Youthful days
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#04 Good Luck!
大阪府大会で金賞を取って、なんとか漕ぎ着けた近畿地区大会は、もう今週末に迫っていた。なのに、高音部分の歌声がどうしても掠れてしまう。ボイトレもしてもらって、放課後の部活に加えて朝練・昼練もして、毎晩筋トレもして。なのにどうにもならなくて、挙げ句の果てに、顧問の先生には「麻衣、逆に練習しすぎなんちゃうか?あんまり喉酷使すると壊れんで」と言われてしまう始末。歌が上手くなりたくて練習しているのに、練習のしすぎで喉を壊すなんて本末転倒だ。もうどうしていいかわからなくて、頭がぐちゃぐちゃで──でも音楽室で泣くのは自分のなけなしのプライドが許さなくて、部活が終わった後教室に駆け込んだ。夜の教室ならきっと私以外に誰もいないから。
なのに、そこで偶然、白石くんに会ってしまった。彼は、きっとぐちゃぐちゃな顔で泣いていただろう私を見捨てずに、話を聞いてくれて励ましてくれた。キラキラ華やかに見える白石くんだけど、私を励ましてくれた時にかけてくれた言葉の一つ一つは、きっとキラキラとは程遠い血の滲むような努力をずっと積み重ねてきた人の言葉だった。
「もう外も暗いし、駅までいっしょに帰ろか」
泣き止んだ私に、白石くんはそんな声をかけてくれて、今に至る。以前は相合傘状態で歩いた道を、今日は普通に並んで歩く。
人気者の白石くんと2回もいっしょに帰れるなんて、そろそろ白石くんのファンの子に刺されるかもしれへん。でも白石くん自体は、話してみると良い意味で普通の感覚を持った常識人で、会話するのが心地よかった。
「──白石くんのテニスしとる姿見てみたいなぁ」
中学から彼が努力を重ねてきたテニス。そのプレーを見ることで、私ももっと合唱を頑張れるような気がしたのだ。彼がテニスで基本を毎日積み上げてきたように、私も基本の発声練習などを毎日積み上げていけば、来年の今頃は今よりずっと成長した私になれるのかもしれない。そう思いたかった。
半分独り言のような呟きに、爽やかに返事が返ってくる。
「ええで。いつでも見に来ぃや」
「えっ、ほんまにええの?」
「ああ。せやけど、試合形式で練習してる日となると水曜か土曜やな。あと、来るんやったら事前に連絡もらえるとありがたいわ」
「ありがとう。今大会前やねんけど、大会終わって落ち着いたら、改めてまた白石くんに連絡してもええかな?」
「ん。わかった。大会はいつなん?」
「今週の日曜日」
「マジで直ぐやん」
「うん」
「ほな、日曜は支倉さんが今まで頑張ってきたこと全部出し切れるように、念送るな」
「……!ありがとう」
「あと、支倉さん、さっき大会終わったら改めて俺に連絡する言うたけど俺の連絡先知らんやろ」
「あ……」
「スマホ、持っとる?」
そして、白石くんとLINEを交換した。プロフィール写真は何も設定されていなかった。
「写真、設定してへんねんなぁ」
「昔設定しとったときもあったけど、写真載せると色々めんどくさいことも起きるさかい、最近載せてへんねん」
「……なるほど」
「なるほどって何やねん」
「いや、さすが人気者の白石くんやなぁと…」
「こら。それ以上言うたら怒るで」
白石くんは全然怒っていない声でそんなことを言って、私の頭の上に軽くチョップした。こうやって気取らない白石くんが好きだな、と思った。そして、そんな楽しい会話をしていたら、いつの間にか天王寺の駅に着いていた。
*
「お母さん、このハンカチ洗濯してくれへん?」
「ん、どないしたん、このハンカチ」
「あ、いや、合唱で色々あって悔し泣きしとったら先生が貸してくれてん」
ごめんお母さん、『先生』ってとこだけ嘘やねん。白石くんから借りたハンカチは、洗濯をして返すことにした。でも、返す前に──お守りがわりに、大会のとき、制服のポケットに忍ばせておこう、とも思った。
迎えた日曜日、午前中は音楽室で練習をし、お弁当を食べた後みんなで移動して、会場入りをする。会場までの移動中に、ふとスマホが震えた。何やろ?
見て、驚いた。白石くんからLINEが来ていた。
『念送るで。頑張ってきぃや』
彼らしいシンプルな文章に、胸が熱くなった。
白石くんとおつきあいしたいとかそんなおこがましいことは考えていない。ただ、私の人生に、白石くんというこんなにやさしくて尊敬できる男の子が現れてくれたことに、心から感謝した。
to be continued.
