ぼくらのプリズム
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白石友香里、中学1年生。彼女が中学に入学して初めてできた親友が、支倉麻衣だった。
きっかけは本当に些細なことだ、友香里が机の下に落としてしまったシャープペンを、偶然そこを通りかかった麻衣が拾ってあげたこと。それをきっかけに、いつの間にか二人はいつもお弁当を一緒に広げる無二の親友になっていたのだった。
第1話 妹の友だち
「友香里、お願いがあんねん。お母さんな、クーちゃんのお弁当にフルーツの入ったタッパー入れるの忘れてもうて。学校でクーちゃんに届けてくれる?」
そう母に渡された、タッパーの入った巾着袋を、友香里は持て余していた。
「おはよう友香里、って、朝から悩んでそうやなぁ。どないしたん?」
「あ、麻衣!おはよう」
ホームルームの始まる前の朝の時間、登校するなり麻衣はいつになく眉根を寄せて深刻な顔をしている友香里に話しかける。友香里はそんな親友に悩みを告白することにした。
「あんなぁ、今朝、うちのお母さん、クーちゃんのお弁当にフルーツ入れ忘れたんやって」
「……『クーちゃん』?」
「あ、ごめん、クーちゃんイコール私のお兄ちゃん」
「へえ、友香里、お兄ちゃんおったん?」
「え、麻衣、逆に知らんかったん?!」
友香里は驚いた。白石蔵ノ介──彼女の1つ年上の兄は、四天宝寺中でも有名なイケメンだった。そんな彼に近づくために、自分と友人関係を築こうとしてくる強かな先輩女子や同級生女子を何人も知っている。
ただ、言っても、まだ4月。入学したてなので、白石蔵ノ介の存在を知らない1年生がいても全然おかしくはなかった。ただ、自分の親友が自分の兄の存在を知らないとは思っていなかったが。
「……クーちゃん、今うちの2年生やねんけど。テニス部で部長しとって、めっちゃ朝早いねん。せやからお母さんがな、私が朝家出るときに『学校でクーちゃんに届けてくれる?』言うてフルーツの入ったタッパー託してくれてんけど。2年の教室、めっちゃ行きにくいやん?」
「……それで朝から悩んどったん?それやったら私も友香里について行こか?」
「ええの?」
「お兄さんも、お昼にデザートのフルーツなかったら悲しいやん。一緒にお昼休みに届けに行こうよ」
そんな言葉と共に微笑む麻衣が、友香里には天使に見えた。ただ、もしかして麻衣は、兄・蔵ノ介の存在や人気を認知していないからこそ、こんなふうにサラッと『ついて行こか?』と言えているのかもしれない。でも、自分からわざわざ、実は兄はこうでああでと説明するのもおかしい気がして、友香里は麻衣の厚意を素直に受け入れることにした。
*
「……すみません、クー…やなかった、白石蔵ノ介いますか?」
その声にクラス中の女子が聞き耳を立てる。上履きのラインの色は、その女子生徒が1年生であることを示している。ツインテールに大きな瞳で愛くるしい顔立ちをしたその女子生徒の正体を知る男子生徒が、反応する。
「あれ?自分、白石の妹やんな?」
「はい。クーちゃんおります?」
「へえ、アイツ、家でクーちゃんって呼ばれてんねんな。おーい、クーちゃん!妹さんやぞ」
そんな教室に響き渡る声によって、白石蔵ノ介は初めて自分の妹が教室を尋ねに来たことに気づいた。友香里が俺に何の用やろ?慌てて教室のドアへ向かうと、そこには妹である友香里と、知らない女子生徒の姿があった。
「友香里、昼休みにわざわざどないしたん?」
「お母さんがな、クーちゃんのお弁当にフルーツ入れ忘れたんやて。せやから届けにきた」
「そうやったんや。わざわざおおきにな」
「ホンマやで。1人で来にくいから、麻衣に付き合うてもろてん。クーちゃん、麻衣にもお礼言うてや」
「麻衣チャン?」
初めて聞く名前だった。友香里の隣にいる女子生徒は、白石に対し頭を下げて「1年3組の支倉です。いつも友香里ちゃんと仲良くさせてもらってありがとうございます」と言う。そんな彼女の中学生らしからぬ礼儀正しさに、真面目な白石は好印象を持った。自意識過剰なのを承知の上で──自分に取り入ろうとまずは妹に近づくような女子ではないと判断できたからだ。
「麻衣ちゃんも、友香里に付き合うてわざわざ2年の教室まで来てくれておおきにな。なかなかおてんばな妹やけどこれからも仲良うしたってや」
「おてんばって何?!変なこと麻衣に吹き込まんといて」
「はは。すまんて」
「ほな、うちら1年の教室戻るわ。麻衣、帰ろ!」
「あ、うん」
友香里は麻衣の手を取ると、帰る方向へ引っ張る。麻衣はそんな友香里の後ろを小走りでついて行った。白石はそんな二人の後ろ姿を見送り、巾着袋を持ってまた教室へと戻る。
白石と麻衣の出会いも、友香里との出会い同様、こんな些細なことがきっかけだった。
