本編
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部活中に、偶然、見てしまった。少し顔を赤くしながら部長に話しかける後輩マネージャーの女の子。彼はそんな彼女と、楽しそうに笑っている。
そんな光景を目撃した瞬間、思わずぱっと目をそらしてしまった。
――なんだか、胸がもやもやして、すっきりしない。
第17話 やきもち
チク、タク、チク、タク、という時計の秒針の音が遠くから聞こえてきたとともに頭が冴えわたって、私は今まで自分が眠っていたことを知った。机に突っ伏していた状態からあわてて身体を起こすと、私の頭の下敷きとなっていた活動日誌が姿を現した。
睡魔と闘いながら記した文字はへにょへにょで、今となっては完全に解読不能だ。よだれが垂れていなかったことだけがせめてもの救いだった。
そして、肩に何かがかかっているのに気がついた―――学ランだ。
「――起きたん?」
「…へ…え、ぶ、部長……?!」
「はは、よう寝とったなぁ?」
背後から声が聞こえて振り返ると、そこにはカッターシャツにスラックス姿の部長が立っていた。ということは、この学ランはもしや……!
「こ、これ、部長のですか?!」
「あーすまんなぁ。毛布とか気の利いたもん部室になかってん」
「や、そういう意味じゃなくて!その……ありがとうございます」
部長の学ランだと思うだけで一気に身体中が熱くなる。動揺しているのを悟られないように極力演技をして、私は部長に学ランを返した。
「それから…ごめんなさい、仕事中なのに居眠りしちゃって…」
「ええって。俺らが勝手にみんなで寝かしとこって決めたんやし」
「みんな?……あれ、そういえば他の人は?」
「ああ。もうみんな帰りよったで」
「え?……今何時ですか?」
「さっき19時過ぎたとこ」
部長があまりにもさらっとそう答えるから一瞬にして身体から血の気がひいた。私が居眠りなんかしていたせいで、部室の鍵を最後に施錠しなければならない彼の帰宅時間まで遅くなってしまったのだ。
「ほ、ほんとごめんなさい!部長、私のせいでおうち帰るの遅くなっちゃいましたよね……」
なんだか前にも同じようなセリフを言ったことがある気がする。私はいったいどれだけ彼に迷惑をかけたら気が済むのだろう。
「支倉のせいやあらへん。俺もついさっきまで自主練しとったし」
「……自主練?」
「最近1年生にかかりっきりになってもうて自分の練習する時間とれへんから」
その言葉に、さすが部長だなあと尊敬するとともに、へこんだ。彼が自主練していた時間、自分はこの部室で眠っていたのだ。もっと他にやることがたくさんあるはずなのに、ほんと、何してるんだろう。自己嫌悪に陥る私の様子を見て、部長は諭すように言う。
「ええんやって。疲れてるときは寝たらええねん」
「よくないですよ、ダメですよ……!」
「そら毎日寝られたら困るけど、支倉が居眠りなんてはじめてやろ。最初、『息してへんのとちゃうか?!』言うて謙也がごっつう焦っとったくらい熟睡やったし、そろそろ体力限界なんちゃう?」
確かに最近は1年生の後輩マネージャーに仕事を教えたり、その後輩達の仕事をフォローしたりで、仕事量は格段に増えていた。けれど、部長の忙しさに比べたら私なんてまだまだだ。どうやって答えていいか分からず言葉に詰まっていると、支倉、と名前を呼ばれた。反射的に顔を上げた瞬間、目が合う。
「……あんまり無理したらあかんで。心配やねんから」
その言い聞かせるような視線といつもより少し低めの声に、鼓膜と心臓がぶるっと震える。部長は純粋に心配してくれてるのに、こんなときにどきどきするなんて不謹慎だとはわかってはいるけれど、だからといってコントロールできるものでもない。はい、とだけ答えると彼はその真剣な表情から一転して、からかうように笑う。
「返事はいっつもええねんけどなー…何せこの件に関しては前科あるからな」
「前科って…!」
「去年の全国大会前日。忘れたとは言わせへんで?」
「……そ、その節はすみませんでした。けど、今はあそこまで無理しませんから!」
「ははは、ほんまかなぁ」
―――。
そのときの、部長の笑顔が、あの表情と重なった。部活中、彼は同じ笑顔を後輩マネージャーに向けていたのだ。なんとなく、胸がざわついた。
突然黙りこくった私に、不思議そうに彼は尋ねる。
「……どないしたん、急に」
「え、あ、いや!何でもないですよー……あ、私、さっさと日誌書いちゃいますね」
「……何か隠しとるやろ」
「隠してませんって」
「――言いたくないんやったら、ええけど」
その声にはめずらしく不愉快の色が表れていて、ずきん、と胸が痛む。別に隠したくて隠しているわけじゃない。言いたくなくて言わないんじゃない。言えないのだ。
なんておこがましいのだろう。――その笑顔を、他の女の子には見せないでほしい、だなんて。
そんな光景を目撃した瞬間、思わずぱっと目をそらしてしまった。
――なんだか、胸がもやもやして、すっきりしない。
第17話 やきもち
チク、タク、チク、タク、という時計の秒針の音が遠くから聞こえてきたとともに頭が冴えわたって、私は今まで自分が眠っていたことを知った。机に突っ伏していた状態からあわてて身体を起こすと、私の頭の下敷きとなっていた活動日誌が姿を現した。
睡魔と闘いながら記した文字はへにょへにょで、今となっては完全に解読不能だ。よだれが垂れていなかったことだけがせめてもの救いだった。
そして、肩に何かがかかっているのに気がついた―――学ランだ。
「――起きたん?」
「…へ…え、ぶ、部長……?!」
「はは、よう寝とったなぁ?」
背後から声が聞こえて振り返ると、そこにはカッターシャツにスラックス姿の部長が立っていた。ということは、この学ランはもしや……!
