本編
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関西大会が終わり、全国大会まであと少しという時期に、合宿があった。
第7話 夜のコイバナ
「今から支倉と買い出し行ってくるんやけど、1年生で誰か1人、荷物持ち手伝ってくれへん?」
オサムちゃんのその声に、コートにいる1年男子が一斉に振り返る。
「ほな、俺行きますわ」
「おお!まさか光が立候補するとは思わなかったわ!オサムちゃんびっくりや」
「……辞めますか」
「いやいやいや!米とか飲み物とか重たいもんばっかりやねん!手伝ってください」
そう言うオサムちゃんに対して、「しゃーないすわ」と財前はため息をついた。
去年は自分が買い出しに行った記憶がある。もうあれから1年経って、それは後輩の仕事になってしまった。
「あれからもう1年経ったんやなー、白石」
「……せやなあ。去年は俺ら2人とオサムちゃんで行ったんやったっけ」
遠くから見守るように後輩2人とオサムちゃんを見つめる。何を話しているかは聞こえないが、笑顔の支倉が、財前が何か呟いた瞬間、怪訝そうな顔に変わった。すると財前はその支倉の鼻をつまんで、からかっているように見えた。
「どこのバカップルや、あれは」
横にいる謙也が、呟く。
「……ほんま仲ええよな、あいつら」
「なあ。それに光、支倉んこと名前で呼んでるやろ。『麻衣』て。やっぱりつきおうてるんやろか」
おそらくそれは誰もが抱いている素朴な疑問だった。前に告白してきた例の元マネージャーも支倉のことを「現に、財前くんとはめっちゃ仲ええみたいやし」と言っていたのを思い出す。あのクールな性格の財前が、下の名前で呼ぶ女子はきっと限りなく少ないはずだ。
「ま、今夜、俺達の部屋に光呼んで質問攻めにしたろうや!それがてっとり早いやろ」
「やんな。ほなら、練習戻ろか」
努めていつもどおりを装ったが、内心は複雑だった。
――第三者から見てもそう見えるんやったら、やっぱり、つきおうてるんやろか。
それならそれで財前から支倉を奪おうだとか、邪魔をしようという気は全くないが、あの日気づいた自分の気持ちの行き場がなくなることになる。
もしほんまにつきおうてたら、自分、どんだけ短期間で失恋してんねん。
謙也に聞こえないように、ため息をついた。
*
「ひーかーるーくんっ」
「ちょ、小春先輩。俺寝たいんすけど」
「何言うてんの!合宿最後の夜なんてすることはたった1つに決まってるやろ?そう、それはコ・イ・バ・ナ」
名前を呼ばれて部屋のドアを開けると、小春先輩とユウジ先輩がいた。
まさかこの2人が俺のところに来るとは思わなかった。
「だから、ね、光くん、2年の部屋に来ない~?」
「小春!財前に浮気か?死なすど」
「心配しないでユウくん。アタシはユウくん一筋やから」
「……先輩らキモイっすわ」
「ほら、それにレアすぎる銀さんやケン坊のコイバナも聞きたくな~い?あの2人は普段自分からは絶対話してくれへんよ?」
「な。決まりやろ?ほな行くで、財前っ」
「ちょ、ユウジ先輩!」
先輩2人に強制連行された俺を、同期はご愁傷様、と憐れむような目で見ていた。
そないな目ェして見てるヒマあったら助けろっちゅー話や……。
2年生の部屋に着くと、そこには謙也さん、小石川先輩、師範がトランプで大富豪をしながら待っていた。しかし、俺は重要人物がそこにいないことに気がついた。
「あれ、部長はいてへんのですか」
「白石ならさっき喉乾いた言うて、自販機探しに行ったで」
何や、いてへんのかいな。
別に他人のコイバナにはそんなに興味はなかったが、この前麻衣が赤い顔をして部室から帰ってきたあの日から、白石部長と麻衣の関係は気になっていた。
「てなわけで大富豪は終わりやんな!光も来たことやしコイバナの時間やで~」
「…ケンヤ、お前自分が大貧民になったからって勝手に終わらすなや」
「あ、やっぱりバレとったか」
「ええけどな」
