本編
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「支倉、絶対来てや!」
「絶対支倉は来たらあかんで!」
「……いったい私はどうしたらいいんですか」
「……支倉の好きにするんがいちばんええと思うで」
第13話 欲していた言葉【前】
季節の移ろいも早いもので、秋も深い11月、今日は木下藤吉郎祭という名の文化祭だった。そして、私は自分のクラスの喫茶店のシフトを終えた後、カフェエプロンをつけたまま走って体育館に向かっていた。なぜって、体育館では、ライブがあるのだ。
謙也先輩が学校祭でライブをやろうと言い始めたのがきっかけで、文化部のほうで忙しそうな師範と、お笑いライブをする小春先輩とユウジ先輩を除いたテニス部レギュラーでバンドを組むことになったらしい。私がそのことを知ったのは、つい3日前だった。
「あ、麻衣」
「ん、何?」
「俺、シフトこの時間無理やねんけど交代してくれへん?」
クラスでの模擬店のシフトが決まって、プリントが配られると、光は私にそんなふうに打診してきた。
「いいけど……財前何か用事でもあるの?」
「ライブのリハ」
「ええええ!ライブ?!財前が?」
「驚きすぎ。謙也さんから聞いてへんかったん。ちなみにボーカルは部長や」
「嘘…!」
「マジやで」
そんなやりとりの後、部活に行って謙也先輩と部長と副部長にそのことを尋ねると、あの冒頭のセリフのような反応が返ってきた。満面の笑みの謙也先輩と、珍しく焦る部長、そしてまるで保護者のような副部長。
ここはやっぱり副部長の言うように、私の好きにさせてもらおう。
ということは、謙也先輩の言うとおりにすることになる。
……部長、ほんとにごめんなさい。
体育館に着くと、すでに結構混雑していた。四天宝寺の生徒はもちろんのこと他校の女子も多い。というより、女子が多すぎる。男女比はきっと3:7くらいだ。そしてその3割の男子のうちの約半分はテニス部の男子だった。ということは、内輪以外はほとんどみんな女の子ということになる。その中で、同期の男子達の集団を見つけた。
「あ、支倉やん!」
「やっぱり来たんか。白石部長、お前に『来たらあかん』言うてたけどええん?」
「いや、副部長に、私の好きにしたらいいよ~みたいなこと言われたから、ま、いいかなって。けど、それにしても女子多いね……」
「お前も女子やろ」
「あ、そうだった」
「おい!忘れんなや!」
「でも今は女子っていうカテゴリよりは、テニス部っていうカテゴリに属してると思うんだよね……だからかなりアウェイな気分」
「まあな。この歓声は下手なアイドルよりすごいと思うわ」
女の子たちが、まだステージに上ってもいないのにみんなの名前を叫んでいる。そのせいで改めて気付かされた。そういえば彼らはモテ集団だったのだ。そして、中でもいちばん多く叫ばれる名前は
「「「きゃああああああ!白石くーーーーーん!!」」」
――やっぱりね。近くの他校生が叫んだ。鼓膜が破れるかと思った。
「……ええなあ、レギュラーになったら俺もあれくらいモテるんかな」
「ちゃうちゃう。絶対顔の構造の問題やってコレは」
「そうなの?意味わかんないなあ……男は顔じゃないのにね」
「支倉!お前ええこと言うなあ!男子の希望やでマジで!」
「(……けど支倉って、見てる限り絶対部長とできとるよなあ)」
「(あ、俺も実はそう思っててん!)」
「(……そう考えると、男ってやっぱり顔なんやろか)」
「え、ごめん聞こえなかった!何か言った?」
「「「いやいやいや! 大したことやないから大丈夫やって」」」
「?」
そして演奏が始まった。
――すごい!!