「こ、これ、部長のですか?!」
「あーすまんなぁ。毛布とか気の利いたもん部室になかってん」
「や、そういう意味じゃなくて!その……ありがとうございます」
部長の学ランだと思うだけで一気に身体中が熱くなる。動揺しているのを悟られないように極力演技をして、私は部長に学ランを返した。
「それから…ごめんなさい、仕事中なのに居眠りしちゃって…」
「ええって。俺らが勝手にみんなで寝かしとこって決めたんやし」
「みんな?……あれ、そういえば他の人は?」
「ああ。もうみんな帰りよったで」
「え?……今何時ですか?」
「さっき19時過ぎたとこ」
部長があまりにもさらっとそう答えるから一瞬にして身体から血の気がひいた。私が居眠りなんかしていたせいで、部室の鍵を最後に施錠しなければならない彼の帰宅時間まで遅くなってしまったのだ。
「ほ、ほんとごめんなさい!部長、私のせいでおうち帰るの遅くなっちゃいましたよね……」
なんだか前にも同じようなセリフを言ったことがある気がする。私はいったいどれだけ彼に迷惑をかけたら気が済むのだろう。
「支倉のせいやあらへん。俺もついさっきまで自主練しとったし」
「……自主練?」
「最近1年生にかかりっきりになってもうて自分の練習する時間とれへんから」
その言葉に、さすが部長だなあと尊敬するとともに、へこんだ。彼が自主練していた時間、自分はこの部室で眠っていたのだ。もっと他にやることがたくさんあるはずなのに、ほんと、何してるんだろう。自己嫌悪に陥る私の様子を見て、部長は諭すように言う。
「ええんやって。疲れてるときは寝たらええねん」
「よくないですよ、ダメですよ……!」
「そら毎日寝られたら困るけど、支倉が居眠りなんてはじめてやろ。最初、『息してへんのとちゃうか?!』言うて謙也がごっつう焦っとったくらい熟睡やったし、そろそろ体力限界なんちゃう?」
確かに最近は1年生の後輩マネージャーに仕事を教えたり、その後輩達の仕事をフォローしたりで、仕事量は格段に増えていた。けれど、部長の忙しさに比べたら私なんてまだまだだ。どうやって答えていいか分からず言葉に詰まっていると、支倉、と名前を呼ばれた。反射的に顔を上げた瞬間、目が合う。
「……あんまり無理したらあかんで。心配やねんから」
その言い聞かせるような視線といつもより少し低めの声に、鼓膜と心臓がぶるっと震える。部長は純粋に心配してくれてるのに、こんなときにどきどきするなんて不謹慎だとはわかってはいるけれど、だからといってコントロールできるものでもない。はい、とだけ答えると彼はその真剣な表情から一転して、からかうように笑う。
「返事はいっつもええねんけどなー…何せこの件に関しては前科あるからな」
「前科って…!」
「去年の全国大会前日。忘れたとは言わせへんで?」
「……そ、その節はすみませんでした。けど、今はあそこまで無理しませんから!」
「ははは、ほんまかなぁ」
―――。
そのときの、部長の笑顔が、あの表情と重なった。部活中、彼は同じ笑顔を後輩マネージャーに向けていたのだ。なんとなく、胸がざわついた。
突然黙りこくった私に、不思議そうに彼は尋ねる。
「……どないしたん、急に」
「え、あ、いや!何でもないですよー……あ、私、さっさと日誌書いちゃいますね」
「……何か隠しとるやろ」
「隠してませんって」
「――言いたくないんやったら、ええけど」
その声にはめずらしく不愉快の色が表れていて、ずきん、と胸が痛む。別に隠したくて隠しているわけじゃない。言いたくなくて言わないんじゃない。言えないのだ。
なんておこがましいのだろう。――その笑顔を、他の女の子には見せないでほしい、だなんて。