短編
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五十回目の夢を叶えるための旅
始まりは些細な事だった。僕達からしたらそれ程でもないけれど、人間からしたらかなり前の話になる。
親友のサムと出会って、ディセプティコンと闘って、NESTが創られたすぐ後。久々に呼び出しを受けて渋々NESTへ向かうと彼女が居た。動きから新参者って感じがする、初々しい人間だった。最初の頃は存在すら知らなかったけれど、毎回声を掛けてくる彼女と段々仲を深めていった。当時はサムが一番だったから暇な時しか話をしなかったってのは、今考えるとすっごく酷い話。それが何回か続いたある日、彼女に質問をしてみた。
『"夢" "ある?"』
「夢?沢山ありますよ!まずはー、好きな物を腹いっぱい食べることでしょ?それから〜」
彼女はペラペラと自分の夢を語ったかと思うと悲しそうな表情をした。それが酷くスパークに焼き付けられて、つい口走ってしまったんだ。
『"叶えてあげる" "この俺様がなぁ!"』
別に他意は無かった。ただ、当時はサムもジュケンベンキョウが忙しくて暇だっただけ。暇潰しのついでだった。それなのに彼女は花が咲いたように笑ったんだ。思えば、それが僕の長い永い恋の始まりだったかも……なんて。その時は気付きもしなかったけど。
ああ、それと、約束の決行日を決めた時も僕は未だに覚えている。
「日程?じゃあ来週の水曜日にしてもらおうかな。」
『"オッケー!" "何故" "その日" "なのだ!"』
「うふふ、実はね、その日はね、私の誕生日なの!」
嬉しそうに笑いが毀れる彼女を見て僕は落胆した。だって、理由は予想以上にショウモナイことだったから。勿論、今はそう思わない。とにかく、彼女の誕生した記念すべき日を僕は貰えた訳だ。それで次の週の水曜日の夜。彼女を連れて、人気のない野原にやってきた。そこで彼女がかなりの時間をかけて考え抜いた夢の一つがやっと叶えられる。広大に広がる野原に飛び込んだ彼女は、目を輝かせながら僕に語りかけてきた。
調子に乗った僕を窘めながら、彼女は僕ではなく空を見た。僕もそれに釣られて空を見ると、そこには満天の星空があった。確かに、地球に来てから結構経つし夜空は見慣れてる。だけど彼女と見る夜空は別格で、とっても綺麗だった。でも、やっぱり一番綺麗だったのは彼女だったよ。
「今、私たちがしてる事って旅みたいじゃないですか。だから私は今、二つの夢を叶えてる!」
嬉しそうに両腕を広げる彼女は声を張上げた。そこで僕は一つの提案を持ちかけた。
『"じゃあ" "毎年" "しよう" "私からの" "誕生日プレゼントよ"』
それに目を見開いた彼女は少し時間を置いて破顔した。急いだ様子で立ち上がると、僕に近付いて小指を差し出してきた。それに金属の指を宛てがうと、彼女の細い指では巻き付けられなかったのか握ってくる。それを上下に揺らしながら彼女は囁いたんだ。
「約束ですよ。」
その後、帰りの僕の中で彼女はハンドルを握りながら彼女はこう発した。
「ずっと考えてたんだけどね?毎年、私の夢を叶えてくれるってことは旅も毎年ってことでしょ?だったらそれって、夢を叶えるための旅じゃない?」
何を言っているのか分からなかった。かなり眠そうな顔をしてるし、思考回路が回ってなかったんだろう。でも、その〈夢を叶えるための旅〉って響きが気に入ったのは確かだった。たった一日、到底、旅と呼べそうも無い物を旅と彼女は呼んだ。それだけで僕のブレインは満たされたんだ。
それから二年後、三回目の〈夢を叶えるための旅〉は直前に、ディセプティコンが復活したりと大変なことがあったが僕は無理を言ってレノックスに頼み込み、無事決行されることになった。そのやり取りをしている最中に自覚したんだ。僕は彼女に恋をしてる、って。サムとは違う愛に戸惑っていたから三回目はかなり彼女に心配された。それも逆効果だったけど。
更に二年後、四回目の〈夢を叶えるための旅〉はかなり苦戦した。やっぱりディセプティコンが復活して僕はまた頼み込んだんだ!でも、彼女は「シカゴで死んだ人々を思うと楽しめない」と言って無理やり中止しそうになった。僕は、彼女がこの日を前々から楽しみにしていたことを知っていたし、シカゴの激戦もこの日のおかげで生き残れたと言っていた。だから半ば強引に彼女の夢を叶えた。まぁ、内容はかなり酷いものだったし、彼女からも酷評だったけど。
