本編
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帰宅して、そのまま昨日と同じようにベッドにダイブする。
昨日とは違った意味で身体が重たかった。思いだされるのは例の光景だ。
あの白石部長に、あの見目麗しい彼女。お似合いすぎて私が入りこむ余地なんてなかったし、何より部長が彼女とつきあうことでしあわせならそれでいいんじゃないか。2人の邪魔をするつもりなんて毛頭ない。
それでも私の頭は、その事実を信じたくないのか、変にポジティブなことも考えていた。白石部長は校内でもあんなに人気があるのだから、彼女がいたら校内で噂になっているはずだ。しかし、そんな噂はないし、彼に告白する女の子は絶えない。そして、今日見かけた部長と彼女は手をつないでいたりしていたわけではない。
もしかしたら、あの人は部長の彼女じゃないのかもしれない。
それでも、彼の片想いの可能性も十分あり得る。
ふと、もらったメールを思い出した。
ほな、また明後日会えるの楽しみにしてるで。
――そんなこと言われても、正直、複雑だ。
第12話 Pennies from Heaven
「終わった……!」
活動日誌を書きあげて達成感でいっぱいになった私は、もうほとんどの部員が帰ってしまって部室に誰もいないことをいいことに、机の上に突っ伏す。今日1日、ひどく憂鬱な状態で完璧に仕事をこなした自分に拍手をしたい気持ちになった。
昨日のあのことがあったせいで今日はまともに白石部長と接することができないんじゃないかと危惧していたけれど、それは杞憂に終わった。何度か仕事の関係で部長に接する機会はあったけれど、ちゃんと笑顔でいつもどおりの受け答えができていたはずだ。私の演技力も捨てたものじゃない。
「ふふ、将来女優にでもなれるかも、なんてねー」
「へえ、女優になるんか」
「はい?!」
ドアが開く音とともに聞こえたその声は、今一番会いたくないと思っていた人のものだった。しかし、条件反射で身体を起こしてしまう。寝たフリすればよかった!そう後悔しても、もう遅いのはわかっていた。
「今からサインもらっといたほうがええよな~」
どこかから生徒手帳とペンを取り出した部長に、慌てて否定する。
「サインとか!今のは全然冗談ですから!」
「はは、わかってるわ。からかっただけや」
慌てる私を見て、部長はやっぱり楽しんでいるのだろうか。
そして、からかわれていた一瞬だけは忘れていたけれど、昨日のことを再び思い出す。そして、思いださなければよかったと思う。
「でも部長、何でミーティングから戻ってきたんですか」
「何で、て。部室の鍵持ってるの俺やろ?戸締りせな」
「あ、」
そうだった。気づくのが遅すぎた。
今日から1,2年だけの新体制となって、部長と副部長になった小石川先輩とオサムちゃんは、部活が終わってからミーティングをしていた。小石川先輩はミーティングで使う教室にラケットバッグを背負って行ったから、私は部長も小石川先輩もそのまままっすぐ帰るものだと思っていて、他の部員が帰って自分も制服に着替えた後、部室を1人占めしながらゆっくり仕事を片付けていたのだ。
「それから、もう1つの理由はな、支倉に用事あったんや。まだ部室にいてる思って」
「私に用事?」
「……なんや今日いつもと違うよな? ちなみにそう感じてたのは俺だけやないで。 小春も謙也も心配しとったわ」
前言撤回。私はやっぱり女優には向かないようだ。
「俺としては空元気って言葉がいちばんしっくりくるんやけど、何かあったん?」
「何かって、何もないですよ。昨日あんまりゆっくり休めなかっただけで」
「……ふーん」
あからさまに納得してない声色での相槌は、妙に腹が立つ。
「ほんとですよ!久々に梅田に買い物に行ったら疲れちゃったんです」
「え、ほんま? 俺も昨日あのへん行っててんけど」
はい、知ってます。彼女さんらしき人と歩いてるのを見ました。
というセリフは心の中だけにとどめておいて、驚いたふりをする。
「ほんとですか?!」
「ああ。せっかくのオフやっちゅーのに姉貴に連れ出されてな。マジしんどかったわ」
え?
