ぼくらのプリズム
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第4話 年下の女の子
来週からは麻衣と友香里にとって、中学生活初めての夏休みだ。友香里はよく男子生徒に呼び出されるようになっていた。可愛らしい容姿に明るい性格の友香里が男子生徒に人気が出ないわけがなく、夏休みに入る前に玉砕覚悟で、と彼女に告白する男子が後を絶たなかった。
昼休み、友香里が呼び出されている間、麻衣は教室で読書をしながら友香里の帰りを待つ。そんな麻衣に一人の男子生徒が話しかけた。
「支倉さん、今ちょっとええか?」
「あ、うん。どないしたん?」
「その、今日、放課後ちょっと時間くれへん?帰りのホームルーム終わったら、校舎裏で待っとるから」
ほな、と要件だけ伝えた後、少し赤い顔をしてすぐに麻衣の元から去っていった彼は、クラスメイトだった。バスケットボール部に所属する、女子からも結構人気のある少年だ。ただ、麻衣とはそんなに接点もなく、特別仲が良いわけではない。ただ、この様子は――麻衣は少し緊張した。いやいや、勘違いかもしれへん。たぶん勘違い。うん。
そして、放課後。麻衣は約束通り校舎裏に来ていた。ど定番の告白スポットだ。ただ、幸い今日は彼と自分以外には人の気配がない。
「来てくれてありがとう」
「ううん。それで、どないしたん?」
「……俺、支倉さんのことが好きやねん。付き合ってください」
やっぱり勘違いやなかったんや。と、麻衣は頭の先から爪先まで一気に身体が熱くなったように感じた。生まれて初めて受けた愛の告白。相手の少年も、顔が真っ赤になっている。本気なんやな。一生懸命勇気出して伝えてくれたんやな。そう思ったら、とても嬉しい。ただ、彼のことを恋愛対象として好きかと問われたら、正直考えたことはなかった。
「――あ、ありがとう。気持ちめっちゃ嬉しい。せやけど、ごめんなさい、その、付き合うとかは考えたことなくて」
「……他に好きな人おるん?」
「あ、いや、おれへんけど……」
「せやったら、付き合ってみてから考えるんはどうかな。俺、支倉さんのことずっと可愛くて優しくてええ子やなって思っとった。支倉さんが彼女になってくれたら、カッコええとこ見せたろって、もっとバスケも頑張れる気がすんねん」
そう言う彼はとても真っ直ぐな瞳をしていて、麻衣の心は少し揺らいだ。人生で初めて、それも素敵な男の子に告白をされて、恋愛に憧れがないわけではない、承諾してみても良いかもしれない、ふとそんな考えが頭をよぎったが、思い直した。逆にこんな誠実な彼だからこそ、こんな中途半端な気持ちで付き合うのは良くないのではないか。
「――やっぱり付き合えへん。それだけ真剣に想ってくれてるからこそ、私もちゃんと真剣に好きになるまでは付き合えへん。ほんまにごめんなさい」
身体を90度に折り曲げる勢いで、麻衣は頭を下げた。それを見た彼は、笑った。
「断り方も、やっぱり支倉さんらしいな」
「……そ、そうかな。でもめっちゃ嬉しかったのはほんまやから」
「その言葉聞けて俺も嬉しい。おおきに。お互い夏休み楽しもな!」
そのまま彼は、そろそろバスケ部の練習やから、と足早に去っていった。校舎裏に残された麻衣自身も、部活の前に一旦教室に戻ろうと歩き出す。その時、なんとなく人の気配を感じた。
「?」
振り返ってみたけれど、誰もいない。え、幽霊とか?!そういうの私見えるタイプちゃうねんけど。深く考えると背筋がゾクゾクしてきたので、考えるのをやめて、小走りで教室に戻ることにした。
*
――何や、めっちゃ悪いことしてる気分やわ。