でも、次の五回目の〈夢を叶えるための旅〉は僕の方がかなり辛かった。その年は、未だに彼女に気持ちを打ち明けられずに燻っていた僕の元に、一人の男が彼女と共にやってきたんだ。男は彼女と腕を組んでて、その時点でかなり嫌な予感はしてた。そう、してたんだ。
「ビー、君にはどうしても紹介したくて。今いいかな?」
『"おう" "まさか" "彼はボーイフレンド?"』
九割冗談、一割本当、そんな言葉に返された言葉は僕を一瞬で地獄へ落とすには十分だった。彼女は少し照れたように笑った後、更に男と距離を縮めた。
「…うん。」
それからの記憶は無い。きちんと返事出来ていたのかも分からない。気が付いたらサイドスワイプが僕の肩を叩いてて、後ろの方で平和協定を結んだディセプティコンの奴らが笑っていたのは覚えてる。その後にその奴らを滅多打ちにしたのも。
まぁ、そんな中で過ごした五回目は平和な訳が無いよね。新しく開発されたヒューマンモードを搭載して彼女をオトそうと考えていたのに全てがおジャンになったから、僕は人間の姿のまま不貞腐れていた。何も知らない彼女は必死で僕を元気づけようと頑張っていた。
『"彼と" "誕生日" "過ごせばよかったのに"』
明らかに意地悪な質問を彼女は困ったように笑いながら、「約束だから」と照れながら話した姿は今でも忘れられない。
六回目は彼女の結婚式と被った。彼女が意図したらしい。だから、僕はそこで〈夢を叶えるための旅〉をすることになったわけ。もう、最悪。何も知らなかった奴らが囃し立てるからウザったいし、彼女も彼女で浮かれ気分でドジばっか。でも、一番最悪だったのは、彼女の横に僕が居ないこと、彼女が生涯の愛を誓う相手が僕じゃないこと。例の男と口付けを交わす彼女は美しかった。ホントに憎たらしいほど。
八回目は彼女の出産の直前だったから病室で行った。
『"なんで" "同じタイミング" "私と仕事、どっちが大切なの!?"』
「そんなこと言われてもなぁ…」
今回もかなり僕が辛かったのは言うまでもないよね。彼女への愛が一番強くなった頃だったんだ。結婚までならまだチャンスはあると思った。ホントにギリギリだけど。だから妊娠が発覚した時は僕は暫く動けなかったよ。彼女が子供を産む、別の男の。それを考えれば考えるほど憂鬱になったし、仕事も上手くこなせない。でも、〈夢を叶えるための旅〉はしたかった。彼女を愛していたから。だから僕は彼女の病室に向かったんだ。
記念すべき十回目!僕は彼女と盛大な〈夢を叶えるための旅〉をすべく用意していた。でも十回目も病室で行った。彼女の二回目の妊娠だったからだ。もうここまで来たら何も感じなくなった。彼女が他の男とキスをしようが、それ以上をしようが、何も気にならなくなった。むしろ、全てを受け入れられる心を持っていた気がする。彼女の一人目の子供を抱えながら、彼女の手を握った。病室には、僕と彼女、彼女の二人の子供しか居ない中で僕は彼女に言ったんだ。
『"次は" "僕と" "結婚して"』
「もう!バンブルビーったら。」
彼女はいつものように困ったように笑うと、目線を産まれたばかりの子供に向けた。彼女の瞳は昔の軍人の頃のような鋭い物ではなくて、母親の優しい物だった。それが酷く僕のスパークに突き刺さった。
それから二十回目、三十回目、四十回目が過ぎた。その間に彼女には孫も出来て、シワも白髪も増えた。体力も減ったから昔のように走り回ることは出来ない。男?ああ、彼は四十二回目の年に亡くなっちゃったんだ。彼女、すっごく涙を流してて。でも、その瞼にもシワが沢山あったんだ。それに対して僕は昔のまま。彼女が軍人をしていた頃のままなんだ。それがとっても辛くて、辛くて、どうしようもなかったのを覚えてる。
四十五回目は彼女をあの日行った野原に連れて行った。彼女の夢だったから。彼女はあの人同じように空を見ると、僕に微笑んだ。
「ビー、五十回目は君の星に行きたいなぁ。」
『"まだ" "四十五" "回目"』
