本編
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「ほな帰ろか。家、どっちなん?」
第3話 帰り道
いくら6月ともいえど、午後7時を過ぎると外はそれなりに暗くなっている。いつもの通学路も、夜だとなんだか違う道のように感じて、やっぱり白石部長といっしょでよかったと内心ほっとした。ただ、部長には迷惑をかけてしまっているけれど。
「ほんと、すみません。私が勝手に残ってなかったら部長もまっすぐおうち帰れたのに……」
「全然気にせんでええよ。1人しかおらんマネージャーに何かあったら困るし。ほんまに支倉って律儀っちゅーか真面目っちゅーか……まあそこがええとこでもあるんやけど」
「ぅえっ?!」
あまりにナチュラルにほめられたものだから、思わず変な声が出てしまった。
その声を聞いて、部長はぷっ、と小さくふきだして、笑う。
「なんちゅー声出しとんねん」
「だ、だって部長がいきなりほめるから!」
「照れてる支倉っちゅーのもなんかレアやなぁ」
「からかわないでください!」
2ヶ月このテニス部に所属して、部員の一人一人と仲良くなってくると、だんだんその人の性格が見えてくる。白石部長はたぶん他人をからかうのが好きなのだろう。私も今みたいにからかわれることが多いけれど、忍足先輩なんて部長にいじられてばっかりだ。
「あ、せやけど」
「?」
「支倉の真面目なとこを買ってるのはほんまやで。今まで四天宝寺にはまともなマネージャーおらんかったからめっちゃ助かってるわ。ありがとな」
そんなことを真顔で言われては照れてしまう。でも。
「そう言ってもらえると、やっぱりテニス部のマネージャーやっててよかったって思います」
「ほんまに?俺がもし支倉やったら、他の部はともかく、うちの部のマネはやりとうないで。ごっつう大変やろ、仕事“以外”にも」
その含みのある言い回しと、部長の複雑な表情で、ピンときた。
「……仕事“以外”って――白石部長、もしかして知ってるんですか」
結局テニス部のマネージャーになるのをやめた女の子達から、私が陰でいろいろ言われていることを。
「――堪忍な。けど、俺が介入したら余計にこじらせてしまうんやないか思て何もできひんかった」
「そんな!私が何言われようと部長のせいじゃないですし。でも……このこと、もしかしてみんな知ってたりするんですか?」
「それはないと思うで。俺の場合は……ちょっと特殊やから」
「……特殊?」
「まあ、な。せやけど、何で言われなくてええこと言われてまでマネの仕事続けられるん?支倉、真面目やから、無理してんのとちゃうの」
「それこそ、ありえないです」
きっぱりと断言した私に、白石部長は驚いたように少し目を見開いた。
「小学校のときからの夢だったんです。四天宝寺のテニス部のマネになるのが」
「……小学校て。さすがにそれはウソやろ」
「こんなとこでウソついたって意味ないですよ!ほんとです!……私が小学校のときから四天宝寺のテニス部ってずっと強くて有名で憧れてたんです。なので、はじめはそんな部活の部員になりたいと思ったんですけど、私、女だから男子テニス部の部員は無理じゃないですか。そこでいろいろ考えた結果、部員のみなさんを支えるマネージャーになって、全国レベルの部活とその部員のみなさんに少しでも貢献したいって思ったんです」
白石部長は、黙って私の話を聞いている。
「だから、――さっき『めっちゃ助かってるわ。ありがとな』って言ってくれましたよね。それだけで、すごくうれしくて、私は他の女の子に何を言われてようがそんなことどうでもよくなっちゃうんですよ」
そう言って笑顔で白石部長を見上げると、部長は何も言わずに私の目を見つめ返す。最初はどうしたのだろうと思ったけれど、それが5秒も続いたころにはなんだか照れてきた。しかし、何故かその目から視線をそらすことができない。
「あの、部長?私の顔になんかついてます?」
居たたまれなくて、そんなお決まりのセリフを言ってみる。
「……自分、ほんまにええコやなぁ」
かみ合わない会話ではあるけれど、そんなことを言ってまた頭に手をぽんと置いた部長が、とても穏やかに笑っていたせいで、頬が熱くなると同時に、私の心臓は、どきん、という音を立てた。
