4次元で恋をする
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最終話 4次元で恋をする
夏休みの夕方のパレットタウンの大観覧車。結構待つのかなと思いきや、意外と15分程度の待ち時間で乗れてしまった。ゴンドラに乗って、二人きりになると、白石くんは言った。
「支倉さん、昨日の準決勝、見とったんやろ」
「──う、うん」
「ほんまはシングルス1で出る予定やってんけど、試合しとるとこ、見せられへんかったな」
お互いに何となく避けてきた昨日の話題をいきなり持ち出され、心がざわつく。
なんて言葉をかけたら良いのだろう。きっと悔しかったんだろうな、でも白石くんは部長さんだし、立場的にそういうの表に出せないんだろうな。だてに青学のマネージャーをやっているわけじゃない、選手の心の機微は、学校が違えどわかってしまう。
「……あのな、支倉さん。俺、ずっとキミにお礼が言いたかってん」
「え?お礼?」
「関東大会の会場まで道案内してくれたときあったやろ」
「うん」
「──俺な、あのとき実は結構張り詰めとって。部活では2年やのに顧問から『部長やりや』言われて同期の前でも弱音吐けへんし、学校生活も何や勝手に女子に騒がれて疲れるし。せやけど、支倉さんと話しとるとき、久しぶりに素の俺でいられた。支倉さんと話しとる時間がめっちゃ楽しかったんや」
さらっと『女子に騒がれて疲れる』発言が出るあたり、さすが白石くんというか。いやいや、つっこむところはそこじゃない。
──白石くん、そんなふうに思ってくれてたんだ。素直に嬉しさがこみあげる。
「また会いたいってずっと思っとった。せやから昨日、支倉さんが俺に会いに来てくれてめっちゃ嬉しかったんやで」
「……私も白石くんに会いたかったもん。だから青学のみんなから抜け出して探しに行ったんだよ。私も、また白石くんに会えてすごく嬉しかった」
恥ずかしいけれど、私も自分の想いを言葉に出してみる。すると、いつもどこか余裕そうな表情をしている白石くんが、珍しく素で驚いたような顔をした。あれ、少し白石くんの耳が赤くなってるような気がする。
「……はぁ、そんなん言われたら、大阪に連れて帰りたなるやん。毎日支倉さんに会える青学レギュラーがうらやましいわ」
「わ、私だって、四天宝寺のレギュラーのみなさんや白石くんと同じクラスの女の子がうらやましいよ。白石くんに毎日会えるんだもん……」
なんだか心臓がきゅうっと締め付けられるような感じがする。観覧車が1周したらきっとそのときは時間的にも白石くんとバイバイするときで。明日の決勝戦では、お互い学校ごとに行動するだろう、明日は白石くんにはきっと会えない。そして白石くんが大阪に帰ったら、いよいよ次いつ会えるかなんてわからない。
観覧車越しに見える空は夕焼けがキレイで、お台場はもちろん、東京タワーや新宿副都心も遠くに見える。どんどんゴンドラが頂上へ近づいていく。
「あのな、支倉さん」
「ん?」
「──いきなりこないなこと言うてごめんな。せやけど、今度直接会えるのいつになるかわからへんから。俺、支倉さんのことが好きや」
え……?今、何て?!
