よく肌が冷やされて気持ちがいい。
「おうよ。今年もまたクソあちぃ季節が来るなんて嫌にならァ」
茶屋に寄った私と銀さんは、道行く人を眺めながら冷たい緑茶で喉の乾きを潤して一息ついた。
まだ風鈴こそ出てはいないが、引きこもっていた数週間の間に、昼間はこんなに暑かったかと驚くほど季節が変わっていた。
「銀さんは暑がりなんですね?」
「暑がりっつーか、猛暑すぎて毎年記録更新してんだろ?体がついていけねーっての」
やれやれと手を振る銀さんは、心の底から嫌なのだろう。あからさまにうんざりした顔をしていて、思わず笑ってしまった。
「なぁーに笑ってんだよ」
「ふふっ、すみません」
大きな手のひらでぐりぐりと頭を撫でられる久しぶりな感覚に目を閉じて、銀さんのなすがままにされれば、そのままグイッと肩に頭を引き寄せられた。
「やっと笑顔ンなったな」
子供をあやすかの様にポンポンと軽く頭に触れられて、銀さんがずっと気にかけてくれていた事を知った私は少し顔を伏せてお礼を述べた。
そんな私に銀さんは「気にすんな」と、いつも通り気だるげに返すだけだった。
このやり取りも久しぶりで、私は銀さんに身を預けて頬を撫でる風に目を伏せた。
***
どのくらいの距離を走らせてくれたのか、かぶき町に戻る頃にはすっかり日も落ち、辺りは暗くなってしまった。
もう少し居たいとわがままを言った私の言葉に銀さんは嫌な顔せず笑って、分かったと言うとスクーターをお登勢さんのお店の裏に駐車して、今度は少し歩いた先の公園で話すことにした。
途中で缶チューハイを二本買って向かった公園には、当たり前だが誰もおらず、ただ静かに街頭が辺りを照らしている。
「あ、月…」
ベンチに座って夜空を見上げれば、目を見張るほど大きな月が浮かび上がっていた。
そういえば満月だったことを思い出し、隣りに座る銀さんをそっと伺えば、キラキラと輝く銀髪が私の目にピタリと止まった。
「あ?何?どしたよ」
視線に気づいた銀さんがこちらを振り向くと、キラリとその瞳が光に反射して、小さく胸が高鳴る。
あぁ、こんなに人を惹き付けて、彼は何てずるい人なんだろう。
「いえ、見てください、今夜は月が……」
「月?やけに明るいと思ったら、そういや満月か」
私の指先を追って空を見上げた銀さんは、でっけー月だなとポツリと零した。
その横顔に見とれていると、銀さんがこちらを向いてニヤリと笑った。
「何てったっけか、あれ」
「あれ、とは…」
「あー、えっと……あぁ、アレだ」
少し腰をうかして私の方へとズレながら顔を近づけてくる銀さんに、少し緊張して缶を両手でキュッと握りしめる。
吐息がかかる距離で止まった銀さんは酔っているのか、ほんのり頬が赤い。
死んだ魚のような、と皆さんに揶揄される瞳は少し濡れて光が潜んでいるように見えた。
「月、が……綺麗ですね」
そう囁いた銀さんは、ふわりと重ねた唇を離すとすぐにどっかりとベンチに座り直した。
そして恥ずかしそうに頭を掻きながら「何かそういうアレあったろ、何か、恥ずかしいやつ。忘れたけど」と、こちらを見ずに言った。
私も酔いが回っているのだろうか。
いや、そういうことにしておこう。
缶を横に置くと、離れた銀さんの手を掴む。
その太い指に私の指を絡めて、今度は私が銀さんの方へと距離を詰めた。
驚いてこちらを見た銀さんの唇を塞ぎ、体勢を少し崩して背もたれに体を預ける彼に覆い被さるようのし掛かれば、銀さんが持っていた缶は地面に音を立てて落ちてしまった。
「…あなたと……」
「え、ぽん子…?」
「あなたと見る、月だから、です」
あからさまに狼狽える銀さんに、もう一度噛み付くように口付ければ、私たちはそのままベンチに倒れ込んだ。
銀さんの、ぐぅという苦しそうな声に笑えば「なぁーに笑ってんだよ」と、昼間のように頭を撫でられた。
月が綺麗ですね
「つーかすまん、ぽん子のあれ、何?」
「えっ!?あっあれは、その、銀さんの言葉のお返事というか…」
「えっ?あっ!そういうアレ!」
「そっそういうアレです……」
「そっ、そっかァ……」
「……か、帰りましょうかね」
「お、おぅ……」