短編集
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あれ?ぽん子ちゃんクリスマスなのに来たのかい?」
「はい。何もすることもなくて…」
「え?山崎さんは?」
「あっ、えっと…」
「はっ…!ぽん子ちゃん…アンタまさか……」
勤務表に休みの希望も何も出していなかった私に気遣って、あえて休みをくれていたおばさんは、開店前に顔を出した私の顔を見て眉間にシワを寄せた。
きっと次に来る言葉はこうだ。
「クリスマスを前に別れたのかい…」
ぽんと肩に手をかけられ、おばさんは憐れむような表情で静かに目を伏せて、顔を横に振った。
まだお付き合いを始めてから数ヶ月の私達のことを、おばさんとおじさんは我が子の事のように喜んでくれていたから、イベント事にも興味を持つのはおかしなことでは無い。
だが、私達は別れた訳ではなかった。
「大丈夫ですよ、別れてません」
「あら?そうなの?若い子らのクリスマスといえば恋人同士で過ごしたいもんだと思ってたから、てっきりそういう事かと…」
目を丸くして驚いたおばさんに、そう思われるのも無理はないと思いながら、私はエプロンを身につける。
普通の恋人同士ならば、きっとこういったイベントに胸を躍らせる事もあるだろう。だけど、私の彼は普通とは呼べない職業に就いているのだから、クリスマスだろうが何だろうが関係はない。
「特別警戒とかで、お仕事なんです」
テロというのは、いつどこで起きてもおかしくない。それに酔っ払いや喧嘩が増えれば、警察の仕事が増えるのは必然で、そうなると真選組も休みどころではないのだろう。
とはいえ、私自身もイベントに強い関心がある訳でもない。
ごめんね、と頻りに謝っていた山崎さんの方が、むしろそういった事に重きを置いていそうだと少し笑みが溢れてしまった。
「そうかい…。正月はゆっくり過ごせるといいけどねぇ」
「うーん…そうですね」
きっと無理だろうなと頭の中を過ぎったが、口には出さず、私は開店準備を始めることにした。
クリスマスや年末にかけての夜は、普段よりも酔っ払いが増えるから気をつけてね。
そう山崎さんが言っていたことを思い出しながら、目の前で酒をあおるお客さんたちを眺める。
仕事の締めまであと何日だとか、今年ももうあっという間だとか、来年はどんな年にしたいだとか、社会に疲れた大人たちの会話を耳にしながら店内を回る。
さすがに今日という日は誰も彼もが仕事なのか、普段ちらちら見る隊服姿の人たちも現れることはなかった。
店じまいをする頃には、外には雪がちらついていた。
「うわ、ホワイトクリスマスだ」
このまま降り続ければ積もるだろうかとぼんやり思いながら、自宅までをトボトボと歩く。
街灯に照らされた道はいつもより静かで暗く思えて、少しだけ寂しい気もするけれど、きっと山崎さんという恋人が出来たからだろう。
今日だって、もしかすると彼が休みで、一緒に過ごせるのだとしたら、私もこれまでとは何か違っていたのかもしれない。
そんな風に思うと、恋というのは本当に恐ろしい。一人が寂しいと思うなんて。
「はぁ…寒い…でももう少しで…」
角を曲がって、やっと自宅が見えた。
消えかけた街灯のせいで、自宅前では見にくい巾着の中からごそごそと手探りで鍵を出していると、誰かの走る足音が遠くから聞こえてくる。
こんな夜遅くに誰だろうかと顔を向ければ、段々と近付いてくる足音と人影にはっとした。
「山崎さん?」
「ぽん子さん!良かった、間に合った!」
「え?え?」
息を切らした山崎さんは私の目の前で止まると、白い息をふわふわと吐き出しながら呼吸を整える。
さすが体を鍛えているだけあってか、すぐに普段通りになった山崎さんは顔を上げると、まだ少し上気した頬を指先で掻きながら恥ずかしそうに笑った。
「初めてのクリスマスぐらい、少しくらいは一緒に過ごしたいなって」
メリークリスマス!