「うふふ、大掛かりなことは早めに言っといた方がいいでしょ?」
その会話を最後に四十五回目は終わった。次の年には四十六回目、その次の年に四十七回目、更に次の年に四十八回目、去年に四十九回目をした。だから今年が五十回目なんだよ。
そう語った後、力なく笑うバンブルビーにどう返すべきかオプティマスは悩んだ。昔から関わりのあった女軍人の事は知っていたし、その者がつい最近に亡くなり、バンブルビーがそれに心を痛めているということも知っていた。しかし、バンブルビーが彼女へここまでの気持ちを抱えているとは思いもしなかったのだ。シカゴの悲劇からかなりの年月が経った。天寿を全うした者もかなり居る。いつだって別れという物は苦しい。
『バンブルビー……今は辛い時だろう。暫く休暇を取るといい。私から人間には伝えておこう。』
『ありがとう、オプティマス。』
彼女が好んでいたラジオのツギハギ音声ではなく、バンブルビー自身から返事が返ってくる。とっくの昔…四十年程前に治った発声器官から、コロコロとした音を奏でながらバンブルビーはその場を立ち去った。
数ヶ月後、彼女の葬式の日。親族以外に多種多様な髪色をした男達が参列者として参加した。亡くなった彼女の孫が男達に問う。
「失礼ですが、どちら様で…?」
男達は互いに顔を見合わせる。少し困ったように青髪のガタイのいい男が答える。
『我々は彼女の戦友だ。』
ノイズの含まれた声は不思議と説得力を増している。式が既に執り行われた会場には、その男達と数人の人間のみ。唯一事情を知っている娘二人は外へと出てしまっている。すると、集団の後方に佇んでいた蜂蜜色の髪の男が、彼女の孫の横を通り抜け、そのまま彼女の棺へと歩んだ。やがて、足を止めると棺に手を添えゆっくりと膝を折った。
『どうして僕を置いていくんだ…いかないで……いかないでよ!』
そう叫ぶと、泣き出してしまった男を更に別の男が引き摺り出す。そのまま男達の集団は立ち去ってしまった。ふと、遠くの方で、先程の青髪の男が申し訳なさそうに頭を下げているのが視界に写った。
数年後、彼女の墓には今日も赤いアネモネが添えられている。
始まりは些細な事だった。僕達からしたらそれ程でもないけれど、人間からしたらかなり前の話になる。
親友のサムと出会って、ディセプティコンと闘って、NESTが創られたすぐ後。久々に呼び出しを受けて渋々NESTへ向かうと彼女が居た。動きから新参者って感じがする、初々しい人間だった。最初の頃は存在すら知らなかったけれど、毎回声を掛けてくる彼女と段々仲を深めていった。当時はサムが一番だったから暇な時しか話をしなかったってのは、今考えるとすっごく酷い話。それが何回か続いたある日、彼女に質問をしてみた。
『"夢" "ある?"』
「夢?沢山ありますよ!まずはー、好きな物を腹いっぱい食べることでしょ?それから〜」
彼女はペラペラと自分の夢を語ったかと思うと悲しそうな表情をした。それが酷くスパークに焼き付けられて、つい口走ってしまったんだ。
『"叶えてあげる" "この俺様がなぁ!"』
別に他意は無かった。ただ、当時はサムもジュケンベンキョウが忙しくて暇だっただけ。暇潰しのついでだった。それなのに彼女は花が咲いたように笑ったんだ。思えば、それが僕の長い永い恋の始まりだったかも……なんて。その時は気付きもしなかったけど。
ああ、それと、約束の決行日を決めた時も僕は未だに覚えている。
「日程?じゃあ来週の水曜日にしてもらおうかな。」
『"オッケー!" "何故" "その日" "なのだ!"』
「うふふ、実はね、その日はね、私の誕生日なの!」
嬉しそうに笑いが毀れる彼女を見て僕は落胆した。だって、理由は予想以上にショウモナイことだったから。勿論、今はそう思わない。とにかく、彼女の誕生した記念すべき日を僕は貰えた訳だ。それで次の週の水曜日の夜。彼女を連れて、人気のない野原にやってきた。そこで彼女がかなりの時間をかけて考え抜いた夢の一つがやっと叶えられる。広大に広がる野原に飛び込んだ彼女は、目を輝かせながら僕に語りかけてきた。
調子に乗った僕を窘めながら、彼女は僕ではなく空を見た。僕もそれに釣られて空を見ると、そこには満天の星空があった。確かに、地球に来てから結構経つし夜空は見慣れてる。だけど彼女と見る夜空は別格で、とっても綺麗だった。でも、やっぱり一番綺麗だったのは彼女だったよ。