「昨日、全国大会負けて、ほんまはめっちゃ悔しかったんや。せやけど立場的にはみんなを励まさなあかんし、先輩らのほうが俺なんかよりずっと悔しいはずやし、俺があんまり感情出したらあかんなって思っとった。そんなときちょうど支倉さんからLINEきて、無性に声が聞きたなって──そのとき、俺、めっちゃ支倉さんのこと好きなんやな、って気づいたわ」
白石くんはとても真剣な顔をしていて、その言葉が心の底からのものだということが伝わってくる。どうしよう、すごくどきどきするけど、すごく嬉しくて、なんだか生まれて初めて感じる、言葉にできない感情がこみあげてくる。
「──白石くん、私も同じだよ。私、きっとはじめて出会った時からずっと白石くんのことが気になってた。いっしょにいるとすっごく楽しいし、どきどきする。でも、どこかでほっとするの。出会ったばかりだし、住んでるところも遠いけど、そういうの関係なく、白石くんのこと好きになっちゃった」
そう伝えると、目の前の白石くんは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、次の瞬間、とても嬉しそうに微笑んだ。
「俺ら、おんなじ気持ちやったんやな」
「そうだね……」
「ほな、ちゃんと言わせてな」
白石くんは私に向き直ると、改めて言った。
「支倉さん、俺とつきあってください」
返事なんてそんなの決まってる。
「──はい、喜んで!」
「何や、居酒屋みたいな返事やなぁ」
「もう……せっかくいい感じなのに何でそういうこと言うの」
「はは、すまんて。って、あ、もうすぐ頂上や」
気づいたらゴンドラは随分と高いところまで上ってきていて、いよいよ頂上を告げるアナウンスが入っている。
「──なぁ、知っとる?この観覧車の頂上でキスしたカップルは絶対別れへんってジンクスあるらしいで」
そう呟いた白石くんは、ゆっくり私の頬に手を伸ばす。さっきまで冗談を言い合っていたのが嘘みたいに、空気が甘くなる。──そのまま白石くんの端正な顔が近づいてきて、思わず肩がビクッとしてしまった。
「……あかん?」
そんな恋人にしか使わないような声色で、そんなこと聞かないでほしい。白石くん自身だって、そんなふうに聞いておきながら、私が拒否するなんて1ミリも思っていないくせに。首をふるふると横に振って、意思表示をする。
「物理的な距離は東京と大阪やけど、絶対離さへん」
「……うん」
「ほな、目つむって」
素直に目を閉じると、私のくちびるに、白石くんのくちびるが優しく重なった。
──時間も距離も飛び越えて、私たちは4次元の中で恋をするのだ。
Fin.
夏休みの夕方のパレットタウンの大観覧車。結構待つのかなと思いきや、意外と15分程度の待ち時間で乗れてしまった。ゴンドラに乗って、二人きりになると、白石くんは言った。
「支倉さん、昨日の準決勝、見とったんやろ」
「──う、うん」
「ほんまはシングルス1で出る予定やってんけど、試合しとるとこ、見せられへんかったな」
お互いに何となく避けてきた昨日の話題をいきなり持ち出され、心がざわつく。
なんて言葉をかけたら良いのだろう。きっと悔しかったんだろうな、でも白石くんは部長さんだし、立場的にそういうの表に出せないんだろうな。だてに青学のマネージャーをやっているわけじゃない、選手の心の機微は、学校が違えどわかってしまう。
「……あのな、支倉さん。俺、ずっとキミにお礼が言いたかってん」
「え?お礼?」
「関東大会の会場まで道案内してくれたときあったやろ」
「うん」
「──俺な、あのとき実は結構張り詰めとって。部活では2年やのに顧問から『部長やりや』言われて同期の前でも弱音吐けへんし、学校生活も何や勝手に女子に騒がれて疲れるし。せやけど、支倉さんと話しとるとき、久しぶりに素の俺でいられた。支倉さんと話しとる時間がめっちゃ楽しかったんや」
さらっと『女子に騒がれて疲れる』発言が出るあたり、さすが白石くんというか。いやいや、つっこむところはそこじゃない。
──白石くん、そんなふうに思ってくれてたんだ。素直に嬉しさがこみあげる。
