Youthful days
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#08(終)いっしょに帰ろう
合唱部の練習が終わりそれぞれ帰路に着く中、私はテニス部の部室に向かって歩いていた。
昼休み、白石くんに告白をされた。私も彼のその言葉に対して返事をしようと思った瞬間、それを遮るかのように、キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴った。
「……教室戻らなあかんな」
「う、うん」
「今日、部活終わった後、テニス部の部室来てくれへん?返事、そこで聞かせてほしい」
「は、はい」
「ほな、先、戻りや」
そんなわけで心が落ち着くわけもなく、今日の午後の授業の中身は何も覚えていないし、部活だって発声練習のピアノ当番だったのに、タッチミスを連発してみんなに迷惑をかけてしまった。
好きな人に好きだと言われて嬉しくないわけがない。でも、改めて、白石くんの隣に立つ勇気があるか、その覚悟ができているかと問われると、少し自信がなかった。
私が客観的に見て白石くんに釣り合わないということは、1週間通して嫌でも身に染みた。白石くん自身も言っていたではないか。元カノさんはきっとそういう経験を積み重ねてたくさん傷ついてしまったのだ。そして、彼自身もそんな彼女を見てたくさん傷ついてきたのだ。
でも、は、と気づいた。
そんなこと言っていたら、一体どんな女の子が白石くんの隣に立って、彼を支えてあげられるのだろう?
白石くんは、なぜかわからないけど、こんな私を好きになってくれた。私も、白石くんからたくさん勇気や幸せをもらってきた。
もし白石くんが、私が彼の隣に立つことを願ってくれているのなら、誰に何を言われたって関係ないじゃないか。
そして、テニス部の部室の前に着いたとき、制服に着替え終わった白石くんが、部室の扉の前で待っていた。
「お疲れさん」
「あ、うん、白石くんもお疲れさま……!」
「もう俺以外みんな帰ったから、安心して入りや」
さっきまでみんなここで着替えとったから汗臭かったらすまんな、なんて冗談を言いながら、白石くんは扉を開けた。
「……昼休み、いきなりでびっくりしたやろ」
「確かにびっくりはしたけど、嬉しかった」
「嬉しいって思ってくれたんやったら良かったわ」
「真剣に『好きや』言われて、その気持ちが迷惑やなんて思う女の子おらんと思う」
「……ほんまに支倉さんはええ子やな」
「白石くんは女の子に『好きや』言われて嬉しないの?」
「ほんまに『俺』のこと好きでいてくれてるんやったらめっちゃ嬉しいで」
「……なんや含みあるなぁ」
そう言うと、白石くんは苦笑した。
「俺な、この顔で生まれたこと、少しうんざりしてきたとこやった。せやけど、支倉さんが昼休み言ってくれたセリフ、めちゃくちゃ嬉しかってん。ちゃんと俺の中身見てくれとったんやなって思ったら、思わず告白してもうた──ほんまはもうちょっとロマンチックなシチュエーションで、もっとちゃんと伝えたかってんけど……堪忍な。せやから、もう一回ちゃんと支倉さんのことが好きやって伝えたい。俺のこと振るつもりやったら、あと5分待って」
「えっ?!まさか、」
振るわけないやん……!と言いたかったけれど、ふと目があった白石くんの瞳がとても真剣だったから、思わず無言になる。どうしよう、めっちゃ緊張する、でも目がそらせへん。
「俺な、夏期講習のときはじめて支倉さんと話すまで、支倉さんのこと、とっつきにくそうな子やって勘違いしててん。せやけど、何や歌いながら黒板消しとる後ろ姿見て、めっちゃ可愛いとこあるやん、って思った」
え。あの時、こっそり歌ってたの見られてたん?!
