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「今年は天気悪いから、星、全然見られないよねぇ」
ぽつりと呟いたぽん子を見れば、その背中は窓を開けて外を見上げていた。
そういえば今日は七夕だったかと思い出し、ぽん子の横に腰掛けて同じく空を見上げれば、真っ暗な空には星ではなく船が浮かんでいる。
そもそも七夕に限らず、この辺りでは晴れていても飛行船やネオンやらで星はデカイやつがチラホラとしか見えない。
「晴れてたとしても、これじゃ見れねぇだろ」
「そっかぁ」
そう呟いたぽん子の横顔は遠足前夜に雨が降って絶望するガキかというほど残念そうで、どう見ても大人の女には見えやしない。
が、たまにはロマンチストになってやってもいいかと、俺はぽん子の腕を掴むと、何事かと慌てる声を無視して玄関を出た。
そしてヘルメットを乱暴に被せて、いつものようにぽん子の手はしっかりと俺の腹の前で組ませて発進する。
後ろから「どこに行くの」とか「銀ちゃんてば」と聞こえてくるが、風でなんて言ってる聞こえないフリをして「ちっと黙ってろー」とだけ答えておく。
そうして三十分は走っただろうかという頃に、森へと到着するとぽん子は何でこんな所にと完全に狼狽えていた。
「いーから、もうちょいで着くから黙ってろ」
「さっきから黙ってろばっかりで何よぉ」
だいぶ森の中を走り抜け、頂上付近の駐車場へつく頃には天気はすっかり変わっていた。
他に誰もいないからと適当に駐車し、ぽん子を降ろしてヘルメットを外してやれば、空を見上げたぽん子がわぁわぁと騒ぎ出した。
「銀ちゃん!銀ちゃん!空がすごいよ!星が近い!」
「おーおー、そりゃ良かったな」
雲が消えた空には、大小様々な星空が視界いっぱいに広がっていた。
昔は、なんて言い方をするとオヤジ臭く感じるが、ガキの頃にはこれが普通だったんだよなぁとほんの少しだけ感慨深くなる。
そんな俺を他所に、ぽん子はあの星の名前は何だろうと言いながら、俺の腕をぐいぐいと引っ張りながら空を指差している。
「あー…何だろうな、分かんねぇ」
「そっかぁ~…あっ!」
「今度は何だよ」
「流れ星が見えたの!また見えないかな」
ぽん子は一度見えた流れ星を目で追ったのか、俺とは反対方向を見上げていたが、ゆっくりと見回し始めた。
「流れ星ねぇ。んな叶うかどうかも分かんねーもんに…」
「でも叶うかも知れないでしょ?」
「へーへー。何てお願いすんの?」
俺の問いかけに、ぽん子は俺の手をぎゅっと握って恥ずかしそうに笑って言った。
「来年も、銀ちゃんと天の川見られますようにって!」
素直すぎる答えに、不覚にも胸がきゅっと締め付けられてしまった。
わざわざ星を見に行くなんて慣れないことをしたから、ちっとおかしくなってしまったのかも知れない。
「……ベタ過ぎて減点。来年はもっといい答え考えなきゃな」
そう言いながら、俺はぽん子の手に指を絡めて繋ぎ直した。
2021 07 07
ぽつりと呟いたぽん子を見れば、その背中は窓を開けて外を見上げていた。
そういえば今日は七夕だったかと思い出し、ぽん子の横に腰掛けて同じく空を見上げれば、真っ暗な空には星ではなく船が浮かんでいる。
そもそも七夕に限らず、この辺りでは晴れていても飛行船やネオンやらで星はデカイやつがチラホラとしか見えない。
「晴れてたとしても、これじゃ見れねぇだろ」
「そっかぁ」
そう呟いたぽん子の横顔は遠足前夜に雨が降って絶望するガキかというほど残念そうで、どう見ても大人の女には見えやしない。
が、たまにはロマンチストになってやってもいいかと、俺はぽん子の腕を掴むと、何事かと慌てる声を無視して玄関を出た。
そしてヘルメットを乱暴に被せて、いつものようにぽん子の手はしっかりと俺の腹の前で組ませて発進する。
後ろから「どこに行くの」とか「銀ちゃんてば」と聞こえてくるが、風でなんて言ってる聞こえないフリをして「ちっと黙ってろー」とだけ答えておく。
そうして三十分は走っただろうかという頃に、森へと到着するとぽん子は何でこんな所にと完全に狼狽えていた。
「いーから、もうちょいで着くから黙ってろ」
「さっきから黙ってろばっかりで何よぉ」
だいぶ森の中を走り抜け、頂上付近の駐車場へつく頃には天気はすっかり変わっていた。
他に誰もいないからと適当に駐車し、ぽん子を降ろしてヘルメットを外してやれば、空を見上げたぽん子がわぁわぁと騒ぎ出した。
「銀ちゃん!銀ちゃん!空がすごいよ!星が近い!」
「おーおー、そりゃ良かったな」
雲が消えた空には、大小様々な星空が視界いっぱいに広がっていた。
昔は、なんて言い方をするとオヤジ臭く感じるが、ガキの頃にはこれが普通だったんだよなぁとほんの少しだけ感慨深くなる。
そんな俺を他所に、ぽん子はあの星の名前は何だろうと言いながら、俺の腕をぐいぐいと引っ張りながら空を指差している。
「あー…何だろうな、分かんねぇ」
「そっかぁ~…あっ!」
「今度は何だよ」
「流れ星が見えたの!また見えないかな」
ぽん子は一度見えた流れ星を目で追ったのか、俺とは反対方向を見上げていたが、ゆっくりと見回し始めた。
「流れ星ねぇ。んな叶うかどうかも分かんねーもんに…」
「でも叶うかも知れないでしょ?」
「へーへー。何てお願いすんの?」
俺の問いかけに、ぽん子は俺の手をぎゅっと握って恥ずかしそうに笑って言った。
「来年も、銀ちゃんと天の川見られますようにって!」
素直すぎる答えに、不覚にも胸がきゅっと締め付けられてしまった。
わざわざ星を見に行くなんて慣れないことをしたから、ちっとおかしくなってしまったのかも知れない。
「……ベタ過ぎて減点。来年はもっといい答え考えなきゃな」
そう言いながら、俺はぽん子の手に指を絡めて繋ぎ直した。
2021 07 07