Youthful days
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#07 je t'aime
学校祭が終わったのは1週間以上前だというのに、私はいまだ教室にいづらい思いをしていた。クラスメイトに悪気がないのはわかっているけれど。
『白石くん、麻衣のことナンパから守ってくれてん!あの時の白石くんめっちゃかっこよかったー!麻衣うらやましいー!』
『ほんまに付き合ってるわけではないらしいけど、あの時の白石くんマジギレしてたやんな?ほんまの彼氏みたいやった〜』
『えっもしかして白石くんて麻衣のこと好きなん?』
そんな噂が噂を呼び、なぜか噂の上では白石くんは私を好きだということになってしまい(ほんまにごめん白石くん…)、他のクラスから私の顔を覗きに来る人もちょこちょこと現れた。そして私がこんな地味な合唱部員だから、「え、なんでこんな地味な子?」みたいな反応をしてクラスに戻っていく。それもそうだ、学校祭の最終日、ミスター四天宝寺に無事選ばれた白石くんは、ミス四天宝寺とともにそのキラキラした笑顔をステージ上から振りまいていた。そんな白石くんと私は、客観的に見て釣り合っていない。
白石くん自身はそんな噂は全く気にしていないようで、いつも通りの白石くんのままだった。私はこんなことに巻き込まれるのは初めてだけれど、きっと白石くんは過去に色んな女の子とこういう面倒な噂になることあったんやろな。そう思ったら、白石くんも不憫に思えた。見た目がカッコ良すぎるっちゅうのも大変や。
「麻衣、大丈夫?」
「理沙、ありがとう。大丈夫やねんけど、ちょっと1人になりたいかも……」
「ん。わかった。何かあったらいつでも言うて」
いつも昼休みは親友の理沙と机をくっつけてお弁当を食べているけれど、さすがに昼休みに好奇の目に晒されるのが1週間続くと、私も疲れてしまった。
優しい理沙は、私に1人になる時間をくれたから、そのままお弁当を持って屋上に向かうことにした。屋上自体は立ち入り禁止だけれど、屋上手前の踊り場までは行けるはず。そこだったらきっと1人になれる。
*
たどり着いた屋上手前の踊り場は、11月も半ばで寒くなってきていることもあり、予想通り誰もいなかった。階段の一番上の段に腰掛けてお弁当を開く。
「……おいしい〜」
久しぶりにゆっくりお弁当を食べることができ、何だか感動で涙が出そうだ。そんな時、スマホが震える。
『支倉さん、今どこ?』
表示されたLINEの通知に、驚いて一瞬心臓が止まるかと思った。──白石くんや。何で今このタイミングで?!
どう返信しようかと一瞬悩んだけれど、隠してもしょうがないので素直に返信する。
『屋上に続く階段のところ』
そう送ると、間髪入れずすぐに返信が来た。
『行ってええ?』
万が一2人でいるところを見られたら、もっと噂に火がつくんやろな。そう思いつつも、好きな人からのオファーに、NOとは言えなかった。『うん』と短く送信してから約5分後、白石くんは私の前に現れた。
*
「すまんなぁ、俺のせいで変な噂にしてもうて。教室いづらくなってもうたやろ」
「ううん!謝らんといて!白石くんがあの時助けてくれてめっちゃ感謝してるもん」
「……自分、ほんまにええ子やな」
白石くんは困ったように笑う。
「白石くんこそ私のせいで変なことになってもうて、ごめんなさい」
「ええねん俺は。こういうん慣れてるし」
「……大変な思いたくさんしてきたんやね」
そう問うと、私の隣に腰掛けた白石くんは購買で買ってきたサンドイッチの包装を丁寧に解きながら言う。
「俺自身は別に何言われようと構へんけど、相手の女の子に迷惑かけるんが毎回申し訳ないなと思うわ」
「そうなんや……」
「せやからあんまり積極的に恋愛できひんかってん。彼女おったこともあるけど、やっぱりこういう思いさせてもうて、彼女の方がこういうんに耐えられへんくなって別れて──自分のせいで大切な子が傷つくっちゅうのは結構キツいで」
白石くんから過去の恋愛の話を聞いたのは初めてで、少し驚いた。せやけど、何でこんな話してくれたんやろ。
「……せやから今も、こう見えて心臓抉られてんねん」
「?」
「支倉さんに、こんな寒いとこで弁当食わせてもうてんねんもん」
白石くんはそう言うと、はい、とホットの紅茶の入ったペットボトルを渡してくれた。
「女の子は身体冷やしたらあかん」
「えっ、もろてええの?」
「そもそも支倉さんに渡すために買うてきたんや」
「あ、ありがとう…!」
受け取ったペットボトルは温かい。正直本当にこの場所は寒かったから、とても嬉しい差し入れだった。それでも私の顔を見つめながら、白石くんは晴れない表情をしている。
「……?何かついとる?」
お決まりのセリフだけど、お弁当を食べている途中だしリアルに何かついている可能性がある。えっもしかして歯に青のりがついてるとか?!