「また会いたいってずっと思っとった。せやから昨日、支倉さんが俺に会いに来てくれてめっちゃ嬉しかったんやで」
「……私も白石くんに会いたかったもん。だから青学のみんなから抜け出して探しに行ったんだよ。私も、また白石くんに会えてすごく嬉しかった」
恥ずかしいけれど、私も自分の想いを言葉に出してみる。すると、いつもどこか余裕そうな表情をしている白石くんが、珍しく素で驚いたような顔をした。あれ、少し白石くんの耳が赤くなってるような気がする。
「……はぁ、そんなん言われたら、大阪に連れて帰りたなるやん。毎日支倉さんに会える青学レギュラーがうらやましいわ」
「わ、私だって、四天宝寺のレギュラーのみなさんや白石くんと同じクラスの女の子がうらやましいよ。白石くんに毎日会えるんだもん……」
なんだか心臓がきゅうっと締め付けられるような感じがする。観覧車が1周したらきっとそのときは時間的にも白石くんとバイバイするときで。明日の決勝戦では、お互い学校ごとに行動するだろう、明日は白石くんにはきっと会えない。そして白石くんが大阪に帰ったら、いよいよ次いつ会えるかなんてわからない。
観覧車越しに見える空は夕焼けがキレイで、お台場はもちろん、東京タワーや新宿副都心も遠くに見える。どんどんゴンドラが頂上へ近づいていく。
「あのな、支倉さん」
「ん?」
「──いきなりこないなこと言うてごめんな。せやけど、今度直接会えるのいつになるかわからへんから。俺、支倉さんのことが好きや」
え……?今、何て?!
「昨日、全国大会負けて、ほんまはめっちゃ悔しかったんや。せやけど立場的にはみんなを励まさなあかんし、先輩らのほうが俺なんかよりずっと悔しいはずやし、俺があんまり感情出したらあかんなって思っとった。そんなときちょうど支倉さんからLINEきて、無性に声が聞きたなって──そのとき、俺、めっちゃ支倉さんのこと好きなんやな、って気づいたわ」
白石くんはとても真剣な顔をしていて、その言葉が心の底からのものだということが伝わってくる。どうしよう、すごくどきどきするけど、すごく嬉しくて、なんだか生まれて初めて感じる、言葉にできない感情がこみあげてくる。
「──白石くん、私も同じだよ。私、きっとはじめて出会った時からずっと白石くんのことが気になってた。いっしょにいるとすっごく楽しいし、どきどきする。でも、どこかでほっとするの。出会ったばかりだし、住んでるところも遠いけど、そういうの関係なく、白石くんのこと好きになっちゃった」
そう伝えると、目の前の白石くんは一瞬驚いた顔をしたかと思うと、次の瞬間、とても嬉しそうに微笑んだ。
「俺ら、おんなじ気持ちやったんやな」
「そうだね……」
「ほな、ちゃんと言わせてな」
白石くんは私に向き直ると、改めて言った。
「支倉さん、俺とつきあってください」
返事なんてそんなの決まってる。
「──はい、喜んで!」
「何や、居酒屋みたいな返事やなぁ」
「もう……せっかくいい感じなのに何でそういうこと言うの」
「はは、すまんて。って、あ、もうすぐ頂上や」
気づいたらゴンドラは随分と高いところまで上ってきていて、いよいよ頂上を告げるアナウンスが入っている。
「──なぁ、知っとる?この観覧車の頂上でキスしたカップルは絶対別れへんってジンクスあるらしいで」
そう呟いた白石くんは、ゆっくり私の頬に手を伸ばす。さっきまで冗談を言い合っていたのが嘘みたいに、空気が甘くなる。──そのまま白石くんの端正な顔が近づいてきて、思わず肩がビクッとしてしまった。
「……あかん?」
そんな恋人にしか使わないような声色で、そんなこと聞かないでほしい。白石くん自身だって、そんなふうに聞いておきながら、私が拒否するなんて1ミリも思っていないくせに。首をふるふると横に振って、意思表示をする。
「物理的な距離は東京と大阪やけど、絶対離さへん」
「……うん」
「ほな、目つむって」
素直に目を閉じると、私のくちびるに、白石くんのくちびるが優しく重なった。
──時間も距離も飛び越えて、私たちは4次元の中で恋をするのだ。
Fin.