Youthful days
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#06 She is mine
学校祭の季節がやってきた。うちのクラスの模擬店は、よくある執事&メイド喫茶だ。男子は執事、女子はメイドをイメージしたモノトーンベースのクラシカルな衣装に身を包み、接客を行う。
それにしても、白石くんがシフトに入っている時の盛況ぶりといったら。黒のスーツを着こなした白石くんが「お帰りなさいませ、お嬢様」とにこやかに笑いかけるだけで、教室中に女の子たちの悲鳴が響く。そういえばそうだった、クラスメイトの白石くんは、気取らず話しやすい人だから最近忘れてしまいがちだったけれど、今年のミスター四天宝寺の最有力候補にノミネートされている、校内で一二を争うイケメンだった。
「……すごい、めっちゃ利益でとる」
「白石様様やなぁ。ここホストクラブちゃうやろな……」
私はこの時間はレジ担当で、ペアになった男子といっしょに売上を管理していた。通常のフード・ドリンクの売上もさながら、クラスの売上を伸ばしているのは、『執事orメイドとのツーショットチェキ 200円』だ。白石くんのシフトの時間に来る女性客は必ずと言っていいほどこのオプションを注文するので(しかも複数枚)、あっという間に利益が積み上がっていく。
でも、そろそろ白石くんのシフトも終わりの時間だ。私はこの後もあと1時間シフトが入っているけれど、壁に貼られたシフト表によると、白石くんはこの後休憩に入る。
「白石、お疲れさん!そろそろ上がる時間やで」
ペアの男子が白石くんに声をかけると、白石くんはジャケットを脱ぎながら私たちがいるレジに近づいてきた。
「お疲れさん。売上、どや?」
「お前のおかげでたぶん模擬店部門は1位取れるで」
「そら、写真撮られまくったかいがあったわ。悪用されへんとええけど」
「せやからチェキにしたんやろ?デジタル媒体やったらすぐ拡散されてまうからな……」
そして白石くんは、私にも声をかけてくれた。
「支倉さんもお疲れさまやったな」
「ありがとう。でも今の時間はレジだけやし元気やで。この後は接客やけど……」
「お、この後続けてシフトなんや。ほな、着替え終わったらまたうちの店来て、支倉さんに昼メシ注文しようかな。せっかくそんな可愛えカッコしとるし」
「?!」
動揺した私の顔を見て、白石くんは楽しそうに笑っている。きっと接客中もこんな感じだったのかもしれないな。そりゃ女の子達が群れるわけだ。
「……さすが白石くん、人気ナンバーワン執事なだけあるわ」
そう言うと、白石くんは少し不機嫌そうな、でも困ったような、なんとも言葉にしがたい複雑な表情をしていた。
「別に誰にでもこんなこと言うわけやないで」
……え。
それって、どういう意味なんやろ。
*
13時台は、12時台よりはお客さんは少なくなっていたが、それでも遅いお昼ごはんを食べようとする人たちがお店に訪れて、それなりに盛況していた。白石くん、ほんまにお昼食べに、戻って来るんやろか。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
お辞儀とともに、いらっしゃいませ代わりの定番のセリフを伝えて顔を上げると、他校生と思われる男の子3人組がそこにいた。少しチャラそうだな……と苦手意識がわくけれど、お客さまであることには変わりないので、今までのお客さまに対してと同じように笑顔でテーブルに案内して、メニューを渡す。
「ご注文、お決まりですか?」
「注文もええけど……キミ彼氏おるん?めっちゃ可愛いやん。LINE教えてや」
え?!予想外のセリフに頭が真っ白になった。自分で言うのもなんだが、普段地味だしナンパされるようなキャラじゃないはずなのに。
「あ、あの……彼氏はおれへんけどLINEはちょっと…」
おずおずとそう答えるが、彼らは引き下がらない。
「彼氏おらんのや?ほんならええやん、LINEくらい」
「えっ、」
そう言われたと思ったら、手首あたりを掴まれて、逃してもらえない。たぶん周りのクラスメイトは私がナンパされていることに気づいていないし、他のお客さまもいる手前、大ごとにもできない。え、ほんま、どないしよ?!そんなときだった。
「はい、そこまで。悪いけど、俺の彼女に手ェ出さんといてや」
「えっ?!」
「麻衣、こういうのはハッキリ断らんとあかんで」
目の前に突然、いつもの制服姿に戻った白石くんが現れた。って、今、白石くん、何て言うた?!