トランプを片付け、俺達はおおざっぱに輪の形になってふとんの上に座る。
「なあ、光」
「何ですか」
「さっそくやねんけど……お前、支倉と仲ええよな?」
謙也さんはきらきらした目をして興味津々にそんなことを聞いてきた。
「あ、それ、アタシも思っててんよ。光くん、麻衣ちゃんのこと好きなのかしらって」
「小春もか?白石も言うてたわ、あいつら仲ええよな~って。で、どうなん?光」
あまりに予想通りの質問すぎて力が抜ける。
「それは、ないっすわ」
「え?」
「麻衣とは小学校からずっとクラス同じなだけで、そういうんとちゃいます」
本当は曖昧に答えて先輩達をからかってみてもよかったのかもしれないが、そのせいで学校で変な噂が回ったら面倒なので正直にそう答えた。すると、謙也さんは、つまらない、と言いたげな表情をした。
「せやけど財前、お前支倉のこと名前で呼んどるやないか」
「ユウジ先輩の小学校はどうやったか知りませんけど、うちの小学校はクラス内は名前呼びが基本やったんですよ」
「でも光くんは『財前』て呼ばれてるわよね?それはどういう理由なん?」
「あいつも昔は『光』言うとりましたよ。けど中学入ってから意図的に人前では『財前』に変えてますわ」
「それはどないして?」
「……さあ。中学がみんな基本苗字呼びやから、名前で呼ぶのが恥ずかしなったんとちゃいます?俺は逆に今さら『支倉』なんて恥ずかしくて呼べへんのですけど」
俺がそう言うと、先輩達は脱力したようだった。そんなに俺と麻衣をくっつけたかったのだろうか。
「てなわけで俺と麻衣はありえへんてことですわ。それに麻衣にはたぶん別に好きな人おるし」
「「「「「え゛?!」」」」」
「先輩ら、食いつきすぎ」
「せ、せやかて!な!それって部内なん?」
「……たぶん見てたらそのうちわかりますよ。めっちゃわかりやすいから」
「ちゅーことは、部内ってことやんな……」
「……うわ、今ここに支倉呼びたなってきたわ俺」
先輩達の反応を楽しみながら、おもむろに、言った。
「そういえば、部長、帰ってくるの遅ないですか?」
第7話 夜のコイバナ
「今から支倉と買い出し行ってくるんやけど、1年生で誰か1人、荷物持ち手伝ってくれへん?」
オサムちゃんのその声に、コートにいる1年男子が一斉に振り返る。
「ほな、俺行きますわ」
「おお!まさか光が立候補するとは思わなかったわ!オサムちゃんびっくりや」
「……辞めますか」
「いやいやいや!米とか飲み物とか重たいもんばっかりやねん!手伝ってください」
そう言うオサムちゃんに対して、「しゃーないすわ」と財前はため息をついた。
去年は自分が買い出しに行った記憶がある。もうあれから1年経って、それは後輩の仕事になってしまった。
「あれからもう1年経ったんやなー、白石」
「……せやなあ。去年は俺ら2人とオサムちゃんで行ったんやったっけ」
遠くから見守るように後輩2人とオサムちゃんを見つめる。何を話しているかは聞こえないが、笑顔の支倉が、財前が何か呟いた瞬間、怪訝そうな顔に変わった。すると財前はその支倉の鼻をつまんで、からかっているように見えた。
「どこのバカップルや、あれは」
横にいる謙也が、呟く。
「……ほんま仲ええよな、あいつら」
「なあ。それに光、支倉んこと名前で呼んでるやろ。『麻衣』て。やっぱりつきおうてるんやろか」
おそらくそれは誰もが抱いている素朴な疑問だった。前に告白してきた例の元マネージャーも支倉のことを「現に、財前くんとはめっちゃ仲ええみたいやし」と言っていたのを思い出す。あのクールな性格の財前が、下の名前で呼ぶ女子はきっと限りなく少ないはずだ。
「ま、今夜、俺達の部屋に光呼んで質問攻めにしたろうや!それがてっとり早いやろ」
「やんな。ほなら、練習戻ろか」
努めていつもどおりを装ったが、内心は複雑だった。
――第三者から見てもそう見えるんやったら、やっぱり、つきおうてるんやろか。