少し恥ずかしい気持ちになる。
「それから支倉さんがめっちゃ部活頑張っとること知って、俺もめっちゃ刺激受けた。支倉さんは俺のテニス見て合唱頑張ろ思ってくれたみたいやけど、俺は支倉さんの部活に向かう姿勢見てテニス頑張ろ思った」
「──白石くん」
「それに、普通に会話してて、からかったらいちいち反応おもろいし、可愛えなぁ思っとった。噂、否定せえへんかったのは、事実やからや。俺、支倉さんのこと、ほんまに好きやねん」
なんで私のことを好きになってくれたんだろう、なんて思っていたけれど。白石くんの言葉は、私の全部を肯定してくれているような気がして、涙が出そうだった。白石くんこそ、ちゃんと『私』を好きになってくれたんだ。
「……好き」
「?」
「私も白石くんがめっちゃ好き」
感情が昂って、思わず、本音が出てしまった。もしかして、昼休みの時の白石くんもこんな感じやったんかな。
「ん。知っとった」
「え?!」
「昼休み俺に言うてくれた言葉、今振り返ればほぼ告白やったで」
「!」
「せやけど、支倉さんの口から『好き』って聞けてめっちゃ嬉しいわ」
白石くんはとても幸せそうな表情をしていて、それを作り出している原因が私なのだと思うと、私も胸の奥が温かくなる。
「……俺と付き合うことで、今回みたいに大変な思いすること、今後もあるかもしれへん。せやけど、ちゃんと守るから。なんや変なこと言われたり、されたりしたら、隠さんと教えてな」
「うん。音楽室からこの部室に来るまでの道のりで、ちゃんと覚悟は決めてきてん。──客観的に見たら釣り合わへんのかもしれへんけど、白石くんが隣にいてええって言ってくれるんやったら、それでいいやんって」
「……支倉さん、ほんま、」
「?」
その瞬間、私の視界は学ランの黒一色になった。
そして理解した。
私は今、白石くんに抱きしめられている。
「──めっちゃ大切にするわ」
「う、うん」
「今更やけどカーディガンずっと着てるんやな」
「あ、う、うん、脱ぐタイミング失ってもうて……」
「抱きしめてると俺んちの匂いして複雑な気分や」
「私は、着てると白石くんの匂いがして幸せやで」
「……ほんま、そういうとこな」
「?」
「あんまり可愛いこと言わんといてや。ちゅーしたなるから」
「?!」
思わず白石くんの顔を見上げると、白石くんは笑っている。
「めっちゃ真っ赤やん」
「せ、せやかて!」
「はじめてのちゅーは、ここやなくて、もっとロマンチックなとこでしよな」
そんなセリフと共に白石くんの腕からゆっくりと解放される。そうやんな、付き合う、ってことはそのうちキスとかすんねんな、白石くんと……と一瞬想像した瞬間、脳が爆発しそうになった。いやいやほんま無理やって緊張で死ぬかもしれへん…!!!
「はは。百面相しとるとこ悪いけど、そろそろ部室閉めて帰らなさすがに先生に怒られてまうわ」
「あ、もう結構ええ時間なんやね……」
「天王寺の駅まで一緒に帰ってくれるやろ?」
白石くんは、私の前に、彼自身の左手を差し出した。これは、きっと、そういうことやんな。
差し出された左手にそっと右手を絡めると、白石くんは「ほな、帰ろか」といつもの調子で笑った。
Fin.
2021.10.6
合唱部の練習が終わりそれぞれ帰路に着く中、私はテニス部の部室に向かって歩いていた。
昼休み、白石くんに告白をされた。私も彼のその言葉に対して返事をしようと思った瞬間、それを遮るかのように、キーンコーンカーンコーンと予鈴が鳴った。
「……教室戻らなあかんな」
「う、うん」
「今日、部活終わった後、テニス部の部室来てくれへん?返事、そこで聞かせてほしい」
「は、はい」
「ほな、先、戻りや」
そんなわけで心が落ち着くわけもなく、今日の午後の授業の中身は何も覚えていないし、部活だって発声練習のピアノ当番だったのに、タッチミスを連発してみんなに迷惑をかけてしまった。
好きな人に好きだと言われて嬉しくないわけがない。でも、改めて、白石くんの隣に立つ勇気があるか、その覚悟ができているかと問われると、少し自信がなかった。
私が客観的に見て白石くんに釣り合わないということは、1週間通して嫌でも身に染みた。白石くん自身も言っていたではないか。元カノさんはきっとそういう経験を積み重ねてたくさん傷ついてしまったのだ。そして、彼自身もそんな彼女を見てたくさん傷ついてきたのだ。
でも、は、と気づいた。
そんなこと言っていたら、一体どんな女の子が白石くんの隣に立って、彼を支えてあげられるのだろう?