「今、私たちがしてる事って旅みたいじゃないですか。だから私は今、二つの夢を叶えてる!」
嬉しそうに両腕を広げる彼女は声を張上げた。そこで僕は一つの提案を持ちかけた。
『"じゃあ" "毎年" "しよう" "私からの" "誕生日プレゼントよ"』
それに目を見開いた彼女は少し時間を置いて破顔した。急いだ様子で立ち上がると、僕に近付いて小指を差し出してきた。それに金属の指を宛てがうと、彼女の細い指では巻き付けられなかったのか握ってくる。それを上下に揺らしながら彼女は囁いたんだ。
「約束ですよ。」
その後、帰りの僕の中で彼女はハンドルを握りながら彼女はこう発した。
「ずっと考えてたんだけどね?毎年、私の夢を叶えてくれるってことは旅も毎年ってことでしょ?だったらそれって、夢を叶えるための旅じゃない?」
何を言っているのか分からなかった。かなり眠そうな顔をしてるし、思考回路が回ってなかったんだろう。でも、その〈夢を叶えるための旅〉って響きが気に入ったのは確かだった。たった一日、到底、旅と呼べそうも無い物を旅と彼女は呼んだ。それだけで僕のブレインは満たされたんだ。
それから二年後、三回目の〈夢を叶えるための旅〉は直前に、ディセプティコンが復活したりと大変なことがあったが僕は無理を言ってレノックスに頼み込み、無事決行されることになった。そのやり取りをしている最中に自覚したんだ。僕は彼女に恋をしてる、って。サムとは違う愛に戸惑っていたから三回目はかなり彼女に心配された。それも逆効果だったけど。
更に二年後、四回目の〈夢を叶えるための旅〉はかなり苦戦した。やっぱりディセプティコンが復活して僕はまた頼み込んだんだ!でも、彼女は「シカゴで死んだ人々を思うと楽しめない」と言って無理やり中止しそうになった。僕は、彼女がこの日を前々から楽しみにしていたことを知っていたし、シカゴの激戦もこの日のおかげで生き残れたと言っていた。だから半ば強引に彼女の夢を叶えた。まぁ、内容はかなり酷いものだったし、彼女からも酷評だったけど。
でも、次の五回目の〈夢を叶えるための旅〉は僕の方がかなり辛かった。その年は、未だに彼女に気持ちを打ち明けられずに燻っていた僕の元に、一人の男が彼女と共にやってきたんだ。男は彼女と腕を組んでて、その時点でかなり嫌な予感はしてた。そう、してたんだ。
「ビー、君にはどうしても紹介したくて。今いいかな?」
『"おう" "まさか" "彼はボーイフレンド?"』
九割冗談、一割本当、そんな言葉に返された言葉は僕を一瞬で地獄へ落とすには十分だった。彼女は少し照れたように笑った後、更に男と距離を縮めた。
「…うん。」
それからの記憶は無い。きちんと返事出来ていたのかも分からない。気が付いたらサイドスワイプが僕の肩を叩いてて、後ろの方で平和協定を結んだディセプティコンの奴らが笑っていたのは覚えてる。その後にその奴らを滅多打ちにしたのも。
まぁ、そんな中で過ごした五回目は平和な訳が無いよね。新しく開発されたヒューマンモードを搭載して彼女をオトそうと考えていたのに全てがおジャンになったから、僕は人間の姿のまま不貞腐れていた。何も知らない彼女は必死で僕を元気づけようと頑張っていた。
『"彼と" "誕生日" "過ごせばよかったのに"』
明らかに意地悪な質問を彼女は困ったように笑いながら、「約束だから」と照れながら話した姿は今でも忘れられない。
六回目は彼女の結婚式と被った。彼女が意図したらしい。だから、僕はそこで〈夢を叶えるための旅〉をすることになったわけ。もう、最悪。何も知らなかった奴らが囃し立てるからウザったいし、彼女も彼女で浮かれ気分でドジばっか。でも、一番最悪だったのは、彼女の横に僕が居ないこと、彼女が生涯の愛を誓う相手が僕じゃないこと。例の男と口付けを交わす彼女は美しかった。ホントに憎たらしいほど。
八回目は彼女の出産の直前だったから病室で行った。
『"なんで" "同じタイミング" "私と仕事、どっちが大切なの!?"』
「そんなこと言われてもなぁ…」
