本編
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「「あ、7 組」」
クラス分けが発表されている掲示板の前で声が揃った。
第16話 Spring has come
「また同じクラスだなんて、誰かが仕組んでるとしか考えられないよね」
いっしょに2年7組の教室に向かって歩いていた麻衣は、俺の隣でため息をつく。
「……はあ、この調子だと今年もまた『財前くんに渡しておいて』とかっていろいろラブレターとかプレゼントとか頼まれるんだろうなぁ。私、郵便屋さんじゃないのに」
「受け取らなきゃええだけやん」
「いや…そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ。結構みんな必死で『お願い』って頼んでくるから断れなくって」
「麻衣は押しに弱すぎなんや」
そう一蹴すると、それが図星なのが自分でわかっている麻衣は、不機嫌そうに「財前、うるさい」とだけ言った。
俺と麻衣は、去年の夏頃まではつきあっているとかいないとか噂されて、そのせいで互いに面倒な経験もしてきた。しかし、最近は本当に俺達がただの腐れ縁であることが周知の事実になってきたせいか、逆に麻衣は伝書鳩化していたのだった。
「――そういえば、テニス部、新入部員入るかなあ?」
「……まあ去年全国ベスト4やし、ネームバリューはあるやろ。心配ないんちゃう?」
「そっか、そーだよね……あーあ、マネージャーももう1人くらい増えないかな?」
「それは期待しないほうがええと思うで」
「……そうですか」
新入部員の話題で2つのことを思い出して、はっと息をのんだ。1つは――もしかして、今年、あのゴンタクレが入部してくるんちゃうか。
「ん、財前?どうしたの?」
「なんやめんどくさそうな予感が……」
「めんどくさそうな?え、どういうこと?」
「……いや、百聞は一見にしかずやと思う」
おそらく麻衣は、アイツとは面識がないだろう。
そしてもう1つ。
「それから、もう聞いてるかもしれへんけど、九州の獅子楽中の千歳さん、ウチに転校してくるらしい」
麻衣は一瞬固まって、次の瞬間、「またまたご冗談を」と笑う。
「ほんまやって。オサムちゃんに聞いたし」
「…マジで?」
「マジで」
「えええええ!すごい!私全国大会の会場でちらっと拝見しただけだよ!?」
廊下で大声で叫んだ麻衣は注目を浴びて、それに気づいた瞬間、麻衣はりんごのように真っ赤になった。笑うのを堪えてはみたが、喉の奥がククッと鳴るのは止められなかった。その様子を見て、麻衣は俺の腕をつねる。
「…痛っ、何すんねん」
「財前が笑うからでしょ!――でも、なんか、今年も全国大会楽しみだね」
「気ぃ早すぎやろ。これで関西大会で敗退したらほんまカッコつかんわ」
「何言ってんの。勝つでしょ。勝ったもん勝ちだもん」
麻衣は得意気な顔で笑う。――へえ、マネージャーらしなったやんか。
*
新学期が始まってから3日目の今日は、はじめて新入生が部活に見学に来る日だった。どきどきしながら部室のドアを開ける。
「あ、あんたもマネ希望なん?」
突然話しかけられた。ふと見渡せば真新しいジャージを着た女の子がすでに何人か部室で待機している。
「さっき部長が『マネージャー希望者は支倉先輩が来るまで部室で待っといて』って言うてたで」
「それにしてもやっぱり部長さん、ほんまかっこええなぁ!」
「ほんまほんま。けどうちはやっぱり財前先輩かな」
「あ、それ、めっちゃわかるー!でも忍足先輩とか一氏先輩とかも素敵やんなぁ」
――え、何、私もしかして1年生に間違えられてる?!予想外の展開に笑うしかなかった。うん、もうこれは後でみんなと話すときのネタにするしかない。
「ええと……あの」
「ん?」
「――私が、その、……マネージャーの支倉ですけど……」
四天宝寺のジャージの上をはおってくれば間違えられずに済んだのかもしれない。Tシャツに長ジャージの私がおずおずとそう伝えた途端、目の前にいる女の子たちの顔色が青くなっていくのがわかった。
それにしても先が思いやられる。さっきの会話を聞いている限り、彼女たちのマネージャー志望理由も、きっと去年のはじめのころ私といっしょにマネージャーとして入部した子たちといっしょなのだろう。つまりは、例の“よこしまな理由”というやつだ。
これは………うまくやってけるのかな……?