校舎の陰で、白石は壁に寄りかかりながらため息をついた。いつものように女子から校舎裏に呼び出され、指定された時間より少し前に校舎裏に着いた。と思ったら、先客がいた。それも、まさかの顔見知りだ。
告白されとる女の子、麻衣ちゃんやんな。麻衣ちゃん、モテんねんな。相手の男子、めっちゃ本気の告白やん。結構イケメンやし。
覗くつもりはなかったが、そのまま立ち去っても二人に自分の足音が聞こえてしまうような気がして、陰に隠れることを選択した。聞きたくなくても声は聞こえてくる。そのうち麻衣の口から「ほんまにごめんなさい」というフレーズが聞こえて、白石はなんとなく胸を撫で下ろした。彼女は妹の親友だ、妹の友香里と重ね合わせてしまい、兄心が現れる。まだ彼氏とかそういうんは早いで。
そのうち、少年の方は去っていき、残された麻衣がふとこちらのほうを一瞥したから、白石はどきりとした。やばい、見つかる。思わず息を潜めた。幸い麻衣はこちらを気づかずに足早に去っていったので、白石はやっと校舎の陰から表に現れることができた。
「白石くん、来てくれたんや」
「あ――キミは確か……」
そして、いつものように、あまり話したことのない女子から告白をされ、いつものように丁重に断る。目の前の女子は自分のことを真剣に好いてくれている。それは理解できたが、白石にとっては、申し訳ないが、顔も名前も朧げだった。
*
白石が部活を終えて帰宅すると、先に帰宅していた姉と妹がリビングで盛り上がっていた。どうやら恋愛の話らしい。
「なんや友香里、また断ったん?」
「せやかて、知らん男の子に好きや言われても」
「あー確かにわかるわ」
身内の自慢をするわけではないが、姉も妹・友香里も、容姿はかなり整っており、異性ウケが良い。このような会話は良く聞こえてきていた。そして男女が入れ替わったとて悩み事は結局同じか、と白石は心の中で独りごちた。
「そういえば今日、麻衣も告白されて断ったらしいねん。相手、同じクラスのバスケ部の男子なんやけど」
「へえ、麻衣ちゃんもモテるんやなぁ」
「麻衣、可愛えし、性格もええ子やからなあ。麻衣のこと好きになる男子は見る目あるわ。この告白のことやって、私がLINEで聞いたから答えただけで、自分からは絶対言わへんし。相手の男子に配慮してのことやと思うねん。そういうとこ、ほんまええ子やわ」
「友香里はほんまに麻衣ちゃんのこと好きやね。お姉ちゃんも会ってみたいわ。蔵ノ介は会ったことあるんやろ?」
「えっ、俺?」
突然飛び火をくらい、白石は動揺した。そしてその問いに答えたのは友香里だった。
「会ったことあるどころか、前に私が風邪ひいて休んでた時に麻衣がウチまでお見舞い来てくれてんけど、そのときクーちゃんが麻衣を駅まで送ってくれてん」
「へーそうやったんや」
「どうせやったら、クーちゃんと麻衣がつきあってくれたらええのにな〜。ほんで結婚してくれたら、麻衣と家族になれるやん?」
友香里のそんな発言に、大人びて見えても、実際は14才、思春期真っ只中の白石は動揺する。
「こら。そういう冗談は言うもんやないで」
「あれっ、蔵ノ介、照れてるん?可愛い〜」
「姉ちゃん。ほんま、からかうのやめや」
「あっ、怒った。可愛え弟やな〜」
姉と妹に挟まれた自分の家庭環境を、白石は恨んだ。2対1、負けるに決まっとるやん。男兄弟が羨ましいわ。
一方で、友香里に言われて初めて、白石は気づいた。冷静に考えれば当たり前なのだが、白石と麻衣は他人であり、友香里の言う通り、付き合おうと思えば付き合うこともできるし、将来結婚しようと思えば結婚することができるのだ。白石の中で、麻衣はあくまで妹の親友であるがゆえ、妹のような存在として認識していたが、当然に、彼女は自分の妹ではなかった。
そう認識した途端、妹の親友だった彼女が、1つ年下の女の子として、輪郭がくっきりと浮かび上がった気がした。