2021.11.15
きっかけは本当に些細なことだ、友香里が机の下に落としてしまったシャープペンを、偶然そこを通りかかった麻衣が拾ってあげたこと。それをきっかけに、いつの間にか二人はいつもお弁当を一緒に広げる無二の親友になっていたのだった。
第1話 妹の友だち
「友香里、お願いがあんねん。お母さんな、クーちゃんのお弁当にフルーツの入ったタッパー入れるの忘れてもうて。学校でクーちゃんに届けてくれる?」
そう母に渡された、タッパーの入った巾着袋を、友香里は持て余していた。
「おはよう友香里、って、朝から悩んでそうやなぁ。どないしたん?」
「あ、麻衣!おはよう」
ホームルームの始まる前の朝の時間、登校するなり麻衣はいつになく眉根を寄せて深刻な顔をしている友香里に話しかける。友香里はそんな親友に悩みを告白することにした。
「あんなぁ、今朝、うちのお母さん、クーちゃんのお弁当にフルーツ入れ忘れたんやって」
「……『クーちゃん』?」
「あ、ごめん、クーちゃんイコール私のお兄ちゃん」
「へえ、友香里、お兄ちゃんおったん?」
「え、麻衣、逆に知らんかったん?!」
友香里は驚いた。白石蔵ノ介──彼女の1つ年上の兄は、四天宝寺中でも有名なイケメンだった。そんな彼に近づくために、自分と友人関係を築こうとしてくる強かな先輩女子や同級生女子を何人も知っている。
ただ、言っても、まだ4月。入学したてなので、白石蔵ノ介の存在を知らない1年生がいても全然おかしくはなかった。ただ、自分の親友が自分の兄の存在を知らないとは思っていなかったが。
「……クーちゃん、今うちの2年生やねんけど。テニス部で部長しとって、めっちゃ朝早いねん。せやからお母さんがな、私が朝家出るときに『学校でクーちゃんに届けてくれる?』言うてフルーツの入ったタッパー託してくれてんけど。2年の教室、めっちゃ行きにくいやん?」
「……それで朝から悩んどったん?それやったら私も友香里について行こか?」
「ええの?」
「お兄さんも、お昼にデザートのフルーツなかったら悲しいやん。一緒にお昼休みに届けに行こうよ」
そんな言葉と共に微笑む麻衣が、友香里には天使に見えた。ただ、もしかして麻衣は、兄・蔵ノ介の存在や人気を認知していないからこそ、こんなふうにサラッと『ついて行こか?』と言えているのかもしれない。でも、自分からわざわざ、実は兄はこうでああでと説明するのもおかしい気がして、友香里は麻衣の厚意を素直に受け入れることにした。
*
「……すみません、クー…やなかった、白石蔵ノ介いますか?」
その声にクラス中の女子が聞き耳を立てる。上履きのラインの色は、その女子生徒が1年生であることを示している。ツインテールに大きな瞳で愛くるしい顔立ちをしたその女子生徒の正体を知る男子生徒が、反応する。
「あれ?自分、白石の妹やんな?」
「はい。クーちゃんおります?」
「へえ、アイツ、家でクーちゃんって呼ばれてんねんな。おーい、クーちゃん!妹さんやぞ」
そんな教室に響き渡る声によって、白石蔵ノ介は初めて自分の妹が教室を尋ねに来たことに気づいた。友香里が俺に何の用やろ?慌てて教室のドアへ向かうと、そこには妹である友香里と、知らない女子生徒の姿があった。
「友香里、昼休みにわざわざどないしたん?」
「お母さんがな、クーちゃんのお弁当にフルーツ入れ忘れたんやて。せやから届けにきた」
「そうやったんや。わざわざおおきにな」
「ホンマやで。1人で来にくいから、麻衣に付き合うてもろてん。クーちゃん、麻衣にもお礼言うてや」
「麻衣チャン?」
初めて聞く名前だった。友香里の隣にいる女子生徒は、白石に対し頭を下げて「1年3組の支倉です。いつも友香里ちゃんと仲良くさせてもらってありがとうございます」と言う。そんな彼女の中学生らしからぬ礼儀正しさに、真面目な白石は好印象を持った。自意識過剰なのを承知の上で──自分に取り入ろうとまずは妹に近づくような女子ではないと判断できたからだ。
「麻衣ちゃんも、友香里に付き合うてわざわざ2年の教室まで来てくれておおきにな。なかなかおてんばな妹やけどこれからも仲良うしたってや」
「おてんばって何?!変なこと麻衣に吹き込まんといて」
「はは。すまんて」
「ほな、うちら1年の教室戻るわ。麻衣、帰ろ!」
「あ、うん」
友香里は麻衣の手を取ると、帰る方向へ引っ張る。麻衣はそんな友香里の後ろを小走りでついて行った。白石はそんな二人の後ろ姿を見送り、巾着袋を持ってまた教室へと戻る。
白石と麻衣の出会いも、友香里との出会い同様、こんな些細なことがきっかけだった。
2021.11.15
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