思わず声に出すと、周りの男子達も頷いた。
「謙也さん、あんなにドラム叩ける人やなんて知らんかったわ」
「てゆか財前、同い年であんなにギターできるんや…俺も練習せな…」
「副部長も楽器できるとはなあ!」
「でも極めつけは部長やんな!男前でテニス強くて頭良くて歌上手いとか、天は人の上に人作りすぎや」
「……支倉、どないした?」
「なんか、もういろんな意味で言葉が出ないっていうか……」
ステージの上のメンバーは、一言で言うと『すごかった』。そして、ステージの下の女子のテンションも、すごかった。ちょっとしたインディーズのライブより絶対盛り上がっていると思う。そんな中、部長がこちらのほうに視線を向けた。
「あ、部長こっち見たで!みんなで手ェ振ろ!」
周りの男子達が、おーい、と激しく手を振る。部長はそれに気付いたみたいで片手を上げた。私は、部長には「絶対来たらあかん」と言われていたから、手を振ることはしなかった。なるべくこっそり見てたほうが良いはずだ。
「きゃあああ!今白石くん、私のほう見よったで!」
「ちゃうって!私のこと見つめたに決まってるやん」
その瞬間、近くに立っている3年の先輩達がそんなふうに騒いでいた。
「今、部長が見てたのって絶対支倉やんな」
「ええ?違うんじゃない?ほら、さっき近くの先輩、『私のほう見よった』とか言ってたし」
「……支倉…お前…」
「何?」
「……何でもないわ」
そう言って人の顔を見てため息をつく同期達にちょっとだけいらついたけれど、そんな考えは、耳から聞こえてくる部長の声によっていつの間にかかき消された。こんなにかっこよくてこんなに歌が上手かったら、白石部長のことを今日まで知らなかった人でも、今日1日で彼を好きになってしまいそうだ。
しかし、部長にとってそれは嬉しいことなのだろうか。芸能人でもないのによく知らない人からルックスだけで注目されるというのは。確かに部長はかっこいいけれど、彼の本当の魅力はもっと別のところにあるはずだ。
ただでさえテニス部の部長ということで重責を負っているというのに。
――ストレスとかたまらないのかな。
――疲れないのかな。
少しだけ、心配になった。
「絶対支倉は来たらあかんで!」
「……いったい私はどうしたらいいんですか」
「……支倉の好きにするんがいちばんええと思うで」
第13話 欲していた言葉【前】
季節の移ろいも早いもので、秋も深い11月、今日は木下藤吉郎祭という名の文化祭だった。そして、私は自分のクラスの喫茶店のシフトを終えた後、カフェエプロンをつけたまま走って体育館に向かっていた。なぜって、体育館では、ライブがあるのだ。
謙也先輩が学校祭でライブをやろうと言い始めたのがきっかけで、文化部のほうで忙しそうな師範と、お笑いライブをする小春先輩とユウジ先輩を除いたテニス部レギュラーでバンドを組むことになったらしい。私がそのことを知ったのは、つい3日前だった。
「あ、麻衣」
「ん、何?」
「俺、シフトこの時間無理やねんけど交代してくれへん?」
クラスでの模擬店のシフトが決まって、プリントが配られると、光は私にそんなふうに打診してきた。
「いいけど……財前何か用事でもあるの?」
「ライブのリハ」
「ええええ!ライブ?!財前が?」
「驚きすぎ。謙也さんから聞いてへんかったん。ちなみにボーカルは部長や」
「嘘…!」
「マジやで」
そんなやりとりの後、部活に行って謙也先輩と部長と副部長にそのことを尋ねると、あの冒頭のセリフのような反応が返ってきた。満面の笑みの謙也先輩と、珍しく焦る部長、そしてまるで保護者のような副部長。
ここはやっぱり副部長の言うように、私の好きにさせてもらおう。
ということは、謙也先輩の言うとおりにすることになる。
……部長、ほんとにごめんなさい。
