ぼくらのプリズム
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支倉麻衣は、今日も主のいない机を眺めては、その主の体調を気にしていた。親友である白石友香里が、月曜から風邪で学校を休み始めてもう5日目。今日は金曜日だ。いつも笑顔で元気の良い彼女が1週間も休むなんて。月曜日に『大丈夫?』と送ったLINEは、水曜日にやっと既読がついて、そこから控えめにやりとりはしていたが、まだ微熱が下がらないらしい。
『あと熱だけやねんけどなぁ。1週間も休んでもうて、来週から授業ついていかれへんかったらどうしよ』
友香里からのそんなLINEに、麻衣は閃いた。1週間分のノートをコピーを手土産に、友香里のお見舞いに行こう。
第2話 お見舞い
金曜日の放課後、友香里に教えてもらった住所をスマホの地図で検索して、たどり着いたのは、とある立派な一軒家。表札に「白石」と出ているから、間違いなさそうだ。少し緊張しながら、インターホンのボタンを押すと、優しそうな女性の声が『麻衣ちゃん?』と問いかける。
「はい、そうです…!」
『わざわざありがとう。今から行くからちょお待っとってな』
きっと友香里のお母さんだ。そう思いながらそのまま少し外で待っていると、友香里の母と思われる美人な女性がすぐに玄関に現れた。
「麻衣ちゃん、いつも友香里と仲良うしてくれてほんまにありがとう。友香里が学校の話するとき、いつも麻衣ちゃんの名前出てくるんよ」
友香里の母は、麻衣を招き入れるなりそう言って笑う。その雰囲気が誰かに似ているような気がした──白石先輩だ。友香里の母ということは、この女性は友香里の兄である白石蔵ノ介の母でもあるのだ。そんな当たり前の事実に改めて気づく。
一度だけ、麻衣は友香里の兄・蔵ノ介に会ったことがある。その時は全く前情報無しだったが、今となって友香里が2年の教室に行きにくいと悩んでいた理由が理解できた。
白石蔵ノ介はその華やかな容姿もさることながら、2年にして部長となるそのテニスの実力、さらには成績も優秀、かつ穏やかな人柄も兼ね揃えていて、四天宝寺中の女子の憧れの的となる存在だった。麻衣は噂話などを好むタイプではなかったが、そんな彼女の耳にすら、普通に学校生活を送っているだけで、誰が白石に告白しただとか、なんだとか、噂がちらほら入ってきたし、友香里といっしょにいると、他の女子がちらほら『友香里、白石先輩って家でどんな感じなん?』なんて質問しにくることもあって、その度に友香里は不機嫌になっていた。
そんな様子を一番近くで見ていた麻衣は、密かに心に誓った。──私は、友香里の前で白石先輩の話はしないでおこう。だって、友香里は友香里なのだ。彼女は『白石先輩の妹』ではなく、『白石友香里』として固有の存在なのだから。
手洗いうがいをした後、2階にある友香里の部屋に案内してもらう。
「友香里、麻衣ちゃんやで」
「麻衣!ほんまに来てくれたん?めっちゃ嬉しい!」
友香里の母がドアを開けると、その先にはベッドで上半身を起こした状態で、パジャマ姿の友香里が満面の笑みを浮かべていた。
「友香里!元気そうで安心した」
「ほんまに、あと微熱だけやねん。それも37度2分とかそんなんやで。お腹痛いのも鼻水も咳もくしゃみも止まったし」
「……逆にそんなひどかったんや」
「麻衣にうつしたないから、あんまり近寄らんといてね。ほんまはいつもみたいにハグしたいねんけど」
眉を下げて笑う友香里。友香里の母は「麻衣ちゃん、ゆっくりしていってね」と、ローテーブルの上にジュースとお菓子を置く。
「友香里は一応まだ風邪引いてるんやから、食べたらダメやで」
「えー?!」
「まぁ、それだけ食欲戻ってきたんやったら良かったわ。麻衣ちゃん、友香里がお菓子食べすぎんように見といてくれる?」
友香里の母はそう言い残して部屋を出ていった。麻衣は、早速とばかりにスクールバッグを開ける。
「これを友香里に渡したかってん」
