4次元で恋をする
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おまけ・第10話 お見送り
「ゲームセットウォンバイ立海!」
そんな審判の声とともに、今年の優勝校が立海に決まった。去年に続く二連覇だ。
「さすが立海は強いにゃ〜」
「でも昨日の四天宝寺の方が立海相手に善戦してたような感じもするよな」
「結局シングルス1の白石の実力もわからずじまいだったしね」
不二が不意に発した『白石』という固有名詞に心臓が跳ねる。
「ん、どうした?支倉」
「だいじょうぶ、大石。なんでもない…」
「何でもないことないだろ、顔真っ赤だぞ」
「わかった!四天宝寺の白石がイケメンだったからファンになったんだろ?にゃーんて」
英二の当たらずしも遠からずの発言に、どきっとする。ライバル校の部長と付き合うことになったことは、本当はどこかでちゃんと言わなくちゃいけない。もちろん青学を売るようなことは絶対しないし、逆に四天宝寺を売るようなことも絶対しないけれど。
「……あの、実は……かくかくしかじかで、昨日四天宝寺の白石くんとお付き合いすることになりまして」
「「はぁ?!」」
「へぇ、かくかくしかじかの内容が気になるところだね」
「なるほど。おととい支倉が四天宝寺を応援してた理由がわかったよ。以前お前が言ってた偶然知り合った奴イコール白石だったわけか」
「乾!恥ずかしいから、それ言わないで…!」
「でもそうだとしたら、大阪と東京で遠距離になるんだろ?最後に新幹線見送りに行かなくていいのか?」
「向こうも部活で来てるわけだし、プライベートで私が見送りに来られても困るかなって……迷惑はかけたくないもん」
そう呟くと、大石、不二、英二、乾の4人は何やらお互いの目線を合わせて、むず痒そうな顔をした。
「……あーもう!そういうのダメだぞ!」
「英二?!どうしたの?」
「その顔その顔!完全に恋するオトメじゃん!男だったら自分の彼女にそんな切ない顔させたくないって」
「このスケジュールなら17時台の『のぞみ』に品川駅から乗る確率90%。あとは本人に直接連絡してみろ」
「……まぁ僕が白石クンの立場だったら、見送って欲しいかな。みんなの輪から抜ける方法なんていくらでもあるしね」
*
ベスト4校として閉会式に出たあとは、制服に着替えて、大阪へ帰るだけだ。部員たちは品川駅の構内で家族や友人におみやげを買っている。
──姉貴と友香里にリクエストされたねんりん家のバームクーヘンも買うたし、あとは他に買うモン無いよな。
そんなことを考えていると、ふとスラックスのポケットに入れていた携帯が震えた。
品川駅にいます。
お見送りしてもいいかな?
そのメッセージに、慌てて返信する。
『駅のどこにおるん?』
『新幹線のホーム』
『今行くわ』
まだ新幹線の改札は入っていない仲間たちに「すまん、先に行ってるわ」と声だけかけ、ダッシュで新幹線のホームへ向かう。改札を抜け、名古屋・新大阪方面のエスカレーターを降りると、そこには青学の制服姿の彼女が立っていた。
「白石くん!」
「……支倉さん」
「帰っちゃう前にまた白石くんに会えてよかった」
俺の姿を発見するなり、そう言って支倉さんは笑った。──うっわ、俺の彼女めっちゃかわいいわ。思わず抱きしめたい衝動にかられるが、公共の場なので我慢する。
「……気をつけて帰ってね」
「おおきに。大阪着いたらまた連絡するな」
「うん──あの、白石くん、」
「ん?」
「こ、これから毎日、LINEとかしてもいいのかな」
「もちろんええで。俺からも送るわ。電話もしよな」
「う、うん。なんかほんとに付き合ってるんだね、私たち」
「せやで。まだ実感わかへん?昨日キスまでしたんやけどな」
「わわわ!そういうこと大きい声で言わないで!」
耳まで赤くなる彼女が愛おしい。階段から落ちそうになった彼女を助けたことが、こんな未来に繋がっているとは予想できなかった。人生、ほんまに何があるかわからんなぁ。
「キス以外でも実感わかせる方法、あんねんで」
「?」
「『麻衣』って呼んでもええか?」
「へっ……あ、う、うん……!」
「麻衣も、俺のこと名前で呼んでや」
「……『蔵』でいい?」
……こら、アカンわ。こっちの心臓もたへん。
呼ばせたのは自分だが、なかなかの破壊力があった。
と、ちょうどエスカレーターから四天宝寺の部員たちとオサムちゃんが降りてきた。──あかん、見つかったか。