2021.8.28
大阪府大会で金賞を取って、なんとか漕ぎ着けた近畿地区大会は、もう今週末に迫っていた。なのに、高音部分の歌声がどうしても掠れてしまう。ボイトレもしてもらって、放課後の部活に加えて朝練・昼練もして、毎晩筋トレもして。なのにどうにもならなくて、挙げ句の果てに、顧問の先生には「麻衣、逆に練習しすぎなんちゃうか?あんまり喉酷使すると壊れんで」と言われてしまう始末。歌が上手くなりたくて練習しているのに、練習のしすぎで喉を壊すなんて本末転倒だ。もうどうしていいかわからなくて、頭がぐちゃぐちゃで──でも音楽室で泣くのは自分のなけなしのプライドが許さなくて、部活が終わった後教室に駆け込んだ。夜の教室ならきっと私以外に誰もいないから。
なのに、そこで偶然、白石くんに会ってしまった。彼は、きっとぐちゃぐちゃな顔で泣いていただろう私を見捨てずに、話を聞いてくれて励ましてくれた。キラキラ華やかに見える白石くんだけど、私を励ましてくれた時にかけてくれた言葉の一つ一つは、きっとキラキラとは程遠い血の滲むような努力をずっと積み重ねてきた人の言葉だった。
「もう外も暗いし、駅までいっしょに帰ろか」
泣き止んだ私に、白石くんはそんな声をかけてくれて、今に至る。以前は相合傘状態で歩いた道を、今日は普通に並んで歩く。
人気者の白石くんと2回もいっしょに帰れるなんて、そろそろ白石くんのファンの子に刺されるかもしれへん。でも白石くん自体は、話してみると良い意味で普通の感覚を持った常識人で、会話するのが心地よかった。
「──白石くんのテニスしとる姿見てみたいなぁ」
中学から彼が努力を重ねてきたテニス。そのプレーを見ることで、私ももっと合唱を頑張れるような気がしたのだ。彼がテニスで基本を毎日積み上げてきたように、私も基本の発声練習などを毎日積み上げていけば、来年の今頃は今よりずっと成長した私になれるのかもしれない。そう思いたかった。
半分独り言のような呟きに、爽やかに返事が返ってくる。
「ええで。いつでも見に来ぃや」
「えっ、ほんまにええの?」
「ああ。せやけど、試合形式で練習してる日となると水曜か土曜やな。あと、来るんやったら事前に連絡もらえるとありがたいわ」
「ありがとう。今大会前やねんけど、大会終わって落ち着いたら、改めてまた白石くんに連絡してもええかな?」
「ん。わかった。大会はいつなん?」
「今週の日曜日」
「マジで直ぐやん」
「うん」
「ほな、日曜は支倉さんが今まで頑張ってきたこと全部出し切れるように、念送るな」
「……!ありがとう」
「あと、支倉さん、さっき大会終わったら改めて俺に連絡する言うたけど俺の連絡先知らんやろ」
「あ……」
「スマホ、持っとる?」
そして、白石くんとLINEを交換した。プロフィール写真は何も設定されていなかった。
「写真、設定してへんねんなぁ」
「昔設定しとったときもあったけど、写真載せると色々めんどくさいことも起きるさかい、最近載せてへんねん」
「……なるほど」
「なるほどって何やねん」
「いや、さすが人気者の白石くんやなぁと…」
「こら。それ以上言うたら怒るで」
白石くんは全然怒っていない声でそんなことを言って、私の頭の上に軽くチョップした。こうやって気取らない白石くんが好きだな、と思った。そして、そんな楽しい会話をしていたら、いつの間にか天王寺の駅に着いていた。
*
「お母さん、このハンカチ洗濯してくれへん?」
「ん、どないしたん、このハンカチ」
「あ、いや、合唱で色々あって悔し泣きしとったら先生が貸してくれてん」
ごめんお母さん、『先生』ってとこだけ嘘やねん。白石くんから借りたハンカチは、洗濯をして返すことにした。でも、返す前に──お守りがわりに、大会のとき、制服のポケットに忍ばせておこう、とも思った。
迎えた日曜日、午前中は音楽室で練習をし、お弁当を食べた後みんなで移動して、会場入りをする。会場までの移動中に、ふとスマホが震えた。何やろ?
見て、驚いた。白石くんからLINEが来ていた。
『念送るで。頑張ってきぃや』
彼らしいシンプルな文章に、胸が熱くなった。
白石くんとおつきあいしたいとかそんなおこがましいことは考えていない。ただ、私の人生に、白石くんというこんなにやさしくて尊敬できる男の子が現れてくれたことに、心から感謝した。
to be continued.
2021.8.28