「? それ何?」
「1週間分のノートのコピー。先生に事情話したら職員室のコピー機貸してくれてん」
「麻衣のノート?わぁ、めっちゃ嬉しい!麻衣のノートわかりやすいもん。けど重かったやろ?」
「重くない言うたら嘘やけど。でも持てへん重さでもないし、友香里が喜んでくれるんやったら持ってきて良かった」
「……麻衣、ほんまに何食べたらそんなええ子になるん?」
麻衣から渡されたノートのコピーという紙の束をパラパラとめくりながら友香里は問うと、麻衣は何も言わずにはにかんだ顔をしていた。
それから2人は、友香里が休んでいる間のクラスでの出来事など日常話に花が咲いて、長いこと話し込んでしまった。窓の外が暗くなってきたのを感じ、麻衣は時間の経過に気づく。
「…ってあかん、もうこんな遅い時間。そろそろ帰らな迷惑やんな」
「迷惑なことあらへんけど、あんまり遅いと私が心配や。麻衣、可愛えから変な人に誘拐されてまうかもしれへんし」
目の前にいる友香里の方がよっぽど美少女だというのに、と麻衣は複雑な気分になった。でも、決して友香里の家から麻衣の家は近いと言える距離ではない。友香里の家の最寄駅から学校とは反対側に地下鉄に乗った先──新大阪駅の方向に、麻衣の家はある。
「あはは。まぁ誘拐はされへんと思うけど、お夕飯時やと思うしそろそろ帰るね」
「……うん。寂しいけど。月曜は学校行けると思うから」
友香里はそう言って、ベッドの上でひらひらと手を振った。麻衣はそんな友香里に微笑みかけると、彼女の部屋を後にして階段を降りていく。キッチンからは今日の白石家の夕食の香りがして、少しだけ切ない気持ちになった。──やっぱり、こういうのいいな。
「すみません、長居してしまって。お邪魔しました」
「うちは構へんよ。けどもう暗いし、気をつけてな?」
キッチンにいる友香里の母に声をかけると、友香里の母は調理中のコンロの火を止めて、玄関まで見送ってくれた。玄関の靴箱の上の置き時計が午後6時を指している。
「ほな、お邪魔しました」「ただいま」
麻衣が友香里の母に頭を下げて、白石家を後にしようと思ったちょうどその時、玄関のドアがガチャリと開き現れたのは、友香里の兄・白石蔵ノ介であった。
2021.11.16
『あと熱だけやねんけどなぁ。1週間も休んでもうて、来週から授業ついていかれへんかったらどうしよ』
友香里からのそんなLINEに、麻衣は閃いた。1週間分のノートをコピーを手土産に、友香里のお見舞いに行こう。
第2話 お見舞い
金曜日の放課後、友香里に教えてもらった住所をスマホの地図で検索して、たどり着いたのは、とある立派な一軒家。表札に「白石」と出ているから、間違いなさそうだ。少し緊張しながら、インターホンのボタンを押すと、優しそうな女性の声が『麻衣ちゃん?』と問いかける。
「はい、そうです…!」
『わざわざありがとう。今から行くからちょお待っとってな』
きっと友香里のお母さんだ。そう思いながらそのまま少し外で待っていると、友香里の母と思われる美人な女性がすぐに玄関に現れた。
「麻衣ちゃん、いつも友香里と仲良うしてくれてほんまにありがとう。友香里が学校の話するとき、いつも麻衣ちゃんの名前出てくるんよ」
友香里の母は、麻衣を招き入れるなりそう言って笑う。その雰囲気が誰かに似ているような気がした──白石先輩だ。友香里の母ということは、この女性は友香里の兄である白石蔵ノ介の母でもあるのだ。そんな当たり前の事実に改めて気づく。
一度だけ、麻衣は友香里の兄・蔵ノ介に会ったことがある。その時は全く前情報無しだったが、今となって友香里が2年の教室に行きにくいと悩んでいた理由が理解できた。