それならそれで財前から支倉を奪おうだとか、邪魔をしようという気は全くないが、あの日気づいた自分の気持ちの行き場がなくなることになる。
もしほんまにつきおうてたら、自分、どんだけ短期間で失恋してんねん。
謙也に聞こえないように、ため息をついた。
*
「ひーかーるーくんっ」
「ちょ、小春先輩。俺寝たいんすけど」
「何言うてんの!合宿最後の夜なんてすることはたった1つに決まってるやろ?そう、それはコ・イ・バ・ナ」
名前を呼ばれて部屋のドアを開けると、小春先輩とユウジ先輩がいた。
まさかこの2人が俺のところに来るとは思わなかった。
「だから、ね、光くん、2年の部屋に来ない~?」
「小春!財前に浮気か?死なすど」
「心配しないでユウくん。アタシはユウくん一筋やから」
「……先輩らキモイっすわ」
「ほら、それにレアすぎる銀さんやケン坊のコイバナも聞きたくな~い?あの2人は普段自分からは絶対話してくれへんよ?」
「な。決まりやろ?ほな行くで、財前っ」
「ちょ、ユウジ先輩!」
先輩2人に強制連行された俺を、同期はご愁傷様、と憐れむような目で見ていた。
そないな目ェして見てるヒマあったら助けろっちゅー話や……。
2年生の部屋に着くと、そこには謙也さん、小石川先輩、師範がトランプで大富豪をしながら待っていた。しかし、俺は重要人物がそこにいないことに気がついた。
「あれ、部長はいてへんのですか」
「白石ならさっき喉乾いた言うて、自販機探しに行ったで」
何や、いてへんのかいな。
別に他人のコイバナにはそんなに興味はなかったが、この前麻衣が赤い顔をして部室から帰ってきたあの日から、白石部長と麻衣の関係は気になっていた。
「てなわけで大富豪は終わりやんな!光も来たことやしコイバナの時間やで~」
「…ケンヤ、お前自分が大貧民になったからって勝手に終わらすなや」
「あ、やっぱりバレとったか」
「ええけどな」
トランプを片付け、俺達はおおざっぱに輪の形になってふとんの上に座る。
「なあ、光」
「何ですか」
「さっそくやねんけど……お前、支倉と仲ええよな?」
謙也さんはきらきらした目をして興味津々にそんなことを聞いてきた。
「あ、それ、アタシも思っててんよ。光くん、麻衣ちゃんのこと好きなのかしらって」
「小春もか?白石も言うてたわ、あいつら仲ええよな~って。で、どうなん?光」
あまりに予想通りの質問すぎて力が抜ける。
「それは、ないっすわ」
「え?」
「麻衣とは小学校からずっとクラス同じなだけで、そういうんとちゃいます」
本当は曖昧に答えて先輩達をからかってみてもよかったのかもしれないが、そのせいで学校で変な噂が回ったら面倒なので正直にそう答えた。すると、謙也さんは、つまらない、と言いたげな表情をした。
「せやけど財前、お前支倉のこと名前で呼んどるやないか」
「ユウジ先輩の小学校はどうやったか知りませんけど、うちの小学校はクラス内は名前呼びが基本やったんですよ」
「でも光くんは『財前』て呼ばれてるわよね?それはどういう理由なん?」
「あいつも昔は『光』言うとりましたよ。けど中学入ってから意図的に人前では『財前』に変えてますわ」
「それはどないして?」
「……さあ。中学がみんな基本苗字呼びやから、名前で呼ぶのが恥ずかしなったんとちゃいます?俺は逆に今さら『支倉』なんて恥ずかしくて呼べへんのですけど」
俺がそう言うと、先輩達は脱力したようだった。そんなに俺と麻衣をくっつけたかったのだろうか。
「てなわけで俺と麻衣はありえへんてことですわ。それに麻衣にはたぶん別に好きな人おるし」
「「「「「え゛?!」」」」」
「先輩ら、食いつきすぎ」
「せ、せやかて!な!それって部内なん?」
「……たぶん見てたらそのうちわかりますよ。めっちゃわかりやすいから」
「ちゅーことは、部内ってことやんな……」
「……うわ、今ここに支倉呼びたなってきたわ俺」
先輩達の反応を楽しみながら、おもむろに、言った。
「そういえば、部長、帰ってくるの遅ないですか?」