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前髪を切るという行為において、注意しなければならないことがある。
気になりだすとハサミを動かす手が止まらなくなってしまうので、程々のところで見切りをつけなければ失わずに済んだものまで失ってしまうことがあるのだ。
「やっちまったよォォォ」
1人、部屋の中で後悔に苛まれる私。
前髪が伸びてきて邪魔だったから、ちょっとだけ切ろうと思って自分なりに調節していたつもりが…。
お察しの通り、切りすぎた。眉にかかる程度にと思って少しずつ切っていたのに、眉見えてるよ。コンニチワしてますよ。
「どうしよう…笑われちゃうかなぁ…」
髪が伸びるまで引きこもっていたいぐらいの気持ちだが明日も仕事は待ってはくれない。
…まぁ、明日どころか明後日も明明後日もあるんだけどね。
仕方ない…でも意外と皆、気づかないかもしれないからそう願っておこう…。
これはもう髪が伸びるまでどうしようも無いので、今夜はもうさっさとお風呂に入って寝ることにした。
そして迎えた朝、なんとなく眉毛が隠れるかもと思ってよく撫で付けてみたが、さほど効果はなくチラチラと眉は見えている。ダヨネ。
私は憂鬱な気分で家を出ると、重い足取りで仕事へ向かった。
「おはようございます」
「うっす」
「はよー」
なるべく平静を装いながら出社し、デスクに着く。目の前の栗毛のベビーフェイス沖田は先輩である私をチラ見しただけで終わった。
次に返事をした死んだ目の坂田先輩はこちらを見向きもせずに隣りで頬杖をつきながら朝からお菓子をつまんでいる。
私はパソコンを立ち上げながら後から出勤してきた人に朝の挨拶をして、始業時間になり業務をこなし、お昼休憩になった時にふと気がついた。
私、誰にも前髪をいじられていない……?!
休憩時間は大体いつも一人で過ごすため、周りに人はいない。黙々と小さなお弁当をつつきながら、やっぱ社会人にもなって人の前髪なんていちいち突っ込む人なんて居ないよね!と安堵する。
もしかして私に誰も興味が無いだけという悲しい現実かも知れないが、今はむしろそれでいいとすら思えてきた。
「でもちょっと悲しい…」
しょんぼりしながらお弁当箱を片付けてデスクに戻り、また私のやるべき仕事をこなすだけだ。
そしてついに、誰にも業務以外の会話を振られることなく退勤時間となった。
私は少しだけ残業になったので、段々と減っていく社員に口だけ挨拶しながら手を動かす。
「よォ、残業か」
不意に声をかけられ、顔を上げるとコーヒー缶とカフェオレを持った土方先輩がすぐ斜め後ろに立っていた。
「そうなんですけど、もう少しで終われそうです」
「そーかい」
カフェオレを渡され素直にお礼を述べて受け取ると、ヒヤリと指先の熱を奪ったが少し暖かいくらいのオフィスでは丁度いいくらいで、さすがイケメンでフォローの達人は違うよと心の中で頷いておく。
「先輩も残業ですか?」
「じゃなきゃさっさと帰るっつーの」
「ですよね~」
「まぁ頑張れよ」
ポンと私の肩を叩き、少し離れた自分のデスクに座った先輩はグリグリと肩を回していた。
私も早く済ませてしまおうと意気込み、また画面上に目を走らせた。
そして時刻は七時。
思いの外時間がかかったものの何とか仕上げることが出来た私は、思い切り背伸びをして丸まっていた背中をほぐした。
どうやら先輩も終わったらしく、窓の戸締り確認をしながらお疲れさんと私に声を掛けてくれた。
「あーあ、外寒いだろうなぁ」
「冬だから仕方ねぇよ」
会社を出れば、冷たい風がひゅうっと頬を掠めて思わず肩を竦めてしまった。
「お前、家まで徒歩数分だろ?冷え切らねぇうちにさっさと帰んな」
「らじゃですー」
ビシッと警官の真似をして先輩を見たら、弱そうと馬鹿にされてちょっと凹んだ。
もういいや寒いしと手を下ろして帰ろうとした時、土方先輩の手が頭に伸びてきて反射的に首をすくめる。
長い指がそのまま前髪に触れて、さらりと擽った。
「…前髪切ったんだな」
「あ、ハイ。切りすぎちゃって」
「だろうな」
ククッと笑われ、朝から気付かれずにいたと思っていたのにまさか仕事帰りに指摘されるとは思わず恥ずかしさで顔が熱くなる。
先輩の手が離れると、少しだけ乱れた前髪を急いで押さえつけるようにサッサっと上から下へと撫で付けた。
「朝から隠したそうにしてたけど、お前、可愛い顔立ちだから悪くねぇよ」
「…えっ?」
「また明日な。気をつけて帰れよ」
ヒラヒラと手を振って、土方先輩はさっさと駅の方へと歩いていってしまった。
「えっ?朝からって…えっ…?てか、か、可愛いって…?」
先輩はもう角を曲がって見えなくなってしまったが、あのイケメンから放たれた予想外の言葉を思い出しながら、私の顔は恥ずかしさではない別の意味で段々と熱を帯びてくる。
「去り際に褒めるとか…先輩…ずるいって…」
全く意味は無いけれど、熱い顔を隠すように前髪を撫で付けてから、私も足を動かした。