2021.11.29
来週からは麻衣と友香里にとって、中学生活初めての夏休みだ。友香里はよく男子生徒に呼び出されるようになっていた。可愛らしい容姿に明るい性格の友香里が男子生徒に人気が出ないわけがなく、夏休みに入る前に玉砕覚悟で、と彼女に告白する男子が後を絶たなかった。
昼休み、友香里が呼び出されている間、麻衣は教室で読書をしながら友香里の帰りを待つ。そんな麻衣に一人の男子生徒が話しかけた。
「支倉さん、今ちょっとええか?」
「あ、うん。どないしたん?」
「その、今日、放課後ちょっと時間くれへん?帰りのホームルーム終わったら、校舎裏で待っとるから」
ほな、と要件だけ伝えた後、少し赤い顔をしてすぐに麻衣の元から去っていった彼は、クラスメイトだった。バスケットボール部に所属する、女子からも結構人気のある少年だ。ただ、麻衣とはそんなに接点もなく、特別仲が良いわけではない。ただ、この様子は――麻衣は少し緊張した。いやいや、勘違いかもしれへん。たぶん勘違い。うん。
そして、放課後。麻衣は約束通り校舎裏に来ていた。ど定番の告白スポットだ。ただ、幸い今日は彼と自分以外には人の気配がない。
「来てくれてありがとう」
「ううん。それで、どないしたん?」
「……俺、支倉さんのことが好きやねん。付き合ってください」
やっぱり勘違いやなかったんや。と、麻衣は頭の先から爪先まで一気に身体が熱くなったように感じた。生まれて初めて受けた愛の告白。相手の少年も、顔が真っ赤になっている。本気なんやな。一生懸命勇気出して伝えてくれたんやな。そう思ったら、とても嬉しい。ただ、彼のことを恋愛対象として好きかと問われたら、正直考えたことはなかった。
「――あ、ありがとう。気持ちめっちゃ嬉しい。せやけど、ごめんなさい、その、付き合うとかは考えたことなくて」
「……他に好きな人おるん?」
「あ、いや、おれへんけど……」
「せやったら、付き合ってみてから考えるんはどうかな。俺、支倉さんのことずっと可愛くて優しくてええ子やなって思っとった。支倉さんが彼女になってくれたら、カッコええとこ見せたろって、もっとバスケも頑張れる気がすんねん」
そう言う彼はとても真っ直ぐな瞳をしていて、麻衣の心は少し揺らいだ。人生で初めて、それも素敵な男の子に告白をされて、恋愛に憧れがないわけではない、承諾してみても良いかもしれない、ふとそんな考えが頭をよぎったが、思い直した。逆にこんな誠実な彼だからこそ、こんな中途半端な気持ちで付き合うのは良くないのではないか。
「――やっぱり付き合えへん。それだけ真剣に想ってくれてるからこそ、私もちゃんと真剣に好きになるまでは付き合えへん。ほんまにごめんなさい」
身体を90度に折り曲げる勢いで、麻衣は頭を下げた。それを見た彼は、笑った。
「断り方も、やっぱり支倉さんらしいな」
「……そ、そうかな。でもめっちゃ嬉しかったのはほんまやから」
「その言葉聞けて俺も嬉しい。おおきに。お互い夏休み楽しもな!」
そのまま彼は、そろそろバスケ部の練習やから、と足早に去っていった。校舎裏に残された麻衣自身も、部活の前に一旦教室に戻ろうと歩き出す。その時、なんとなく人の気配を感じた。
「?」
振り返ってみたけれど、誰もいない。え、幽霊とか?!そういうの私見えるタイプちゃうねんけど。深く考えると背筋がゾクゾクしてきたので、考えるのをやめて、小走りで教室に戻ることにした。
*
――何や、めっちゃ悪いことしてる気分やわ。
校舎の陰で、白石は壁に寄りかかりながらため息をついた。いつものように女子から校舎裏に呼び出され、指定された時間より少し前に校舎裏に着いた。と思ったら、先客がいた。それも、まさかの顔見知りだ。
