出会い編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『 そして彼は、ふわりと手から逃げていく風船のように、輝く星の中へとその身を投じた』
コツ、コツ、コツ…
すっかり手に馴染んだ相棒の万年筆で、時計の針のように一定のリズムで小傷だらけになった机を叩く。
頭の中で作り上げた人物を想像しながら、指の上で相棒をクルリと回した。
「…また書けなくなった…」
ボロボロになった万年筆を机に転がすと、私はガックシと項垂れた。
所謂スランプというものに陥ること数週間、世間が新年を迎えて賑わう中、年末から一歩も外へ出ずただ原稿用紙と向き合う日々を送っていた私は精神的にすっかりくたびれていた。
うなだれたまま窓の外を見ると、お向かいの団子屋さんはなかなかに繁盛しているようだ。
はぁーと深い溜息をつき、原稿をちらりと見て外に視線を戻すと、外の長椅子にどかっと座った人へと意識が移った。
「あの人だ」
筆が進まなくなってから少しは気分転換になるかと窓の外を眺めるうち、まるで綿菓子のように見た目も中身もふわふわしていそうな人を見つけた。
数日に一度は顔を出しているようだから、きっと常連なんだろう。
「あの頭、触ってみたいなぁ」
どんなにふわふわだろうかと目を閉じて想像の世界に入り込むが、ぐぅ、と小さくお腹がなって断念する。
再び目を開けた時には彼は立ち去るところだった。
「私もお団子、食べに行こうかな」
もっさりとした頭をそれなりに整えて、適当なものを羽織ると玄関を開ける。
付けっぱなしのエアコンで暖められた部屋に、ひゅうっと冷たい風が吹いてきて一瞬寒さに負けそうになるが、白い息を吐きながらお団子屋さんへと足を運んだ。
「持ち帰りでお願いします」と声をかけると、いつものように奥さんが笑顔ではーいと返事をしてくれた。
こんびにとお団子屋さんぐらいしか出かけない私にとって家の前に建つこのお店は生命線に近い。
度々顔を出していたからか、顔を出せば「ちゃんと栄養とんなよ!」などと声をかけてくれるような関係になった。
お団子を食べてひとしきり休んだ後、天井や窓の外を眺めては溜息を吐く。
うだうだと筆を取ったり置いたり寝転がったりしているうちに外はすっかり暗くなり、しんと静まり返っている。そろそろ日付が変わる頃だろうか。
「そういえば、夜に出たことないかも…」
あまり外出自体殆どないのだが、夜の外とは、と考えたら興味が湧いてきて外に出てみた。
白く吐く息までもがいつもとは全く違って見える景色に、何だか浮き足立って、駆けるように街の中を動き回る。
そうして橋の所まで来ると、息を切らしながら空を見上げた。
「きれー…」
きらきらと輝く星の海を見て思わず声に出てしまった。
欄干にもたれ掛かりながら眺めていると、流れ星がひゅうっとひとつ消えたのが目に入った。
「あの人も見てるかなぁ」
銀色のあの人を思い浮かべるとなんだかふわふわした気持ちになり、空に向かって筆を取る真似をしてみた。
だけど何も思い浮かばず、力なく腕を下ろして橋の反対側へ向かうと、今度は川面に反射する光をぼんやりと眺める。
「そういえば、主人公も飛び込んだ所で止まっているんだよね…」
ゆらゆらと揺らめく水面に書き進めていた場面を思い出し、いっそ飛び込んでみるか、いやでもあれは川じゃないし今の時期に実際に落ちたらきっと死ぬ、と思いながら揺れる水面をじいっと眺める。
…そもそも彼はどうしてそう思ったんだっけ?