(明日から、どんな顔して会おう)
(明日から、ちったぁ意識してんだろ)
気になりだすとハサミを動かす手が止まらなくなってしまうので、程々のところで見切りをつけなければ失わずに済んだものまで失ってしまうことがあるのだ。
「やっちまったよォォォ」
1人、部屋の中で後悔に苛まれる私。
前髪が伸びてきて邪魔だったから、ちょっとだけ切ろうと思って自分なりに調節していたつもりが…。
お察しの通り、切りすぎた。眉にかかる程度にと思って少しずつ切っていたのに、眉見えてるよ。コンニチワしてますよ。
「どうしよう…笑われちゃうかなぁ…」
髪が伸びるまで引きこもっていたいぐらいの気持ちだが明日も仕事は待ってはくれない。
…まぁ、明日どころか明後日も明明後日もあるんだけどね。
仕方ない…でも意外と皆、気づかないかもしれないからそう願っておこう…。
これはもう髪が伸びるまでどうしようも無いので、今夜はもうさっさとお風呂に入って寝ることにした。
そして迎えた朝、なんとなく眉毛が隠れるかもと思ってよく撫で付けてみたが、さほど効果はなくチラチラと眉は見えている。ダヨネ。
私は憂鬱な気分で家を出ると、重い足取りで仕事へ向かった。
「おはようございます」
「うっす」
「はよー」
なるべく平静を装いながら出社し、デスクに着く。目の前の栗毛のベビーフェイス沖田は先輩である私をチラ見しただけで終わった。
次に返事をした死んだ目の坂田先輩はこちらを見向きもせずに隣りで頬杖をつきながら朝からお菓子をつまんでいる。
私はパソコンを立ち上げながら後から出勤してきた人に朝の挨拶をして、始業時間になり業務をこなし、お昼休憩になった時にふと気がついた。
私、誰にも前髪をいじられていない……?!
休憩時間は大体いつも一人で過ごすため、周りに人はいない。黙々と小さなお弁当をつつきながら、やっぱ社会人にもなって人の前髪なんていちいち突っ込む人なんて居ないよね!と安堵する。
もしかして私に誰も興味が無いだけという悲しい現実かも知れないが、今はむしろそれでいいとすら思えてきた。
「でもちょっと悲しい…」
しょんぼりしながらお弁当箱を片付けてデスクに戻り、また私のやるべき仕事をこなすだけだ。
そしてついに、誰にも業務以外の会話を振られることなく退勤時間となった。
私は少しだけ残業になったので、段々と減っていく社員に口だけ挨拶しながら手を動かす。
「よォ、残業か」
不意に声をかけられ、顔を上げるとコーヒー缶とカフェオレを持った土方先輩がすぐ斜め後ろに立っていた。
「そうなんですけど、もう少しで終われそうです」
「そーかい」
カフェオレを渡され素直にお礼を述べて受け取ると、ヒヤリと指先の熱を奪ったが少し暖かいくらいのオフィスでは丁度いいくらいで、さすがイケメンでフォローの達人は違うよと心の中で頷いておく。
「先輩も残業ですか?」
「じゃなきゃさっさと帰るっつーの」
「ですよね~」
「まぁ頑張れよ」
ポンと私の肩を叩き、少し離れた自分のデスクに座った先輩はグリグリと肩を回していた。
私も早く済ませてしまおうと意気込み、また画面上に目を走らせた。
そして時刻は七時。
思いの外時間がかかったものの何とか仕上げることが出来た私は、思い切り背伸びをして丸まっていた背中をほぐした。
どうやら先輩も終わったらしく、窓の戸締り確認をしながらお疲れさんと私に声を掛けてくれた。
「あーあ、外寒いだろうなぁ」
「冬だから仕方ねぇよ」
会社を出れば、冷たい風がひゅうっと頬を掠めて思わず肩を竦めてしまった。
「お前、家まで徒歩数分だろ?冷え切らねぇうちにさっさと帰んな」
「らじゃですー」
ビシッと警官の真似をして先輩を見たら、弱そうと馬鹿にされてちょっと凹んだ。
もういいや寒いしと手を下ろして帰ろうとした時、土方先輩の手が頭に伸びてきて反射的に首をすくめる。
長い指がそのまま前髪に触れて、さらりと擽った。
「…前髪切ったんだな」
「あ、ハイ。切りすぎちゃって」
「だろうな」
ククッと笑われ、朝から気付かれずにいたと思っていたのにまさか仕事帰りに指摘されるとは思わず恥ずかしさで顔が熱くなる。
先輩の手が離れると、少しだけ乱れた前髪を急いで押さえつけるようにサッサっと上から下へと撫で付けた。
「朝から隠したそうにしてたけど、お前、可愛い顔立ちだから悪くねぇよ」
「…えっ?」
「また明日な。気をつけて帰れよ」
ヒラヒラと手を振って、土方先輩はさっさと駅の方へと歩いていってしまった。
「えっ?朝からって…えっ…?てか、か、可愛いって…?」
先輩はもう角を曲がって見えなくなってしまったが、あのイケメンから放たれた予想外の言葉を思い出しながら、私の顔は恥ずかしさではない別の意味で段々と熱を帯びてくる。
「去り際に褒めるとか…先輩…ずるいって…」
全く意味は無いけれど、熱い顔を隠すように前髪を撫で付けてから、私も足を動かした。
(明日から、どんな顔して会おう)
(明日から、ちったぁ意識してんだろ)