短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「総悟はずっと私の正義の味方だよ。もうちょっとしたら、きっと私も江戸へ行くんだから!待っててね!」
そう言われて恥ずかしくて憎まれ口を叩くと、ぽん子は俺の頬にちゅっと口付けて、絶対だからね!と走り去った。
それは俺たちが武州を出る前夜の事。
もうぽん子の面影も薄れてきたそんな少し昔のことを思い出して、ひゅうっと息を飲んだ。
先程まで動いていた攘夷志士が、今は目の前でただの塊となって伏している。
それを中心に流れ出る赤は、じわじわとこちらへと広がって足元にまで伸びていた。
刀を握りしめたまま、その様を見ていると物打ちから切先へ、つぅっと緩やかに伝い、そのままひたりと雫となって地面に染みを作った。
「真選組一番隊隊長」
その肩書きを付けられる前から、近藤さんについて行くと決めた時から、こういう事を想像していなかった訳では無い。むしろ覚悟を決めていた。人を斬るということを。
「…そういえば今日から化け物になったんでしたねィ」
今更ながらにじわりと腕が震え、それを押し殺すように刀身をふるった。斬りかかってこられたものをきり伏せ、それに気付いた時は一切の音も聞こえていなかったが、ふと辺りを伺えばまだ騒動は続いているのかあちこちで声が響いている。
「……ははっ」
どうして今、ぽん子の姿が掠めたんだか知らないが、どうにも胸がざわついて気持ち悪い。
それをかき消すように乾いた笑いを零して次の戦場へと足を向けた。
「おーい総悟!!ぽん子ちゃんのこと覚えてるか?文が届いてるぞ!」
「ぽん子…?あぁ、田舎の…」
江戸に来てからどのくらい経っただろうか。
小さくとも手柄を挙げつつ損害を出してとやっているうち、真選組の知名度も広まってきたようで、それなりに毎日忙しく組織は動いている。
そんな中、久々にまとまった連休を貰うことが出来た俺は屯所でぶらぶらと徘徊していた。
仕事もオフも関係なくサボるのが俺なので、休みだろうか何だろうかいつもと変わらない日常だ。
そんな俺を見つけた近藤さんが、節くれだつ手に似合わない淡い色の便箋を持って、嬉しそうに大声で呼びかけて一通のそれを手渡してきた。
「聞けよ総悟!でっかい封に何通も入っててよォ!総悟だけじゃなく俺やトシにも書いてくれるんだから優しい…って聞いてる?!」
「聞いてまさァ。んじゃ俺ァちょっくら散歩行ってきますんで~」
「えぇ?!総悟くん?!」
騒がしく背後から投げかけられる言葉を無視して門を抜け出ると、賑やかな街並みが広がる中をふらふらと歩き行きつけの甘味処の腰掛けに座り、適当な注文をした。
壁に寄りかかり近藤さんから受け取った薄いそれを開けてみれば、ふわりと甘い香りが漂った。
文の内容はなんてことは無いありふれたものだったが、しっかりしているようでどこか抜けている、朧気に覚えているぽん子の幼い姿を思い出させてくれるようだった。
「正義は勝つ!だね!身体に気をつけてね。死んじゃダメだよ」と最後に記されているのを見て、緩みかけていた口元がぐにゃ、と歪んだ。
お前が一体何をわかってるんだよ。
心の中で思うと同時にぽん子に触れたい、という思いで胸が締め付けられる。
そんな気持ちを振り切るように手紙を強く握りしめると、ピリリと携帯がなり、土方さんから緊急招集だと一報が入った。
「悪人ってのは何でこうも騒ぎを起こすんだろうねィ…」
甘味処のおばちゃんに皿を返し、やれやれと重い腰を上げて背伸びをする。
「死ぬ暇も無ェや」
薄暗い月明かりの中、騒々しい足音を立てて絶えず向かってくる者を作業のように斬り捨てながら、確実に火種を潰していく。
目の前の気づけば浪士はもう残り数名といった所までねじ伏せていた。
残党も他の隊士が捕らえているようで、騒ぎは収まりつつある。
そんな中、ぎりりと奥歯を噛み締めながら一人の浪士が立ち向かってきた。
「この…化け物がぁぁ!」
まるでそうすることが当たり前のように切り払えば、それは一瞬にして息絶えた。