冷え切った欄干を掴み、少しだけ身を乗り出して目を閉じると、想像を膨らませてみる。
そうして本当に空を飛ぶかのようにふわっと体が軽くなった時、勢いよく何かが全身に衝撃を与えて、それまで想像の中で空を飛びそうになっていた自分を一気に現実へと引き戻した。
くらっとしながら目を開くと、誰かにきつく抱きしめられているようで、背中に回された温かさとは反対に、後頭部に添えられた手からヒヤリと熱を奪われるような感覚がした。
誰だろうと視線を動かすと、きらりと輝く銀色に気づいてしまった。
私を抱きしめているのはあれほど触れたくて堪らなかった綿菓子のような人、銀さんだった。
「あ、」
「なぁにやってんだコノヤロー!」
触れていた体が急に離され、力任せに立たされたかと思うと今度は力強く両肩を掴まれた。そして私が言葉を紡ぐより先に鋭い視線で真正面から睨みつけられ押し黙った瞬間、彼から力強く怒鳴られる。
「こんなクソ寒い中ふらふらふらふら橋の上で揺れてんじゃねーよ!身投げなら俺の知らねーとこでやれよチクショー!コレ泥酔してたら間に合ってないからね!俺にトラウマ植え付けながらお前は死んでたかんね!」
彼は私をガクガクと揺さぶりながらそう続けると、徐に自身のストールを外すと私にふわりと巻き付けた。
うっすらと甘い匂いがするそれは、私を包み込んでじんわりと体を温めてくれた。
「ほれ、これ渡しとくからよォ。死にたくなるほど悩むぐれェなら、その前に話し聞いてやるから俺んとこに顔だしな」
私のことを身投げだと勘違いしているであろう彼は、先程とは違った優しい口調で諭すようにそう言うと、無理やり私の手に小さな名刺を握らせた。
「万事屋、銀ちゃん」
「そ、何でも屋さんな。んじゃさっさと帰んな。
あと俺だって寒いんだからそいつァちゃんと返しに来いよ~」
じゃあなとだけ言い残し足早に立ち去る彼の背中は広く、その後ろ姿を眺めていると不思議と筆が取りたくなった。私は足早に帰ると履物もストールも放り出して、乱暴に筆を掴んだ。
何週間も悩んでいたのが嘘のようにすらすらと走る筆は、流れを止めることなく動いていく。
最後の一文字を書き終え筆を置いたとき、外から差し込む光にすっかり夜が明けていたことに気がついた。
―――
あれからの記憶は定かではないが、次に目が覚めた時、時刻はお昼を少し過ぎた頃だった。
ベッドから重い体を起こしてコップ一杯の水を飲むと、その冷たさに頭も身体も目が覚めていくのが分かる。
ふらふらとベッドへ戻り腰を落とすと、名刺にしっかりと目を通す。
「…万事屋、坂田銀時…」
小さく呟くと、力強く抱きしめられた体温と、ストールに残る甘い香りを思い出して心臓が大きく跳ねたような気がした。
「明日、お団子でも持ってお礼に行こう」
どうしてこんなにも彼のことが気になるのか、触れたいと思っていたのか、きっと会えば全て分かるだろう。
ついに触れてしまったあの時、自分の中の答えはとっくに見つかっているのだけれど。
私は彼の香りがするストールを抱きしめ、明日はどんな着物を着ていこうか、と彼に思いを馳せる。
コツ、コツ、コツ…
すっかり手に馴染んだ相棒の万年筆で、時計の針のように一定のリズムで小傷だらけになった机を叩く。
頭の中で作り上げた人物を想像しながら、指の上で相棒をクルリと回した。
「…また書けなくなった…」
ボロボロになった万年筆を机に転がすと、私はガックシと項垂れた。
所謂スランプというものに陥ること数週間、世間が新年を迎えて賑わう中、年末から一歩も外へ出ずただ原稿用紙と向き合う日々を送っていた私は精神的にすっかりくたびれていた。
うなだれたまま窓の外を見ると、お向かいの団子屋さんはなかなかに繁盛しているようだ。
はぁーと深い溜息をつき、原稿をちらりと見て外に視線を戻すと、外の長椅子にどかっと座った人へと意識が移った。
「あの人だ」
筆が進まなくなってから少しは気分転換になるかと窓の外を眺めるうち、まるで綿菓子のように見た目も中身もふわふわしていそうな人を見つけた。
数日に一度は顔を出しているようだから、きっと常連なんだろう。
「あの頭、触ってみたいなぁ」
どんなにふわふわだろうかと目を閉じて想像の世界に入り込むが、ぐぅ、と小さくお腹がなって断念する。
再び目を開けた時には彼は立ち去るところだった。
「私もお団子、食べに行こうかな」
もっさりとした頭をそれなりに整えて、適当なものを羽織ると玄関を開ける。
付けっぱなしのエアコンで暖められた部屋に、ひゅうっと冷たい風が吹いてきて一瞬寒さに負けそうになるが、白い息を吐きながらお団子屋さんへと足を運んだ。
「持ち帰りでお願いします」と声をかけると、いつものように奥さんが笑顔ではーいと返事をしてくれた。
こんびにとお団子屋さんぐらいしか出かけない私にとって家の前に建つこのお店は生命線に近い。
度々顔を出していたからか、顔を出せば「ちゃんと栄養とんなよ!」などと声をかけてくれるような関係になった。
お団子を食べてひとしきり休んだ後、天井や窓の外を眺めては溜息を吐く。
うだうだと筆を取ったり置いたり寝転がったりしているうちに外はすっかり暗くなり、しんと静まり返っている。そろそろ日付が変わる頃だろうか。
「そういえば、夜に出たことないかも…」
あまり外出自体殆どないのだが、夜の外とは、と考えたら興味が湧いてきて外に出てみた。
白く吐く息までもがいつもとは全く違って見える景色に、何だか浮き足立って、駆けるように街の中を動き回る。
そうして橋の所まで来ると、息を切らしながら空を見上げた。
「きれー…」
きらきらと輝く星の海を見て思わず声に出てしまった。
欄干にもたれ掛かりながら眺めていると、流れ星がひゅうっとひとつ消えたのが目に入った。
「あの人も見てるかなぁ」
銀色のあの人を思い浮かべるとなんだかふわふわした気持ちになり、空に向かって筆を取る真似をしてみた。
だけど何も思い浮かばず、力なく腕を下ろして橋の反対側へ向かうと、今度は川面に反射する光をぼんやりと眺める。
「そういえば、主人公も飛び込んだ所で止まっているんだよね…」
ゆらゆらと揺らめく水面に書き進めていた場面を思い出し、いっそ飛び込んでみるか、いやでもあれは川じゃないし今の時期に実際に落ちたらきっと死ぬ、と思いながら揺れる水面をじいっと眺める。
…そもそも彼はどうしてそう思ったんだっけ?