「その女、さっき彼氏おらん言うてたやん!」
「……せっかく隠しとったのに、自分らのせいでばれてもうたわ。まぁええけど」
白石くんはただでさえ目立つのに、その言動と行動で、すっかり私たちとナンパ男子達は教室中から注目を浴びてしまっている。この教室内にいづらくなってしまったのか、ナンパ男子達は「帰るわ」と何も注文せずに舌打ちをして去っていった。
彼らが去っていったあと、教室中がざわつく。
「えっ?!白石と支倉って付き合うとったん?!」
いや。うん。それ正しい反応やんな。
私が一番びっくりしとるもん。
白石くんは、そんな疑問に爽やかに答える。
「嘘や。支倉さん、ナンパされて困ってそうやったから。嘘も方便や思てな」
「何や、嘘かいな。今日イチのニュースや思ったのに」
クラスメイトや、他のお客さま、もとい他のクラスの生徒達たちは、そんなことを言いながら盛り上がっている。さっきまで頭が真っ白だったけれど、やっと事態が飲み込めてきた。白石くんは私の彼氏のフリをして、ナンパ男子から助けてくれたんだ。
「しっ、白石くん、助けてくれてありがとう!」
「ほんまに支倉さんはバカ正直やな。嘘でも彼氏おるって言うとけば良かったのに」
「……そうやんな。ごめんなさい」
「……まぁ、そういうバカ正直なとこ、支倉さんらしゅうて好きやけどな」
白石くんから不意に放たれた『好き』というパワーワードは、私を再度動揺させるには十分すぎた。そして、私が言葉を発する前に、再度の念押しが。
「──さっきも言うたけど。誰にでもこんなこと言うわけやないで」
ピンチを助けてもらった後、こんなことを言われてしまっては──なぁ、白石くん、あかんで。私、めっちゃ都合の良い勘違いしてしまうやん。もしかして、白石くんが、私のこと好きなんじゃないかって。
to be continued.
2021.9.29
学校祭の季節がやってきた。うちのクラスの模擬店は、よくある執事&メイド喫茶だ。男子は執事、女子はメイドをイメージしたモノトーンベースのクラシカルな衣装に身を包み、接客を行う。
それにしても、白石くんがシフトに入っている時の盛況ぶりといったら。黒のスーツを着こなした白石くんが「お帰りなさいませ、お嬢様」とにこやかに笑いかけるだけで、教室中に女の子たちの悲鳴が響く。そういえばそうだった、クラスメイトの白石くんは、気取らず話しやすい人だから最近忘れてしまいがちだったけれど、今年のミスター四天宝寺の最有力候補にノミネートされている、校内で一二を争うイケメンだった。
「……すごい、めっちゃ利益でとる」
「白石様様やなぁ。ここホストクラブちゃうやろな……」
私はこの時間はレジ担当で、ペアになった男子といっしょに売上を管理していた。通常のフード・ドリンクの売上もさながら、クラスの売上を伸ばしているのは、『執事orメイドとのツーショットチェキ 200円』だ。白石くんのシフトの時間に来る女性客は必ずと言っていいほどこのオプションを注文するので(しかも複数枚)、あっという間に利益が積み上がっていく。
でも、そろそろ白石くんのシフトも終わりの時間だ。私はこの後もあと1時間シフトが入っているけれど、壁に貼られたシフト表によると、白石くんはこの後休憩に入る。
「白石、お疲れさん!そろそろ上がる時間やで」
ペアの男子が白石くんに声をかけると、白石くんはジャケットを脱ぎながら私たちがいるレジに近づいてきた。
「お疲れさん。売上、どや?」
「お前のおかげでたぶん模擬店部門は1位取れるで」
「そら、写真撮られまくったかいがあったわ。悪用されへんとええけど」
「せやからチェキにしたんやろ?デジタル媒体やったらすぐ拡散されてまうからな……」
そして白石くんは、私にも声をかけてくれた。
「支倉さんもお疲れさまやったな」
「ありがとう。でも今の時間はレジだけやし元気やで。この後は接客やけど……」
「お、この後続けてシフトなんや。ほな、着替え終わったらまたうちの店来て、支倉さんに昼メシ注文しようかな。せっかくそんな可愛えカッコしとるし」