第3話 帰り道
いくら6月ともいえど、午後7時を過ぎると外はそれなりに暗くなっている。いつもの通学路も、夜だとなんだか違う道のように感じて、やっぱり白石部長といっしょでよかったと内心ほっとした。ただ、部長には迷惑をかけてしまっているけれど。
「ほんと、すみません。私が勝手に残ってなかったら部長もまっすぐおうち帰れたのに……」
「全然気にせんでええよ。1人しかおらんマネージャーに何かあったら困るし。ほんまに支倉って律儀っちゅーか真面目っちゅーか……まあそこがええとこでもあるんやけど」
「ぅえっ?!」
あまりにナチュラルにほめられたものだから、思わず変な声が出てしまった。
その声を聞いて、部長はぷっ、と小さくふきだして、笑う。
「なんちゅー声出しとんねん」
「だ、だって部長がいきなりほめるから!」
「照れてる支倉っちゅーのもなんかレアやなぁ」
「からかわないでください!」
2ヶ月このテニス部に所属して、部員の一人一人と仲良くなってくると、だんだんその人の性格が見えてくる。白石部長はたぶん他人をからかうのが好きなのだろう。私も今みたいにからかわれることが多いけれど、忍足先輩なんて部長にいじられてばっかりだ。
「あ、せやけど」
「?」
「支倉の真面目なとこを買ってるのはほんまやで。今まで四天宝寺にはまともなマネージャーおらんかったからめっちゃ助かってるわ。ありがとな」
そんなことを真顔で言われては照れてしまう。でも。
「そう言ってもらえると、やっぱりテニス部のマネージャーやっててよかったって思います」
「ほんまに?俺がもし支倉やったら、他の部はともかく、うちの部のマネはやりとうないで。ごっつう大変やろ、仕事“以外”にも」
その含みのある言い回しと、部長の複雑な表情で、ピンときた。
「……仕事“以外”って――白石部長、もしかして知ってるんですか」
結局テニス部のマネージャーになるのをやめた女の子達から、私が陰でいろいろ言われていることを。
「――堪忍な。けど、俺が介入したら余計にこじらせてしまうんやないか思て何もできひんかった」
「そんな!私が何言われようと部長のせいじゃないですし。でも……このこと、もしかしてみんな知ってたりするんですか?」
「それはないと思うで。俺の場合は……ちょっと特殊やから」
「……特殊?」
「まあ、な。せやけど、何で言われなくてええこと言われてまでマネの仕事続けられるん?支倉、真面目やから、無理してんのとちゃうの」
「それこそ、ありえないです」
きっぱりと断言した私に、白石部長は驚いたように少し目を見開いた。
「小学校のときからの夢だったんです。四天宝寺のテニス部のマネになるのが」
「……小学校て。さすがにそれはウソやろ」
「こんなとこでウソついたって意味ないですよ!ほんとです!……私が小学校のときから四天宝寺のテニス部ってずっと強くて有名で憧れてたんです。なので、はじめはそんな部活の部員になりたいと思ったんですけど、私、女だから男子テニス部の部員は無理じゃないですか。そこでいろいろ考えた結果、部員のみなさんを支えるマネージャーになって、全国レベルの部活とその部員のみなさんに少しでも貢献したいって思ったんです」
白石部長は、黙って私の話を聞いている。
「だから、――さっき『めっちゃ助かってるわ。ありがとな』って言ってくれましたよね。それだけで、すごくうれしくて、私は他の女の子に何を言われてようがそんなことどうでもよくなっちゃうんですよ」
そう言って笑顔で白石部長を見上げると、部長は何も言わずに私の目を見つめ返す。最初はどうしたのだろうと思ったけれど、それが5秒も続いたころにはなんだか照れてきた。しかし、何故かその目から視線をそらすことができない。
「あの、部長?私の顔になんかついてます?」
居たたまれなくて、そんなお決まりのセリフを言ってみる。
「……自分、ほんまにええコやなぁ」
かみ合わない会話ではあるけれど、そんなことを言ってまた頭に手をぽんと置いた部長が、とても穏やかに笑っていたせいで、頬が熱くなると同時に、私の心臓は、どきん、という音を立てた。