今回もかなり僕が辛かったのは言うまでもないよね。彼女への愛が一番強くなった頃だったんだ。結婚までならまだチャンスはあると思った。ホントにギリギリだけど。だから妊娠が発覚した時は僕は暫く動けなかったよ。彼女が子供を産む、別の男の。それを考えれば考えるほど憂鬱になったし、仕事も上手くこなせない。でも、〈夢を叶えるための旅〉はしたかった。彼女を愛していたから。だから僕は彼女の病室に向かったんだ。
記念すべき十回目!僕は彼女と盛大な〈夢を叶えるための旅〉をすべく用意していた。でも十回目も病室で行った。彼女の二回目の妊娠だったからだ。もうここまで来たら何も感じなくなった。彼女が他の男とキスをしようが、それ以上をしようが、何も気にならなくなった。むしろ、全てを受け入れられる心を持っていた気がする。彼女の一人目の子供を抱えながら、彼女の手を握った。病室には、僕と彼女、彼女の二人の子供しか居ない中で僕は彼女に言ったんだ。
『"次は" "僕と" "結婚して"』
「もう!バンブルビーったら。」
彼女はいつものように困ったように笑うと、目線を産まれたばかりの子供に向けた。彼女の瞳は昔の軍人の頃のような鋭い物ではなくて、母親の優しい物だった。それが酷く僕のスパークに突き刺さった。
それから二十回目、三十回目、四十回目が過ぎた。その間に彼女には孫も出来て、シワも白髪も増えた。体力も減ったから昔のように走り回ることは出来ない。男?ああ、彼は四十二回目の年に亡くなっちゃったんだ。彼女、すっごく涙を流してて。でも、その瞼にもシワが沢山あったんだ。それに対して僕は昔のまま。彼女が軍人をしていた頃のままなんだ。それがとっても辛くて、辛くて、どうしようもなかったのを覚えてる。
四十五回目は彼女をあの日行った野原に連れて行った。彼女の夢だったから。彼女はあの人同じように空を見ると、僕に微笑んだ。
「ビー、五十回目は君の星に行きたいなぁ。」
『"まだ" "四十五" "回目"』
「うふふ、大掛かりなことは早めに言っといた方がいいでしょ?」
その会話を最後に四十五回目は終わった。次の年には四十六回目、その次の年に四十七回目、更に次の年に四十八回目、去年に四十九回目をした。だから今年が五十回目なんだよ。
そう語った後、力なく笑うバンブルビーにどう返すべきかオプティマスは悩んだ。昔から関わりのあった女軍人の事は知っていたし、その者がつい最近に亡くなり、バンブルビーがそれに心を痛めているということも知っていた。しかし、バンブルビーが彼女へここまでの気持ちを抱えているとは思いもしなかったのだ。シカゴの悲劇からかなりの年月が経った。天寿を全うした者もかなり居る。いつだって別れという物は苦しい。
『バンブルビー……今は辛い時だろう。暫く休暇を取るといい。私から人間には伝えておこう。』
『ありがとう、オプティマス。』
彼女が好んでいたラジオのツギハギ音声ではなく、バンブルビー自身から返事が返ってくる。とっくの昔…四十年程前に治った発声器官から、コロコロとした音を奏でながらバンブルビーはその場を立ち去った。
数ヶ月後、彼女の葬式の日。親族以外に多種多様な髪色をした男達が参列者として参加した。亡くなった彼女の孫が男達に問う。
「失礼ですが、どちら様で…?」
男達は互いに顔を見合わせる。少し困ったように青髪のガタイのいい男が答える。
『我々は彼女の戦友だ。』
ノイズの含まれた声は不思議と説得力を増している。式が既に執り行われた会場には、その男達と数人の人間のみ。唯一事情を知っている娘二人は外へと出てしまっている。すると、集団の後方に佇んでいた蜂蜜色の髪の男が、彼女の孫の横を通り抜け、そのまま彼女の棺へと歩んだ。やがて、足を止めると棺に手を添えゆっくりと膝を折った。
『どうして僕を置いていくんだ…いかないで……いかないでよ!』
そう叫ぶと、泣き出してしまった男を更に別の男が引き摺り出す。そのまま男達の集団は立ち去ってしまった。ふと、遠くの方で、先程の青髪の男が申し訳なさそうに頭を下げているのが視界に写った。
数年後、彼女の墓には今日も赤いアネモネが添えられている。
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