「あ、麻衣チャンやん♡また会えたなぁ」
「あっ、小春くん!また会えて嬉しい〜!」
「こら小春!浮気か!?」
小春と麻衣が完全に女子のノリでキャッキャしているのを目撃した部員たちは、この女の子どんな強者や?!という視線で麻衣を見ている。
「白石、単独行動はアカンでぇ」
「すんません……」
「せやけど、青春してるんやったらええか」
オサムちゃんはそう言って笑った。やっぱ、なんだかんだ大人やな。全部見透かされてもうたわ。
気づけば新幹線の時間まであと5分となっていた。律儀な麻衣は、初めて会う小石川や銀に「青学テニス部マネージャーで2年の支倉です」と自己紹介をしている。
「でもって、白石の彼女っちゅー話や!」
「け、謙也くん?!」
「せやろ、白石」
「……せやな」
「うわ、マジか。こら四天宝寺じゅうの女子が荒れますわ」
「えっ、四天宝寺じゅうの女子が荒れるって…?」
「──麻衣。気にせんといて」
バタバタしていると、ついに新幹線が入線してきた。──ほんまにそろそろ行かなあかんな。他のメンバーは新幹線の指定席に着席する中、俺は乗車扉の前で、最後にちゃんと麻衣と向き合う。
「ほな、そろそろ行くな」
「うん……」
「そないな顔せんと。またきっとすぐ会えるて」
「うん……お年玉下ろして大阪にも行くね」
「待ってるで。ほな、またな」
そっと麻衣の頬に掠めるようなキスをして新幹線に飛び乗ると、すぐにプシューと音を立てて扉が閉まった。ガラス越しに見えた麻衣の頰と、涙を堪えた瞳が真っ赤になっている。
──ああもう、そんな顔しぃなや。
胸がキリキリと痛い。ああでも何でこんなに愛おしいんやろ。次に彼女に会ったときは、いつも会えないぶん、たくさん抱きしめて、たくさんキスをして、この遠い距離を埋めよう。そう、心に誓った。
Fin.
2021.10.12
「ゲームセットウォンバイ立海!」
そんな審判の声とともに、今年の優勝校が立海に決まった。去年に続く二連覇だ。
「さすが立海は強いにゃ〜」
「でも昨日の四天宝寺の方が立海相手に善戦してたような感じもするよな」
「結局シングルス1の白石の実力もわからずじまいだったしね」
不二が不意に発した『白石』という固有名詞に心臓が跳ねる。
「ん、どうした?支倉」
「だいじょうぶ、大石。なんでもない…」
「何でもないことないだろ、顔真っ赤だぞ」
「わかった!四天宝寺の白石がイケメンだったからファンになったんだろ?にゃーんて」
英二の当たらずしも遠からずの発言に、どきっとする。ライバル校の部長と付き合うことになったことは、本当はどこかでちゃんと言わなくちゃいけない。もちろん青学を売るようなことは絶対しないし、逆に四天宝寺を売るようなことも絶対しないけれど。
「……あの、実は……かくかくしかじかで、昨日四天宝寺の白石くんとお付き合いすることになりまして」
「「はぁ?!」」
「へぇ、かくかくしかじかの内容が気になるところだね」
「なるほど。おととい支倉が四天宝寺を応援してた理由がわかったよ。以前お前が言ってた偶然知り合った奴イコール白石だったわけか」
「乾!恥ずかしいから、それ言わないで…!」
「でもそうだとしたら、大阪と東京で遠距離になるんだろ?最後に新幹線見送りに行かなくていいのか?」
「向こうも部活で来てるわけだし、プライベートで私が見送りに来られても困るかなって……迷惑はかけたくないもん」
そう呟くと、大石、不二、英二、乾の4人は何やらお互いの目線を合わせて、むず痒そうな顔をした。
「……あーもう!そういうのダメだぞ!」
「英二?!どうしたの?」
「その顔その顔!完全に恋するオトメじゃん!男だったら自分の彼女にそんな切ない顔させたくないって」
「このスケジュールなら17時台の『のぞみ』に品川駅から乗る確率90%。あとは本人に直接連絡してみろ」
「……まぁ僕が白石クンの立場だったら、見送って欲しいかな。みんなの輪から抜ける方法なんていくらでもあるしね」
*
ベスト4校として閉会式に出たあとは、制服に着替えて、大阪へ帰るだけだ。部員たちは品川駅の構内で家族や友人におみやげを買っている。
──姉貴と友香里にリクエストされたねんりん家のバームクーヘンも買うたし、あとは他に買うモン無いよな。
そんなことを考えていると、ふとスラックスのポケットに入れていた携帯が震えた。
品川駅にいます。
お見送りしてもいいかな?