「化け物か……、上等でさァ」
いつからそう呼ばれることが増えたかすら思い出せないほど繰り返してきて麻痺しているのだろうか。
ひぃっと悲鳴をあげ、逃げ出そうとする輩を虫でも払うように片付ける。
こんな姿を見たら、アイツはどう思うだろうか。怖がるだろうか、泣くだろうか。
それとも、それでも正義の味方だと言うだろうか。
「ははっ…くだらねェ……ははは!」
誰も居なくなった血の海の中で笑っても、ぽん子の笑顔は霞んだように上手く思い出すことは出来なかった。
慌ただしく後始末に追われる隊員達の元へ行くと、もう俺の仕事は終わっていたらしい。土方さん、近藤さんに声をかければもう帰っていいと言われ、その場をさっさと退散する。
汚れた上着は肩にかけ、ぶらぶらと夜道を歩きながらポケットに手を突っ込むと、カサっと小さな音がして紙切れの感触がした。
そういえば着替えた時に、ぽん子からの手紙を一度また手に取ったことを思い出した。その際にしまい損ねてポケットに突っ込んだのだろう。
自分でぐしゃぐしゃにしておきながら落とさなくてよかった、とどこかでほっとして、手のひらで少しだけシワを伸ばす。
「ぽん子が江戸に来るより俺が帰った方が早いんじゃねェか。ちょっとってどの位のこと言ってたんでさァ」
ぽつりと零せば、目の前でじゃりっと草履の擦れる音がした。
じろりと目をやれば、少し離れた暗がりの物陰からこちらを伺う女が不安そうに口を開いた。
「真選組の方……ですか…?」
「そうでさァ。この道の先じゃ今、事件取り締まってるんで用がないんなら元来た道に戻んなせェ」
まだしわくちゃになっている手紙を胸の内ポケットに押し込み、一歩進むと女は驚いたような顔をした。
「あの!もしかして、貴方…」
物陰から勢いよく飛び出し、不安そうに震える声のわりに確信を持ったような口調で女はこちらに問いかけた。
月明かりの下に現れた女に、今度は俺の息を飲み、強く打たれたように心臓が震えた。
「総悟だよ、ね…?」
「…ぽん子…」
「……やっと、やっと会えたね!」
あの子を忘れるよりも先に
(会いてぇ人に会えて良かった)
(けど、遅すぎだろ、バーカ)
そう言われて恥ずかしくて憎まれ口を叩くと、ぽん子は俺の頬にちゅっと口付けて、絶対だからね!と走り去った。
それは俺たちが武州を出る前夜の事。
もうぽん子の面影も薄れてきたそんな少し昔のことを思い出して、ひゅうっと息を飲んだ。
先程まで動いていた攘夷志士が、今は目の前でただの塊となって伏している。
それを中心に流れ出る赤は、じわじわとこちらへと広がって足元にまで伸びていた。
刀を握りしめたまま、その様を見ていると物打ちから切先へ、つぅっと緩やかに伝い、そのままひたりと雫となって地面に染みを作った。
「真選組一番隊隊長」
その肩書きを付けられる前から、近藤さんについて行くと決めた時から、こういう事を想像していなかった訳では無い。むしろ覚悟を決めていた。人を斬るということを。
「…そういえば今日から化け物になったんでしたねィ」
今更ながらにじわりと腕が震え、それを押し殺すように刀身をふるった。斬りかかってこられたものをきり伏せ、それに気付いた時は一切の音も聞こえていなかったが、ふと辺りを伺えばまだ騒動は続いているのかあちこちで声が響いている。
「……ははっ」
どうして今、ぽん子の姿が掠めたんだか知らないが、どうにも胸がざわついて気持ち悪い。
それをかき消すように乾いた笑いを零して次の戦場へと足を向けた。
「おーい総悟!!ぽん子ちゃんのこと覚えてるか?文が届いてるぞ!」
「ぽん子…?あぁ、田舎の…」
江戸に来てからどのくらい経っただろうか。
小さくとも手柄を挙げつつ損害を出してとやっているうち、真選組の知名度も広まってきたようで、それなりに毎日忙しく組織は動いている。
そんな中、久々にまとまった連休を貰うことが出来た俺は屯所でぶらぶらと徘徊していた。
仕事もオフも関係なくサボるのが俺なので、休みだろうか何だろうかいつもと変わらない日常だ。