「あっ…ですが、私ケーキも何も準備してませんが…」
「あっ…俺も屯所にプレゼント忘れてきた…!」
「はい。何もすることもなくて…」
「え?山崎さんは?」
「あっ、えっと…」
「はっ…!ぽん子ちゃん…アンタまさか……」
勤務表に休みの希望も何も出していなかった私に気遣って、あえて休みをくれていたおばさんは、開店前に顔を出した私の顔を見て眉間にシワを寄せた。
きっと次に来る言葉はこうだ。
「クリスマスを前に別れたのかい…」
ぽんと肩に手をかけられ、おばさんは憐れむような表情で静かに目を伏せて、顔を横に振った。
まだお付き合いを始めてから数ヶ月の私達のことを、おばさんとおじさんは我が子の事のように喜んでくれていたから、イベント事にも興味を持つのはおかしなことでは無い。
だが、私達は別れた訳ではなかった。
「大丈夫ですよ、別れてません」
「あら?そうなの?若い子らのクリスマスといえば恋人同士で過ごしたいもんだと思ってたから、てっきりそういう事かと…」
目を丸くして驚いたおばさんに、そう思われるのも無理はないと思いながら、私はエプロンを身につける。
普通の恋人同士ならば、きっとこういったイベントに胸を躍らせる事もあるだろう。だけど、私の彼は普通とは呼べない職業に就いているのだから、クリスマスだろうが何だろうが関係はない。
「特別警戒とかで、お仕事なんです」
テロというのは、いつどこで起きてもおかしくない。それに酔っ払いや喧嘩が増えれば、警察の仕事が増えるのは必然で、そうなると真選組も休みどころではないのだろう。
とはいえ、私自身もイベントに強い関心がある訳でもない。
ごめんね、と頻りに謝っていた山崎さんの方が、むしろそういった事に重きを置いていそうだと少し笑みが溢れてしまった。
「そうかい…。正月はゆっくり過ごせるといいけどねぇ」
「うーん…そうですね」
きっと無理だろうなと頭の中を過ぎったが、口には出さず、私は開店準備を始めることにした。
クリスマスや年末にかけての夜は、普段よりも酔っ払いが増えるから気をつけてね。
そう山崎さんが言っていたことを思い出しながら、目の前で酒をあおるお客さんたちを眺める。
仕事の締めまであと何日だとか、今年ももうあっという間だとか、来年はどんな年にしたいだとか、社会に疲れた大人たちの会話を耳にしながら店内を回る。
さすがに今日という日は誰も彼もが仕事なのか、普段ちらちら見る隊服姿の人たちも現れることはなかった。
店じまいをする頃には、外には雪がちらついていた。
「うわ、ホワイトクリスマスだ」
このまま降り続ければ積もるだろうかとぼんやり思いながら、自宅までをトボトボと歩く。
街灯に照らされた道はいつもより静かで暗く思えて、少しだけ寂しい気もするけれど、きっと山崎さんという恋人が出来たからだろう。
今日だって、もしかすると彼が休みで、一緒に過ごせるのだとしたら、私もこれまでとは何か違っていたのかもしれない。
そんな風に思うと、恋というのは本当に恐ろしい。一人が寂しいと思うなんて。
「はぁ…寒い…でももう少しで…」
角を曲がって、やっと自宅が見えた。
消えかけた街灯のせいで、自宅前では見にくい巾着の中からごそごそと手探りで鍵を出していると、誰かの走る足音が遠くから聞こえてくる。
こんな夜遅くに誰だろうかと顔を向ければ、段々と近付いてくる足音と人影にはっとした。
「山崎さん?」
「ぽん子さん!良かった、間に合った!」
「え?え?」
息を切らした山崎さんは私の目の前で止まると、白い息をふわふわと吐き出しながら呼吸を整える。
さすが体を鍛えているだけあってか、すぐに普段通りになった山崎さんは顔を上げると、まだ少し上気した頬を指先で掻きながら恥ずかしそうに笑った。
「初めてのクリスマスぐらい、少しくらいは一緒に過ごしたいなって」
メリークリスマス!
「あっ…ですが、私ケーキも何も準備してませんが…」
「あっ…俺も屯所にプレゼント忘れてきた…!」