そのメッセージに、慌てて返信する。
『駅のどこにおるん?』
『新幹線のホーム』
『今行くわ』
まだ新幹線の改札は入っていない仲間たちに「すまん、先に行ってるわ」と声だけかけ、ダッシュで新幹線のホームへ向かう。改札を抜け、名古屋・新大阪方面のエスカレーターを降りると、そこには青学の制服姿の彼女が立っていた。
「白石くん!」
「……支倉さん」
「帰っちゃう前にまた白石くんに会えてよかった」
俺の姿を発見するなり、そう言って支倉さんは笑った。──うっわ、俺の彼女めっちゃかわいいわ。思わず抱きしめたい衝動にかられるが、公共の場なので我慢する。
「……気をつけて帰ってね」
「おおきに。大阪着いたらまた連絡するな」
「うん──あの、白石くん、」
「ん?」
「こ、これから毎日、LINEとかしてもいいのかな」
「もちろんええで。俺からも送るわ。電話もしよな」
「う、うん。なんかほんとに付き合ってるんだね、私たち」
「せやで。まだ実感わかへん?昨日キスまでしたんやけどな」
「わわわ!そういうこと大きい声で言わないで!」
耳まで赤くなる彼女が愛おしい。階段から落ちそうになった彼女を助けたことが、こんな未来に繋がっているとは予想できなかった。人生、ほんまに何があるかわからんなぁ。
「キス以外でも実感わかせる方法、あんねんで」
「?」
「『麻衣』って呼んでもええか?」
「へっ……あ、う、うん……!」
「麻衣も、俺のこと名前で呼んでや」
「……『蔵』でいい?」
……こら、アカンわ。こっちの心臓もたへん。
呼ばせたのは自分だが、なかなかの破壊力があった。
と、ちょうどエスカレーターから四天宝寺の部員たちとオサムちゃんが降りてきた。──あかん、見つかったか。
「あ、麻衣チャンやん♡また会えたなぁ」
「あっ、小春くん!また会えて嬉しい〜!」
「こら小春!浮気か!?」
小春と麻衣が完全に女子のノリでキャッキャしているのを目撃した部員たちは、この女の子どんな強者や?!という視線で麻衣を見ている。
「白石、単独行動はアカンでぇ」
「すんません……」
「せやけど、青春してるんやったらええか」
オサムちゃんはそう言って笑った。やっぱ、なんだかんだ大人やな。全部見透かされてもうたわ。
気づけば新幹線の時間まであと5分となっていた。律儀な麻衣は、初めて会う小石川や銀に「青学テニス部マネージャーで2年の支倉です」と自己紹介をしている。
「でもって、白石の彼女っちゅー話や!」
「け、謙也くん?!」
「せやろ、白石」
「……せやな」
「うわ、マジか。こら四天宝寺じゅうの女子が荒れますわ」
「えっ、四天宝寺じゅうの女子が荒れるって…?」
「──麻衣。気にせんといて」
バタバタしていると、ついに新幹線が入線してきた。──ほんまにそろそろ行かなあかんな。他のメンバーは新幹線の指定席に着席する中、俺は乗車扉の前で、最後にちゃんと麻衣と向き合う。
「ほな、そろそろ行くな」
「うん……」
「そないな顔せんと。またきっとすぐ会えるて」
「うん……お年玉下ろして大阪にも行くね」
「待ってるで。ほな、またな」
そっと麻衣の頬に掠めるようなキスをして新幹線に飛び乗ると、すぐにプシューと音を立てて扉が閉まった。ガラス越しに見えた麻衣の頰と、涙を堪えた瞳が真っ赤になっている。
──ああもう、そんな顔しぃなや。
胸がキリキリと痛い。ああでも何でこんなに愛おしいんやろ。次に彼女に会ったときは、いつも会えないぶん、たくさん抱きしめて、たくさんキスをして、この遠い距離を埋めよう。そう、心に誓った。
Fin.
2021.10.12
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