そんな俺を見つけた近藤さんが、節くれだつ手に似合わない淡い色の便箋を持って、嬉しそうに大声で呼びかけて一通のそれを手渡してきた。
「聞けよ総悟!でっかい封に何通も入っててよォ!総悟だけじゃなく俺やトシにも書いてくれるんだから優しい…って聞いてる?!」
「聞いてまさァ。んじゃ俺ァちょっくら散歩行ってきますんで~」
「えぇ?!総悟くん?!」
騒がしく背後から投げかけられる言葉を無視して門を抜け出ると、賑やかな街並みが広がる中をふらふらと歩き行きつけの甘味処の腰掛けに座り、適当な注文をした。
壁に寄りかかり近藤さんから受け取った薄いそれを開けてみれば、ふわりと甘い香りが漂った。
文の内容はなんてことは無いありふれたものだったが、しっかりしているようでどこか抜けている、朧気に覚えているぽん子の幼い姿を思い出させてくれるようだった。
「正義は勝つ!だね!身体に気をつけてね。死んじゃダメだよ」と最後に記されているのを見て、緩みかけていた口元がぐにゃ、と歪んだ。
お前が一体何をわかってるんだよ。
心の中で思うと同時にぽん子に触れたい、という思いで胸が締め付けられる。
そんな気持ちを振り切るように手紙を強く握りしめると、ピリリと携帯がなり、土方さんから緊急招集だと一報が入った。
「悪人ってのは何でこうも騒ぎを起こすんだろうねィ…」
甘味処のおばちゃんに皿を返し、やれやれと重い腰を上げて背伸びをする。
「死ぬ暇も無ェや」
薄暗い月明かりの中、騒々しい足音を立てて絶えず向かってくる者を作業のように斬り捨てながら、確実に火種を潰していく。
目の前の気づけば浪士はもう残り数名といった所までねじ伏せていた。
残党も他の隊士が捕らえているようで、騒ぎは収まりつつある。
そんな中、ぎりりと奥歯を噛み締めながら一人の浪士が立ち向かってきた。
「この…化け物がぁぁ!」
まるでそうすることが当たり前のように切り払えば、それは一瞬にして息絶えた。
「化け物か……、上等でさァ」
いつからそう呼ばれることが増えたかすら思い出せないほど繰り返してきて麻痺しているのだろうか。
ひぃっと悲鳴をあげ、逃げ出そうとする輩を虫でも払うように片付ける。
こんな姿を見たら、アイツはどう思うだろうか。怖がるだろうか、泣くだろうか。
それとも、それでも正義の味方だと言うだろうか。
「ははっ…くだらねェ……ははは!」
誰も居なくなった血の海の中で笑っても、ぽん子の笑顔は霞んだように上手く思い出すことは出来なかった。
慌ただしく後始末に追われる隊員達の元へ行くと、もう俺の仕事は終わっていたらしい。土方さん、近藤さんに声をかければもう帰っていいと言われ、その場をさっさと退散する。
汚れた上着は肩にかけ、ぶらぶらと夜道を歩きながらポケットに手を突っ込むと、カサっと小さな音がして紙切れの感触がした。
そういえば着替えた時に、ぽん子からの手紙を一度また手に取ったことを思い出した。その際にしまい損ねてポケットに突っ込んだのだろう。
自分でぐしゃぐしゃにしておきながら落とさなくてよかった、とどこかでほっとして、手のひらで少しだけシワを伸ばす。
「ぽん子が江戸に来るより俺が帰った方が早いんじゃねェか。ちょっとってどの位のこと言ってたんでさァ」
ぽつりと零せば、目の前でじゃりっと草履の擦れる音がした。
じろりと目をやれば、少し離れた暗がりの物陰からこちらを伺う女が不安そうに口を開いた。
「真選組の方……ですか…?」
「そうでさァ。この道の先じゃ今、事件取り締まってるんで用がないんなら元来た道に戻んなせェ」
まだしわくちゃになっている手紙を胸の内ポケットに押し込み、一歩進むと女は驚いたような顔をした。
「あの!もしかして、貴方…」
物陰から勢いよく飛び出し、不安そうに震える声のわりに確信を持ったような口調で女はこちらに問いかけた。
月明かりの下に現れた女に、今度は俺の息を飲み、強く打たれたように心臓が震えた。
「総悟だよ、ね…?」
「…ぽん子…」
「……やっと、やっと会えたね!」
あの子を忘れるよりも先に
(会いてぇ人に会えて良かった)
(けど、遅すぎだろ、バーカ)