「鼻の頭赤いな」
「えっ?そう?あ、でも紅茶飲めばあったまるで!大丈夫!」
青のりじゃなくてほっとした。そもそもお母さんが作ってくれたお弁当の具材に、青のり要素はなかったけれど。
隣にいる白石くんはおもむろに学ランを脱ぎ始めた。もしかして学ラン貸してくれるとか、そんな少女漫画のようなイベントが起ころうとしているのだろうか。ただ、実際に起きた出来事は、そんな私の予想の斜め上を行く結果となった。
学ランを脱いだ白石くんは、学ランの下にベージュのカーディガンを着ていた。白石くんはさらにそのカーディガンを脱ぐと、それを私の肩にかける。そして自分は脱いだ学ランをカッターシャツの上に羽織る。
「カーディガンやったら俺のやってバレへんやろ。とりあえず今はそれ着ときや」
学ランよりもさらに白石くんの体温に近いそれはとても温かくて、白石くんに後ろから抱きしめられたらこんな感じなんだろうか、と、いけない想像をしてしまった。私はこんなに内心浮かれているのに、白石くんはずっと浮かない感じだ。そんなに申し訳なさを感じなくてもいいのに。
「──白石くん」
「?」
「そんな暗い顔せんといて。私何にも迷惑してへん。白石くんのせいやとか思わんといて。白石くんにそんな顔させてしまうほうが嫌や。白石くんは元々私を助けてくれただけやん?今やって私のこと気にかけてくれてめちゃくちゃ優しくしてくれとるやん。振り返ればほら、黒板消すの手伝ってくれたり、大雨で傘なくて困っとるときも傘入れてくれたり、大会前にはげましてくれたり……白石くんのそういう優しさにほんまに感謝してんねん。白石くんにお礼を言いたいことはたくさんあっても、迷惑かけられたとか、白石くんのせいで傷ついたなんて1ミリも思ってへんよ?」
どうしたら彼にこの感謝の気持ちが伝わるんだろう。できる限り想いを込めて言葉を紡いだつもりだ。少しの沈黙の後、白石くんが紡いだのは、信じられない言葉だった。
「支倉さん、」
「何?」
「───今それ言うんは、ほんまずるいで」
「え」
「好きや」
え──
「俺、支倉さんのことが、好きやねん」
to be continued.
2021.10.2
学校祭が終わったのは1週間以上前だというのに、私はいまだ教室にいづらい思いをしていた。クラスメイトに悪気がないのはわかっているけれど。
『白石くん、麻衣のことナンパから守ってくれてん!あの時の白石くんめっちゃかっこよかったー!麻衣うらやましいー!』
『ほんまに付き合ってるわけではないらしいけど、あの時の白石くんマジギレしてたやんな?ほんまの彼氏みたいやった〜』
『えっもしかして白石くんて麻衣のこと好きなん?』
そんな噂が噂を呼び、なぜか噂の上では白石くんは私を好きだということになってしまい(ほんまにごめん白石くん…)、他のクラスから私の顔を覗きに来る人もちょこちょこと現れた。そして私がこんな地味な合唱部員だから、「え、なんでこんな地味な子?」みたいな反応をしてクラスに戻っていく。それもそうだ、学校祭の最終日、ミスター四天宝寺に無事選ばれた白石くんは、ミス四天宝寺とともにそのキラキラした笑顔をステージ上から振りまいていた。そんな白石くんと私は、客観的に見て釣り合っていない。
白石くん自身はそんな噂は全く気にしていないようで、いつも通りの白石くんのままだった。私はこんなことに巻き込まれるのは初めてだけれど、きっと白石くんは過去に色んな女の子とこういう面倒な噂になることあったんやろな。そう思ったら、白石くんも不憫に思えた。見た目がカッコ良すぎるっちゅうのも大変や。
「麻衣、大丈夫?」
「理沙、ありがとう。大丈夫やねんけど、ちょっと1人になりたいかも……」
「ん。わかった。何かあったらいつでも言うて」
いつも昼休みは親友の理沙と机をくっつけてお弁当を食べているけれど、さすがに昼休みに好奇の目に晒されるのが1週間続くと、私も疲れてしまった。
優しい理沙は、私に1人になる時間をくれたから、そのままお弁当を持って屋上に向かうことにした。屋上自体は立ち入り禁止だけれど、屋上手前の踊り場までは行けるはず。そこだったらきっと1人になれる。
*
たどり着いた屋上手前の踊り場は、11月も半ばで寒くなってきていることもあり、予想通り誰もいなかった。階段の一番上の段に腰掛けてお弁当を開く。
「……おいしい〜」
久しぶりにゆっくりお弁当を食べることができ、何だか感動で涙が出そうだ。そんな時、スマホが震える。
『支倉さん、今どこ?』
表示されたLINEの通知に、驚いて一瞬心臓が止まるかと思った。──白石くんや。何で今このタイミングで?!