白石蔵ノ介はその華やかな容姿もさることながら、2年にして部長となるそのテニスの実力、さらには成績も優秀、かつ穏やかな人柄も兼ね揃えていて、四天宝寺中の女子の憧れの的となる存在だった。麻衣は噂話などを好むタイプではなかったが、そんな彼女の耳にすら、普通に学校生活を送っているだけで、誰が白石に告白しただとか、なんだとか、噂がちらほら入ってきたし、友香里といっしょにいると、他の女子がちらほら『友香里、白石先輩って家でどんな感じなん?』なんて質問しにくることもあって、その度に友香里は不機嫌になっていた。
そんな様子を一番近くで見ていた麻衣は、密かに心に誓った。──私は、友香里の前で白石先輩の話はしないでおこう。だって、友香里は友香里なのだ。彼女は『白石先輩の妹』ではなく、『白石友香里』として固有の存在なのだから。
手洗いうがいをした後、2階にある友香里の部屋に案内してもらう。
「友香里、麻衣ちゃんやで」
「麻衣!ほんまに来てくれたん?めっちゃ嬉しい!」
友香里の母がドアを開けると、その先にはベッドで上半身を起こした状態で、パジャマ姿の友香里が満面の笑みを浮かべていた。
「友香里!元気そうで安心した」
「ほんまに、あと微熱だけやねん。それも37度2分とかそんなんやで。お腹痛いのも鼻水も咳もくしゃみも止まったし」
「……逆にそんなひどかったんや」
「麻衣にうつしたないから、あんまり近寄らんといてね。ほんまはいつもみたいにハグしたいねんけど」
眉を下げて笑う友香里。友香里の母は「麻衣ちゃん、ゆっくりしていってね」と、ローテーブルの上にジュースとお菓子を置く。
「友香里は一応まだ風邪引いてるんやから、食べたらダメやで」
「えー?!」
「まぁ、それだけ食欲戻ってきたんやったら良かったわ。麻衣ちゃん、友香里がお菓子食べすぎんように見といてくれる?」
友香里の母はそう言い残して部屋を出ていった。麻衣は、早速とばかりにスクールバッグを開ける。
「これを友香里に渡したかってん」
「? それ何?」
「1週間分のノートのコピー。先生に事情話したら職員室のコピー機貸してくれてん」
「麻衣のノート?わぁ、めっちゃ嬉しい!麻衣のノートわかりやすいもん。けど重かったやろ?」
「重くない言うたら嘘やけど。でも持てへん重さでもないし、友香里が喜んでくれるんやったら持ってきて良かった」
「……麻衣、ほんまに何食べたらそんなええ子になるん?」
麻衣から渡されたノートのコピーという紙の束をパラパラとめくりながら友香里は問うと、麻衣は何も言わずにはにかんだ顔をしていた。
それから2人は、友香里が休んでいる間のクラスでの出来事など日常話に花が咲いて、長いこと話し込んでしまった。窓の外が暗くなってきたのを感じ、麻衣は時間の経過に気づく。
「…ってあかん、もうこんな遅い時間。そろそろ帰らな迷惑やんな」
「迷惑なことあらへんけど、あんまり遅いと私が心配や。麻衣、可愛えから変な人に誘拐されてまうかもしれへんし」
目の前にいる友香里の方がよっぽど美少女だというのに、と麻衣は複雑な気分になった。でも、決して友香里の家から麻衣の家は近いと言える距離ではない。友香里の家の最寄駅から学校とは反対側に地下鉄に乗った先──新大阪駅の方向に、麻衣の家はある。
「あはは。まぁ誘拐はされへんと思うけど、お夕飯時やと思うしそろそろ帰るね」
「……うん。寂しいけど。月曜は学校行けると思うから」
友香里はそう言って、ベッドの上でひらひらと手を振った。麻衣はそんな友香里に微笑みかけると、彼女の部屋を後にして階段を降りていく。キッチンからは今日の白石家の夕食の香りがして、少しだけ切ない気持ちになった。──やっぱり、こういうのいいな。
「すみません、長居してしまって。お邪魔しました」
「うちは構へんよ。けどもう暗いし、気をつけてな?」
キッチンにいる友香里の母に声をかけると、友香里の母は調理中のコンロの火を止めて、玄関まで見送ってくれた。玄関の靴箱の上の置き時計が午後6時を指している。
「ほな、お邪魔しました」「ただいま」
麻衣が友香里の母に頭を下げて、白石家を後にしようと思ったちょうどその時、玄関のドアがガチャリと開き現れたのは、友香里の兄・白石蔵ノ介であった。
2021.11.16