告白されとる女の子、麻衣ちゃんやんな。麻衣ちゃん、モテんねんな。相手の男子、めっちゃ本気の告白やん。結構イケメンやし。
覗くつもりはなかったが、そのまま立ち去っても二人に自分の足音が聞こえてしまうような気がして、陰に隠れることを選択した。聞きたくなくても声は聞こえてくる。そのうち麻衣の口から「ほんまにごめんなさい」というフレーズが聞こえて、白石はなんとなく胸を撫で下ろした。彼女は妹の親友だ、妹の友香里と重ね合わせてしまい、兄心が現れる。まだ彼氏とかそういうんは早いで。
そのうち、少年の方は去っていき、残された麻衣がふとこちらのほうを一瞥したから、白石はどきりとした。やばい、見つかる。思わず息を潜めた。幸い麻衣はこちらを気づかずに足早に去っていったので、白石はやっと校舎の陰から表に現れることができた。
「白石くん、来てくれたんや」
「あ――キミは確か……」
そして、いつものように、あまり話したことのない女子から告白をされ、いつものように丁重に断る。目の前の女子は自分のことを真剣に好いてくれている。それは理解できたが、白石にとっては、申し訳ないが、顔も名前も朧げだった。
*
白石が部活を終えて帰宅すると、先に帰宅していた姉と妹がリビングで盛り上がっていた。どうやら恋愛の話らしい。
「なんや友香里、また断ったん?」
「せやかて、知らん男の子に好きや言われても」
「あー確かにわかるわ」
身内の自慢をするわけではないが、姉も妹・友香里も、容姿はかなり整っており、異性ウケが良い。このような会話は良く聞こえてきていた。そして男女が入れ替わったとて悩み事は結局同じか、と白石は心の中で独りごちた。
「そういえば今日、麻衣も告白されて断ったらしいねん。相手、同じクラスのバスケ部の男子なんやけど」
「へえ、麻衣ちゃんもモテるんやなぁ」
「麻衣、可愛えし、性格もええ子やからなあ。麻衣のこと好きになる男子は見る目あるわ。この告白のことやって、私がLINEで聞いたから答えただけで、自分からは絶対言わへんし。相手の男子に配慮してのことやと思うねん。そういうとこ、ほんまええ子やわ」
「友香里はほんまに麻衣ちゃんのこと好きやね。お姉ちゃんも会ってみたいわ。蔵ノ介は会ったことあるんやろ?」
「えっ、俺?」
突然飛び火をくらい、白石は動揺した。そしてその問いに答えたのは友香里だった。
「会ったことあるどころか、前に私が風邪ひいて休んでた時に麻衣がウチまでお見舞い来てくれてんけど、そのときクーちゃんが麻衣を駅まで送ってくれてん」
「へーそうやったんや」
「どうせやったら、クーちゃんと麻衣がつきあってくれたらええのにな〜。ほんで結婚してくれたら、麻衣と家族になれるやん?」
友香里のそんな発言に、大人びて見えても、実際は14才、思春期真っ只中の白石は動揺する。
「こら。そういう冗談は言うもんやないで」
「あれっ、蔵ノ介、照れてるん?可愛い〜」
「姉ちゃん。ほんま、からかうのやめや」
「あっ、怒った。可愛え弟やな〜」
姉と妹に挟まれた自分の家庭環境を、白石は恨んだ。2対1、負けるに決まっとるやん。男兄弟が羨ましいわ。
一方で、友香里に言われて初めて、白石は気づいた。冷静に考えれば当たり前なのだが、白石と麻衣は他人であり、友香里の言う通り、付き合おうと思えば付き合うこともできるし、将来結婚しようと思えば結婚することができるのだ。白石の中で、麻衣はあくまで妹の親友であるがゆえ、妹のような存在として認識していたが、当然に、彼女は自分の妹ではなかった。
そう認識した途端、妹の親友だった彼女が、1つ年下の女の子として、輪郭がくっきりと浮かび上がった気がした。
2021.11.29