白石くんは、なぜかわからないけど、こんな私を好きになってくれた。私も、白石くんからたくさん勇気や幸せをもらってきた。
もし白石くんが、私が彼の隣に立つことを願ってくれているのなら、誰に何を言われたって関係ないじゃないか。
そして、テニス部の部室の前に着いたとき、制服に着替え終わった白石くんが、部室の扉の前で待っていた。
「お疲れさん」
「あ、うん、白石くんもお疲れさま……!」
「もう俺以外みんな帰ったから、安心して入りや」
さっきまでみんなここで着替えとったから汗臭かったらすまんな、なんて冗談を言いながら、白石くんは扉を開けた。
「……昼休み、いきなりでびっくりしたやろ」
「確かにびっくりはしたけど、嬉しかった」
「嬉しいって思ってくれたんやったら良かったわ」
「真剣に『好きや』言われて、その気持ちが迷惑やなんて思う女の子おらんと思う」
「……ほんまに支倉さんはええ子やな」
「白石くんは女の子に『好きや』言われて嬉しないの?」
「ほんまに『俺』のこと好きでいてくれてるんやったらめっちゃ嬉しいで」
「……なんや含みあるなぁ」
そう言うと、白石くんは苦笑した。
「俺な、この顔で生まれたこと、少しうんざりしてきたとこやった。せやけど、支倉さんが昼休み言ってくれたセリフ、めちゃくちゃ嬉しかってん。ちゃんと俺の中身見てくれとったんやなって思ったら、思わず告白してもうた──ほんまはもうちょっとロマンチックなシチュエーションで、もっとちゃんと伝えたかってんけど……堪忍な。せやから、もう一回ちゃんと支倉さんのことが好きやって伝えたい。俺のこと振るつもりやったら、あと5分待って」
「えっ?!まさか、」
振るわけないやん……!と言いたかったけれど、ふと目があった白石くんの瞳がとても真剣だったから、思わず無言になる。どうしよう、めっちゃ緊張する、でも目がそらせへん。
「俺な、夏期講習のときはじめて支倉さんと話すまで、支倉さんのこと、とっつきにくそうな子やって勘違いしててん。せやけど、何や歌いながら黒板消しとる後ろ姿見て、めっちゃ可愛いとこあるやん、って思った」
え。あの時、こっそり歌ってたの見られてたん?!
少し恥ずかしい気持ちになる。
「それから支倉さんがめっちゃ部活頑張っとること知って、俺もめっちゃ刺激受けた。支倉さんは俺のテニス見て合唱頑張ろ思ってくれたみたいやけど、俺は支倉さんの部活に向かう姿勢見てテニス頑張ろ思った」
「──白石くん」
「それに、普通に会話してて、からかったらいちいち反応おもろいし、可愛えなぁ思っとった。噂、否定せえへんかったのは、事実やからや。俺、支倉さんのこと、ほんまに好きやねん」
なんで私のことを好きになってくれたんだろう、なんて思っていたけれど。白石くんの言葉は、私の全部を肯定してくれているような気がして、涙が出そうだった。白石くんこそ、ちゃんと『私』を好きになってくれたんだ。
「……好き」
「?」
「私も白石くんがめっちゃ好き」
感情が昂って、思わず、本音が出てしまった。もしかして、昼休みの時の白石くんもこんな感じやったんかな。
「ん。知っとった」
「え?!」
「昼休み俺に言うてくれた言葉、今振り返ればほぼ告白やったで」
「!」
「せやけど、支倉さんの口から『好き』って聞けてめっちゃ嬉しいわ」
白石くんはとても幸せそうな表情をしていて、それを作り出している原因が私なのだと思うと、私も胸の奥が温かくなる。
「……俺と付き合うことで、今回みたいに大変な思いすること、今後もあるかもしれへん。せやけど、ちゃんと守るから。なんや変なこと言われたり、されたりしたら、隠さんと教えてな」
「うん。音楽室からこの部室に来るまでの道のりで、ちゃんと覚悟は決めてきてん。──客観的に見たら釣り合わへんのかもしれへんけど、白石くんが隣にいてええって言ってくれるんやったら、それでいいやんって」
「……支倉さん、ほんま、」
「?」
その瞬間、私の視界は学ランの黒一色になった。
そして理解した。
私は今、白石くんに抱きしめられている。
「──めっちゃ大切にするわ」
「う、うん」
「今更やけどカーディガンずっと着てるんやな」
「あ、う、うん、脱ぐタイミング失ってもうて……」
「抱きしめてると俺んちの匂いして複雑な気分や」
「私は、着てると白石くんの匂いがして幸せやで」
「……ほんま、そういうとこな」
「?」
「あんまり可愛いこと言わんといてや。ちゅーしたなるから」
「?!」
思わず白石くんの顔を見上げると、白石くんは笑っている。
「めっちゃ真っ赤やん」
「せ、せやかて!」
「はじめてのちゅーは、ここやなくて、もっとロマンチックなとこでしよな」
そんなセリフと共に白石くんの腕からゆっくりと解放される。そうやんな、付き合う、ってことはそのうちキスとかすんねんな、白石くんと……と一瞬想像した瞬間、脳が爆発しそうになった。いやいやほんま無理やって緊張で死ぬかもしれへん…!!!
「はは。百面相しとるとこ悪いけど、そろそろ部室閉めて帰らなさすがに先生に怒られてまうわ」
「あ、もう結構ええ時間なんやね……」
「天王寺の駅まで一緒に帰ってくれるやろ?」
白石くんは、私の前に、彼自身の左手を差し出した。これは、きっと、そういうことやんな。
差し出された左手にそっと右手を絡めると、白石くんは「ほな、帰ろか」といつもの調子で笑った。
Fin.
2021.10.6
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