「?!」
動揺した私の顔を見て、白石くんは楽しそうに笑っている。きっと接客中もこんな感じだったのかもしれないな。そりゃ女の子達が群れるわけだ。
「……さすが白石くん、人気ナンバーワン執事なだけあるわ」
そう言うと、白石くんは少し不機嫌そうな、でも困ったような、なんとも言葉にしがたい複雑な表情をしていた。
「別に誰にでもこんなこと言うわけやないで」
……え。
それって、どういう意味なんやろ。
*
13時台は、12時台よりはお客さんは少なくなっていたが、それでも遅いお昼ごはんを食べようとする人たちがお店に訪れて、それなりに盛況していた。白石くん、ほんまにお昼食べに、戻って来るんやろか。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
お辞儀とともに、いらっしゃいませ代わりの定番のセリフを伝えて顔を上げると、他校生と思われる男の子3人組がそこにいた。少しチャラそうだな……と苦手意識がわくけれど、お客さまであることには変わりないので、今までのお客さまに対してと同じように笑顔でテーブルに案内して、メニューを渡す。
「ご注文、お決まりですか?」
「注文もええけど……キミ彼氏おるん?めっちゃ可愛いやん。LINE教えてや」
え?!予想外のセリフに頭が真っ白になった。自分で言うのもなんだが、普段地味だしナンパされるようなキャラじゃないはずなのに。
「あ、あの……彼氏はおれへんけどLINEはちょっと…」
おずおずとそう答えるが、彼らは引き下がらない。
「彼氏おらんのや?ほんならええやん、LINEくらい」
「えっ、」
そう言われたと思ったら、手首あたりを掴まれて、逃してもらえない。たぶん周りのクラスメイトは私がナンパされていることに気づいていないし、他のお客さまもいる手前、大ごとにもできない。え、ほんま、どないしよ?!そんなときだった。
「はい、そこまで。悪いけど、俺の彼女に手ェ出さんといてや」
「えっ?!」
「麻衣、こういうのはハッキリ断らんとあかんで」
目の前に突然、いつもの制服姿に戻った白石くんが現れた。って、今、白石くん、何て言うた?!
「その女、さっき彼氏おらん言うてたやん!」
「……せっかく隠しとったのに、自分らのせいでばれてもうたわ。まぁええけど」
白石くんはただでさえ目立つのに、その言動と行動で、すっかり私たちとナンパ男子達は教室中から注目を浴びてしまっている。この教室内にいづらくなってしまったのか、ナンパ男子達は「帰るわ」と何も注文せずに舌打ちをして去っていった。
彼らが去っていったあと、教室中がざわつく。
「えっ?!白石と支倉って付き合うとったん?!」
いや。うん。それ正しい反応やんな。
私が一番びっくりしとるもん。
白石くんは、そんな疑問に爽やかに答える。
「嘘や。支倉さん、ナンパされて困ってそうやったから。嘘も方便や思てな」
「何や、嘘かいな。今日イチのニュースや思ったのに」
クラスメイトや、他のお客さま、もとい他のクラスの生徒達たちは、そんなことを言いながら盛り上がっている。さっきまで頭が真っ白だったけれど、やっと事態が飲み込めてきた。白石くんは私の彼氏のフリをして、ナンパ男子から助けてくれたんだ。
「しっ、白石くん、助けてくれてありがとう!」
「ほんまに支倉さんはバカ正直やな。嘘でも彼氏おるって言うとけば良かったのに」
「……そうやんな。ごめんなさい」
「……まぁ、そういうバカ正直なとこ、支倉さんらしゅうて好きやけどな」
白石くんから不意に放たれた『好き』というパワーワードは、私を再度動揺させるには十分すぎた。そして、私が言葉を発する前に、再度の念押しが。
「──さっきも言うたけど。誰にでもこんなこと言うわけやないで」
ピンチを助けてもらった後、こんなことを言われてしまっては──なぁ、白石くん、あかんで。私、めっちゃ都合の良い勘違いしてしまうやん。もしかして、白石くんが、私のこと好きなんじゃないかって。
to be continued.
2021.9.29