どう返信しようかと一瞬悩んだけれど、隠してもしょうがないので素直に返信する。
『屋上に続く階段のところ』
そう送ると、間髪入れずすぐに返信が来た。
『行ってええ?』
万が一2人でいるところを見られたら、もっと噂に火がつくんやろな。そう思いつつも、好きな人からのオファーに、NOとは言えなかった。『うん』と短く送信してから約5分後、白石くんは私の前に現れた。
*
「すまんなぁ、俺のせいで変な噂にしてもうて。教室いづらくなってもうたやろ」
「ううん!謝らんといて!白石くんがあの時助けてくれてめっちゃ感謝してるもん」
「……自分、ほんまにええ子やな」
白石くんは困ったように笑う。
「白石くんこそ私のせいで変なことになってもうて、ごめんなさい」
「ええねん俺は。こういうん慣れてるし」
「……大変な思いたくさんしてきたんやね」
そう問うと、私の隣に腰掛けた白石くんは購買で買ってきたサンドイッチの包装を丁寧に解きながら言う。
「俺自身は別に何言われようと構へんけど、相手の女の子に迷惑かけるんが毎回申し訳ないなと思うわ」
「そうなんや……」
「せやからあんまり積極的に恋愛できひんかってん。彼女おったこともあるけど、やっぱりこういう思いさせてもうて、彼女の方がこういうんに耐えられへんくなって別れて──自分のせいで大切な子が傷つくっちゅうのは結構キツいで」
白石くんから過去の恋愛の話を聞いたのは初めてで、少し驚いた。せやけど、何でこんな話してくれたんやろ。
「……せやから今も、こう見えて心臓抉られてんねん」
「?」
「支倉さんに、こんな寒いとこで弁当食わせてもうてんねんもん」
白石くんはそう言うと、はい、とホットの紅茶の入ったペットボトルを渡してくれた。
「女の子は身体冷やしたらあかん」
「えっ、もろてええの?」
「そもそも支倉さんに渡すために買うてきたんや」
「あ、ありがとう…!」
受け取ったペットボトルは温かい。正直本当にこの場所は寒かったから、とても嬉しい差し入れだった。それでも私の顔を見つめながら、白石くんは晴れない表情をしている。
「……?何かついとる?」
お決まりのセリフだけど、お弁当を食べている途中だしリアルに何かついている可能性がある。えっもしかして歯に青のりがついてるとか?!
「鼻の頭赤いな」
「えっ?そう?あ、でも紅茶飲めばあったまるで!大丈夫!」
青のりじゃなくてほっとした。そもそもお母さんが作ってくれたお弁当の具材に、青のり要素はなかったけれど。
隣にいる白石くんはおもむろに学ランを脱ぎ始めた。もしかして学ラン貸してくれるとか、そんな少女漫画のようなイベントが起ころうとしているのだろうか。ただ、実際に起きた出来事は、そんな私の予想の斜め上を行く結果となった。
学ランを脱いだ白石くんは、学ランの下にベージュのカーディガンを着ていた。白石くんはさらにそのカーディガンを脱ぐと、それを私の肩にかける。そして自分は脱いだ学ランをカッターシャツの上に羽織る。
「カーディガンやったら俺のやってバレへんやろ。とりあえず今はそれ着ときや」
学ランよりもさらに白石くんの体温に近いそれはとても温かくて、白石くんに後ろから抱きしめられたらこんな感じなんだろうか、と、いけない想像をしてしまった。私はこんなに内心浮かれているのに、白石くんはずっと浮かない感じだ。そんなに申し訳なさを感じなくてもいいのに。
「──白石くん」
「?」
「そんな暗い顔せんといて。私何にも迷惑してへん。白石くんのせいやとか思わんといて。白石くんにそんな顔させてしまうほうが嫌や。白石くんは元々私を助けてくれただけやん?今やって私のこと気にかけてくれてめちゃくちゃ優しくしてくれとるやん。振り返ればほら、黒板消すの手伝ってくれたり、大雨で傘なくて困っとるときも傘入れてくれたり、大会前にはげましてくれたり……白石くんのそういう優しさにほんまに感謝してんねん。白石くんにお礼を言いたいことはたくさんあっても、迷惑かけられたとか、白石くんのせいで傷ついたなんて1ミリも思ってへんよ?」
どうしたら彼にこの感謝の気持ちが伝わるんだろう。できる限り想いを込めて言葉を紡いだつもりだ。少しの沈黙の後、白石くんが紡いだのは、信じられない言葉だった。
「支倉さん、」
「何?」
「───今それ言うんは、ほんまずるいで」
「え」
「好きや」
え──
「俺、支倉さんのことが、好きやねん」
to be continued.
2021.10.2