――一気に不安になった。
クラス分けが発表されている掲示板の前で声が揃った。
第16話 Spring has come
「また同じクラスだなんて、誰かが仕組んでるとしか考えられないよね」
いっしょに2年7組の教室に向かって歩いていた麻衣は、俺の隣でため息をつく。
「……はあ、この調子だと今年もまた『財前くんに渡しておいて』とかっていろいろラブレターとかプレゼントとか頼まれるんだろうなぁ。私、郵便屋さんじゃないのに」
「受け取らなきゃええだけやん」
「いや…そうしたいのはやまやまなんだけどさぁ。結構みんな必死で『お願い』って頼んでくるから断れなくって」
「麻衣は押しに弱すぎなんや」
そう一蹴すると、それが図星なのが自分でわかっている麻衣は、不機嫌そうに「財前、うるさい」とだけ言った。
俺と麻衣は、去年の夏頃まではつきあっているとかいないとか噂されて、そのせいで互いに面倒な経験もしてきた。しかし、最近は本当に俺達がただの腐れ縁であることが周知の事実になってきたせいか、逆に麻衣は伝書鳩化していたのだった。
「――そういえば、テニス部、新入部員入るかなあ?」
「……まあ去年全国ベスト4やし、ネームバリューはあるやろ。心配ないんちゃう?」
「そっか、そーだよね……あーあ、マネージャーももう1人くらい増えないかな?」
「それは期待しないほうがええと思うで」
「……そうですか」
新入部員の話題で2つのことを思い出して、はっと息をのんだ。1つは――もしかして、今年、あのゴンタクレが入部してくるんちゃうか。
「ん、財前?どうしたの?」
「なんやめんどくさそうな予感が……」
「めんどくさそうな?え、どういうこと?」
「……いや、百聞は一見にしかずやと思う」
おそらく麻衣は、アイツとは面識がないだろう。
そしてもう1つ。
「それから、もう聞いてるかもしれへんけど、九州の獅子楽中の千歳さん、ウチに転校してくるらしい」
麻衣は一瞬固まって、次の瞬間、「またまたご冗談を」と笑う。
「ほんまやって。オサムちゃんに聞いたし」
「…マジで?」
「マジで」
「えええええ!すごい!私全国大会の会場でちらっと拝見しただけだよ!?」
廊下で大声で叫んだ麻衣は注目を浴びて、それに気づいた瞬間、麻衣はりんごのように真っ赤になった。笑うのを堪えてはみたが、喉の奥がククッと鳴るのは止められなかった。その様子を見て、麻衣は俺の腕をつねる。
「…痛っ、何すんねん」
「財前が笑うからでしょ!――でも、なんか、今年も全国大会楽しみだね」
「気ぃ早すぎやろ。これで関西大会で敗退したらほんまカッコつかんわ」
「何言ってんの。勝つでしょ。勝ったもん勝ちだもん」
麻衣は得意気な顔で笑う。――へえ、マネージャーらしなったやんか。
*
新学期が始まってから3日目の今日は、はじめて新入生が部活に見学に来る日だった。どきどきしながら部室のドアを開ける。
「あ、あんたもマネ希望なん?」
突然話しかけられた。ふと見渡せば真新しいジャージを着た女の子がすでに何人か部室で待機している。
「さっき部長が『マネージャー希望者は支倉先輩が来るまで部室で待っといて』って言うてたで」
「それにしてもやっぱり部長さん、ほんまかっこええなぁ!」
「ほんまほんま。けどうちはやっぱり財前先輩かな」
「あ、それ、めっちゃわかるー!でも忍足先輩とか一氏先輩とかも素敵やんなぁ」
――え、何、私もしかして1年生に間違えられてる?!予想外の展開に笑うしかなかった。うん、もうこれは後でみんなと話すときのネタにするしかない。
「ええと……あの」
「ん?」
「――私が、その、……マネージャーの支倉ですけど……」
四天宝寺のジャージの上をはおってくれば間違えられずに済んだのかもしれない。Tシャツに長ジャージの私がおずおずとそう伝えた途端、目の前にいる女の子たちの顔色が青くなっていくのがわかった。
それにしても先が思いやられる。さっきの会話を聞いている限り、彼女たちのマネージャー志望理由も、きっと去年のはじめのころ私といっしょにマネージャーとして入部した子たちといっしょなのだろう。つまりは、例の“よこしまな理由”というやつだ。
これは………うまくやってけるのかな……?
――一気に不安になった。