体育館に着くと、すでに結構混雑していた。四天宝寺の生徒はもちろんのこと他校の女子も多い。というより、女子が多すぎる。男女比はきっと3:7くらいだ。そしてその3割の男子のうちの約半分はテニス部の男子だった。ということは、内輪以外はほとんどみんな女の子ということになる。その中で、同期の男子達の集団を見つけた。
「あ、支倉やん!」
「やっぱり来たんか。白石部長、お前に『来たらあかん』言うてたけどええん?」
「いや、副部長に、私の好きにしたらいいよ~みたいなこと言われたから、ま、いいかなって。けど、それにしても女子多いね……」
「お前も女子やろ」
「あ、そうだった」
「おい!忘れんなや!」
「でも今は女子っていうカテゴリよりは、テニス部っていうカテゴリに属してると思うんだよね……だからかなりアウェイな気分」
「まあな。この歓声は下手なアイドルよりすごいと思うわ」
女の子たちが、まだステージに上ってもいないのにみんなの名前を叫んでいる。そのせいで改めて気付かされた。そういえば彼らはモテ集団だったのだ。そして、中でもいちばん多く叫ばれる名前は
「「「きゃああああああ!白石くーーーーーん!!」」」
――やっぱりね。近くの他校生が叫んだ。鼓膜が破れるかと思った。
「……ええなあ、レギュラーになったら俺もあれくらいモテるんかな」
「ちゃうちゃう。絶対顔の構造の問題やってコレは」
「そうなの?意味わかんないなあ……男は顔じゃないのにね」
「支倉!お前ええこと言うなあ!男子の希望やでマジで!」
「(……けど支倉って、見てる限り絶対部長とできとるよなあ)」
「(あ、俺も実はそう思っててん!)」
「(……そう考えると、男ってやっぱり顔なんやろか)」
「え、ごめん聞こえなかった!何か言った?」
「「「いやいやいや! 大したことやないから大丈夫やって」」」
「?」
そして演奏が始まった。
――すごい!!
思わず声に出すと、周りの男子達も頷いた。
「謙也さん、あんなにドラム叩ける人やなんて知らんかったわ」
「てゆか財前、同い年であんなにギターできるんや…俺も練習せな…」
「副部長も楽器できるとはなあ!」
「でも極めつけは部長やんな!男前でテニス強くて頭良くて歌上手いとか、天は人の上に人作りすぎや」
「……支倉、どないした?」
「なんか、もういろんな意味で言葉が出ないっていうか……」
ステージの上のメンバーは、一言で言うと『すごかった』。そして、ステージの下の女子のテンションも、すごかった。ちょっとしたインディーズのライブより絶対盛り上がっていると思う。そんな中、部長がこちらのほうに視線を向けた。
「あ、部長こっち見たで!みんなで手ェ振ろ!」
周りの男子達が、おーい、と激しく手を振る。部長はそれに気付いたみたいで片手を上げた。私は、部長には「絶対来たらあかん」と言われていたから、手を振ることはしなかった。なるべくこっそり見てたほうが良いはずだ。
「きゃあああ!今白石くん、私のほう見よったで!」
「ちゃうって!私のこと見つめたに決まってるやん」
その瞬間、近くに立っている3年の先輩達がそんなふうに騒いでいた。
「今、部長が見てたのって絶対支倉やんな」
「ええ?違うんじゃない?ほら、さっき近くの先輩、『私のほう見よった』とか言ってたし」
「……支倉…お前…」
「何?」
「……何でもないわ」
そう言って人の顔を見てため息をつく同期達にちょっとだけいらついたけれど、そんな考えは、耳から聞こえてくる部長の声によっていつの間にかかき消された。こんなにかっこよくてこんなに歌が上手かったら、白石部長のことを今日まで知らなかった人でも、今日1日で彼を好きになってしまいそうだ。
しかし、部長にとってそれは嬉しいことなのだろうか。芸能人でもないのによく知らない人からルックスだけで注目されるというのは。確かに部長はかっこいいけれど、彼の本当の魅力はもっと別のところにあるはずだ。
ただでさえテニス部の部長ということで重責を負っているというのに。
――ストレスとかたまらないのかな。
――疲れないのかな。
少しだけ、心配になった。