本編
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第21話 前夜祭 【後】
非常階段自体は暗かったけれど、窓から入るネオンで、ある程度の視界は確保できた。どちらともなく部長と私は階段の一番下の段に腰掛けた。意外と距離が近くて、不覚にもどきどきしてしまう。気持ちを落ち着けるために部屋を出たはずだったのに、まるで正反対なことが起きている。――解放された手首が、熱い。
「……財前から、聞いててん。あの日、俺が告白してきた女子に抱きつかれとるとこ、見とったんやってな」
「え、光から?!」
ちょっと何話してんの?!と内心叫んでしまった。
どうしよう、もしかしたら、白石部長は私があのとき思わず呟いてしまったわがままな言葉さえ、光づてに聞いてしまったのかもしれない。でも、光がそのことを部長に話したということについて何か意図があったということはわかる。光は、理由なく人のプライバシーにかかわることを平気で話すような人じゃない。
「えっと…その、のぞくつもりはなかったんですけど……偶然見ちゃったっていうか……すみません」
「謝るんは俺のほうやろ。つーか、話さなあかんことの1つが、それやねん」
部長は少し間を開けてから、ほんまにごめんな、と呟いた。
「どんな形であれ傷つけてもうたことには変わりないやろ。――財前に泣かすな言われたわ」
「え…、光、全部しゃべっちゃったんですか」
「たぶんあれが事の一部始終やったと思うで」
その部長の言葉には頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。そうなのかな、と推測するのと、そうなのだ、と100%肯定されるのではダメージの大きさが違う。本当に、部長は、あの日の私のとった行動や言動を、全部知っているのだ。そう思うと、なんかもう恥ずかしいやら何やらでまともに部長の顔が見れない。
「けど、これだけは誤解せんといて。あの告白してきた女子とはほんまになんにもあらへん――俺の気持ちは、あのときからずっと変わってへんから」
「あのとき…?」
「去年の11月。覚えとるやろ」
忘れるはずがなかった。去年の11月、学校祭が終わってはじめての部活の日。あの日から、私達の微妙な関係は、続いているのだ。もちろん、私の気持ちもあの日から変わるはずがない。いや、むしろ大きくなっている。もう自分では制御できないくらいに。
「――あのとき、『ええ部長とマネージャーでいよな』言うたの、ほんまは後悔してる。この言葉のせいでずいぶん悩ませてもうたみたいやしな」
「……そんな、」
そんなの、私がつまらない意地を張っていたせいだ。変なプライドなんて捨ててあのとき部長に素直に気持ちを伝えていたらと後悔したことが全くないとは言えない。
「けど、全国大会が終わったら、俺はもう部長やなくなる。――せやから、全国終わったら、この微妙な関係はもう辞めよな」
「……え?」
「前は時期尚早やったかもしれへんけど――もう、機は熟したはずや。意味わかるやろ?」
――意味って、それは、きっとそういう意味で。この暗がりの中でも、目が合ったのがわかった。私は、縦に首を振る。すると久しぶりの懐かしい感覚がした。
「さすが、支倉や。1しか言わんでも10わかるっちゅーやつやな」
最後にいいこいいこされたのはいつだったっけ。ああ、確かそれもあの11月のあの日だった。嬉しくて、そして安心して、あたたかい感情で胸がいっぱいになる。その感情は胸には収まりきらなくて、瞳からこぼれおちてしまった。
ぽたりと頬を流れていった1粒の涙をすくったのは、部長の指だった。
非常階段自体は暗かったけれど、窓から入るネオンで、ある程度の視界は確保できた。どちらともなく部長と私は階段の一番下の段に腰掛けた。意外と距離が近くて、不覚にもどきどきしてしまう。気持ちを落ち着けるために部屋を出たはずだったのに、まるで正反対なことが起きている。――解放された手首が、熱い。
「……財前から、聞いててん。あの日、俺が告白してきた女子に抱きつかれとるとこ、見とったんやってな」
「え、光から?!」
ちょっと何話してんの?!と内心叫んでしまった。
どうしよう、もしかしたら、白石部長は私があのとき思わず呟いてしまったわがままな言葉さえ、光づてに聞いてしまったのかもしれない。でも、光がそのことを部長に話したということについて何か意図があったということはわかる。光は、理由なく人のプライバシーにかかわることを平気で話すような人じゃない。
「えっと…その、のぞくつもりはなかったんですけど……偶然見ちゃったっていうか……すみません」
「謝るんは俺のほうやろ。つーか、話さなあかんことの1つが、それやねん」
部長は少し間を開けてから、ほんまにごめんな、と呟いた。
「どんな形であれ傷つけてもうたことには変わりないやろ。――財前に泣かすな言われたわ」
「え…、光、全部しゃべっちゃったんですか」
「たぶんあれが事の一部始終やったと思うで」
その部長の言葉には頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。そうなのかな、と推測するのと、そうなのだ、と100%肯定されるのではダメージの大きさが違う。本当に、部長は、あの日の私のとった行動や言動を、全部知っているのだ。そう思うと、なんかもう恥ずかしいやら何やらでまともに部長の顔が見れない。
「けど、これだけは誤解せんといて。あの告白してきた女子とはほんまになんにもあらへん――俺の気持ちは、あのときからずっと変わってへんから」
「あのとき…?」
「去年の11月。覚えとるやろ」
忘れるはずがなかった。去年の11月、学校祭が終わってはじめての部活の日。あの日から、私達の微妙な関係は、続いているのだ。もちろん、私の気持ちもあの日から変わるはずがない。いや、むしろ大きくなっている。もう自分では制御できないくらいに。
「――あのとき、『ええ部長とマネージャーでいよな』言うたの、ほんまは後悔してる。この言葉のせいでずいぶん悩ませてもうたみたいやしな」
「……そんな、」
そんなの、私がつまらない意地を張っていたせいだ。変なプライドなんて捨ててあのとき部長に素直に気持ちを伝えていたらと後悔したことが全くないとは言えない。
「けど、全国大会が終わったら、俺はもう部長やなくなる。――せやから、全国終わったら、この微妙な関係はもう辞めよな」
「……え?」
「前は時期尚早やったかもしれへんけど――もう、機は熟したはずや。意味わかるやろ?」
――意味って、それは、きっとそういう意味で。この暗がりの中でも、目が合ったのがわかった。私は、縦に首を振る。すると久しぶりの懐かしい感覚がした。
「さすが、支倉や。1しか言わんでも10わかるっちゅーやつやな」
最後にいいこいいこされたのはいつだったっけ。ああ、確かそれもあの11月のあの日だった。嬉しくて、そして安心して、あたたかい感情で胸がいっぱいになる。その感情は胸には収まりきらなくて、瞳からこぼれおちてしまった。
ぽたりと頬を流れていった1粒の涙をすくったのは、部長の指だった。