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「な、なんか、こういうのって緊張する」
「わ、私だって…」
「そう、だよね」
「うん…」
屋上へと続く唯一の階段を登ったところで、ぽん子と山崎はゆっくりとそのドアを開ける。
出入り口から少し離れ、それでも下から見えないように壁際に寄り、しゃがんだ二人はコソコソと話していた。
屋外ということもあり、陽のあたる場所は暖かく感じるが時々吹いてくる風は二人を肌寒くさせた。
そんな中、山崎とぽん子は恋人らしく手を繋いでじっと静かに黙ったまま正面を向いている。普段は楽しく話をしているというのに、今、二人の心には少しだけ緊張が走っており、互いにそれをくみ取っているからこそどちらも動けずにいた。
それを打破するかのように先に動き出したのは山崎の方だった。ぽん子と絡めた指に、ほんの少しだけ力を入れる。ぴくりと反応したぽん子に、無意識に喉をならしてつばを飲み込む。
意を決してぽん子を見やれば、顔を真っ赤にしたぽん子はまだ真正面を向いたまま固まっている。
音が漏れているんじゃないかと錯覚しそうな程、強く鼓動を打つ心臓を握り拳でぎゅっと押さえた山崎は、その手をゆっくりと開いた。
そしてぽん子の熱い頬に冷たい指先でそっと触れると、ぎこちなく顔を向けさせて泳ぐ瞳の中に入り込んだ。
ビタリとその視線が交差し、固まったのを確認した山崎はそっと顔を寄せる。そのまま、優しくぽん子の唇に自分のそれを重ねた。
薄っすらと瞼を開ければ、緊張からほんのりと上気した目元がちらりと見えるのが何とも愛おしい。
愛おしいだなんて、行き過ぎた言葉かもしれないが、今は純粋にそう思うのだから仕方ない。
「……」
「……」
ほんの数秒だったそのキスのあと、目を合わす間もなくぽん子は顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。
同じく山崎も、恥ずかしさに耐えきれず反対側を向いて黙りこくる。
これは二人の初めてのキスだった。
もちろん初めてというのは、山崎とぽん子がしたキスという意味ではなく、其々にとっての、れっきとしたファーストキスという意味である。
きっとドラマや漫画なら、ふふふなんて言いながら顔を近づけたまま笑い合ったりしたのだろう。
だが二人にそんな甘い雰囲気に浸れる勇気は無かった。
びゅうっと冷たい風が吹き付け、二人は同時にその身を縮こまらせて顔を見合わせた。
「ふ、ははは!」
どちらからともなく笑いだした二人は、立ち上がると互いの手を探ることなくしっかりと掴んだ。
すっかり冷たくなってしまった手に、冷たい冷たいと笑いながら校舎への扉へ向かって歩き出す。
山崎がドアノブに手をかけたとき、ぽん子はクイクイと山崎の学ランの胸元を引っ張った。
「ん?な、…」
少し顔を傾けた山崎の唇に、ほんのり温かなぽん子の唇が触れた。
まるで掠めるようなそのキスのあと、ぽん子は少しだけふにゃりと笑って顔を背ける。ぱっと離された手は、山崎の手の上に重なるとドアノブを回し、「早く戻ろ」と照れ臭そうにちらりと視線を送った。
「う、うん」
教室に戻る頃には、冷めきっていた手は、すっかり温かくなっていた。
2022.02.10
「わ、私だって…」
「そう、だよね」
「うん…」
屋上へと続く唯一の階段を登ったところで、ぽん子と山崎はゆっくりとそのドアを開ける。
出入り口から少し離れ、それでも下から見えないように壁際に寄り、しゃがんだ二人はコソコソと話していた。
屋外ということもあり、陽のあたる場所は暖かく感じるが時々吹いてくる風は二人を肌寒くさせた。
そんな中、山崎とぽん子は恋人らしく手を繋いでじっと静かに黙ったまま正面を向いている。普段は楽しく話をしているというのに、今、二人の心には少しだけ緊張が走っており、互いにそれをくみ取っているからこそどちらも動けずにいた。
それを打破するかのように先に動き出したのは山崎の方だった。ぽん子と絡めた指に、ほんの少しだけ力を入れる。ぴくりと反応したぽん子に、無意識に喉をならしてつばを飲み込む。
意を決してぽん子を見やれば、顔を真っ赤にしたぽん子はまだ真正面を向いたまま固まっている。
音が漏れているんじゃないかと錯覚しそうな程、強く鼓動を打つ心臓を握り拳でぎゅっと押さえた山崎は、その手をゆっくりと開いた。
そしてぽん子の熱い頬に冷たい指先でそっと触れると、ぎこちなく顔を向けさせて泳ぐ瞳の中に入り込んだ。
ビタリとその視線が交差し、固まったのを確認した山崎はそっと顔を寄せる。そのまま、優しくぽん子の唇に自分のそれを重ねた。
薄っすらと瞼を開ければ、緊張からほんのりと上気した目元がちらりと見えるのが何とも愛おしい。
愛おしいだなんて、行き過ぎた言葉かもしれないが、今は純粋にそう思うのだから仕方ない。
「……」
「……」
ほんの数秒だったそのキスのあと、目を合わす間もなくぽん子は顔を隠すようにそっぽを向いてしまった。
同じく山崎も、恥ずかしさに耐えきれず反対側を向いて黙りこくる。
これは二人の初めてのキスだった。
もちろん初めてというのは、山崎とぽん子がしたキスという意味ではなく、其々にとっての、れっきとしたファーストキスという意味である。
きっとドラマや漫画なら、ふふふなんて言いながら顔を近づけたまま笑い合ったりしたのだろう。
だが二人にそんな甘い雰囲気に浸れる勇気は無かった。
びゅうっと冷たい風が吹き付け、二人は同時にその身を縮こまらせて顔を見合わせた。
「ふ、ははは!」
どちらからともなく笑いだした二人は、立ち上がると互いの手を探ることなくしっかりと掴んだ。
すっかり冷たくなってしまった手に、冷たい冷たいと笑いながら校舎への扉へ向かって歩き出す。
山崎がドアノブに手をかけたとき、ぽん子はクイクイと山崎の学ランの胸元を引っ張った。
「ん?な、…」
少し顔を傾けた山崎の唇に、ほんのり温かなぽん子の唇が触れた。
まるで掠めるようなそのキスのあと、ぽん子は少しだけふにゃりと笑って顔を背ける。ぱっと離された手は、山崎の手の上に重なるとドアノブを回し、「早く戻ろ」と照れ臭そうにちらりと視線を送った。
「う、うん」
教室に戻る頃には、冷めきっていた手は、すっかり温かくなっていた。
2022.02.10