冷え切った欄干を掴み、少しだけ身を乗り出して目を閉じると、想像を膨らませてみる。
そうして本当に空を飛ぶかのようにふわっと体が軽くなった時、勢いよく何かが全身に衝撃を与えて、それまで想像の中で空を飛びそうになっていた自分を一気に現実へと引き戻した。
くらっとしながら目を開くと、誰かにきつく抱きしめられているようで、背中に回された温かさとは反対に、後頭部に添えられた手からヒヤリと熱を奪われるような感覚がした。
誰だろうと視線を動かすと、きらりと輝く銀色に気づいてしまった。
私を抱きしめているのはあれほど触れたくて堪らなかった綿菓子のような人、銀さんだった。
「あ、」
「なぁにやってんだコノヤロー!」
触れていた体が急に離され、力任せに立たされたかと思うと今度は力強く両肩を掴まれた。そして私が言葉を紡ぐより先に鋭い視線で真正面から睨みつけられ押し黙った瞬間、彼から力強く怒鳴られる。
「こんなクソ寒い中ふらふらふらふら橋の上で揺れてんじゃねーよ!身投げなら俺の知らねーとこでやれよチクショー!コレ泥酔してたら間に合ってないからね!俺にトラウマ植え付けながらお前は死んでたかんね!」
彼は私をガクガクと揺さぶりながらそう続けると、徐に自身のストールを外すと私にふわりと巻き付けた。
うっすらと甘い匂いがするそれは、私を包み込んでじんわりと体を温めてくれた。
「ほれ、これ渡しとくからよォ。死にたくなるほど悩むぐれェなら、その前に話し聞いてやるから俺んとこに顔だしな」
私のことを身投げだと勘違いしているであろう彼は、先程とは違った優しい口調で諭すようにそう言うと、無理やり私の手に小さな名刺を握らせた。
「万事屋、銀ちゃん」
「そ、何でも屋さんな。んじゃさっさと帰んな。
あと俺だって寒いんだからそいつァちゃんと返しに来いよ~」
じゃあなとだけ言い残し足早に立ち去る彼の背中は広く、その後ろ姿を眺めていると不思議と筆が取りたくなった。私は足早に帰ると履物もストールも放り出して、乱暴に筆を掴んだ。
何週間も悩んでいたのが嘘のようにすらすらと走る筆は、流れを止めることなく動いていく。
最後の一文字を書き終え筆を置いたとき、外から差し込む光にすっかり夜が明けていたことに気がついた。
―――
あれからの記憶は定かではないが、次に目が覚めた時、時刻はお昼を少し過ぎた頃だった。
ベッドから重い体を起こしてコップ一杯の水を飲むと、その冷たさに頭も身体も目が覚めていくのが分かる。
ふらふらとベッドへ戻り腰を落とすと、名刺にしっかりと目を通す。
「…万事屋、坂田銀時…」
小さく呟くと、力強く抱きしめられた体温と、ストールに残る甘い香りを思い出して心臓が大きく跳ねたような気がした。
「明日、お団子でも持ってお礼に行こう」
どうしてこんなにも彼のことが気になるのか、触れたいと思っていたのか、きっと会えば全て分かるだろう。
ついに触れてしまったあの時、自分の中の答えはとっくに見つかっているのだけれど。
私は彼の香りがするストールを抱きしめ、明日はどんな着物を着ていこうか、と彼に思いを馳せる。
1/7ページ