こういうオチですか?!
「お姉さん?!」
「え?言うてへんかったか?俺、姉と妹おんねん」
「は、初耳……!」
あの美人な彼女さんは部長のお姉さんだったのね……。
部長に彼女がいるという噂が立っていないのも、昨日並んで歩いているわりにはカップルっぽく見えなかったのも、これで説明がつく。
「……美形遺伝子」
「何か言うた?」
「いっ、いえ」
あの女の人が部長の彼女さんではなくてすごく嬉しいのだけれど、一気に疲れが出た。昨日1日悩んだ自分はいったい何だったんだろう。
「けど、良かったわ。疲れてるだけで、結局何もあらへんかったんやもんな?」
「まあ、正確に言うと、今なくなったというか……」
「え?」
「いえ、気にしないでください! あ、そろそろ部室閉めないと――」
「まーた都合悪なったら話題変えよる」
――あ、ばれてる。
もう半年もほぼ毎日顔を突き合わせていれば、あの個性派ぞろいの四天宝寺を束ねている部長なんだから、私の行動パターンなんて完全に読めているのだろう。
「せやけど、元気になったんやったらええか。ほな言われたとおり、部室閉めるで」
部長は私の頭を軽く撫でる。久しぶりに部長にいいこいいこをされた気がしたけれど、実際に妹さんがいると知ったら、こっちはこんなにどきどきするというのになんだか本当に妹のようにしか思われていないようで、素直に喜んでいいものなのかわからなくなる。しかし、今は万に一つ、部長が私のことを好きになってくれたとしても、まだ部長とマネージャーの関係を保たなければいけない時なのだ。これくらいでちょうどいい。
私は部室の電気を消して、部長はポケットから鍵を取り出す。そして施錠をして、校門へ向かう。
「それじゃ、部長、お疲れ様でした」
「あ、今日もしかして帰り、寄るとこあるん?」
「え?いや特に……」
「俺もこっちやねん。いっしょに帰らへん?」
そんな誘いを、断れるはずもなく、そして、断るはずもなかった。
昨日とは違った意味で身体が重たかった。思いだされるのは例の光景だ。
あの白石部長に、あの見目麗しい彼女。お似合いすぎて私が入りこむ余地なんてなかったし、何より部長が彼女とつきあうことでしあわせならそれでいいんじゃないか。2人の邪魔をするつもりなんて毛頭ない。
それでも私の頭は、その事実を信じたくないのか、変にポジティブなことも考えていた。白石部長は校内でもあんなに人気があるのだから、彼女がいたら校内で噂になっているはずだ。しかし、そんな噂はないし、彼に告白する女の子は絶えない。そして、今日見かけた部長と彼女は手をつないでいたりしていたわけではない。
もしかしたら、あの人は部長の彼女じゃないのかもしれない。
それでも、彼の片想いの可能性も十分あり得る。
ふと、もらったメールを思い出した。
ほな、また明後日会えるの楽しみにしてるで。
――そんなこと言われても、正直、複雑だ。
第12話 Pennies from Heaven
「終わった……!」
活動日誌を書きあげて達成感でいっぱいになった私は、もうほとんどの部員が帰ってしまって部室に誰もいないことをいいことに、机の上に突っ伏す。今日1日、ひどく憂鬱な状態で完璧に仕事をこなした自分に拍手をしたい気持ちになった。
昨日のあのことがあったせいで今日はまともに白石部長と接することができないんじゃないかと危惧していたけれど、それは杞憂に終わった。何度か仕事の関係で部長に接する機会はあったけれど、ちゃんと笑顔でいつもどおりの受け答えができていたはずだ。私の演技力も捨てたものじゃない。
「ふふ、将来女優にでもなれるかも、なんてねー」
「へえ、女優になるんか」
「はい?!」
ドアが開く音とともに聞こえたその声は、今一番会いたくないと思っていた人のものだった。しかし、条件反射で身体を起こしてしまう。寝たフリすればよかった!そう後悔しても、もう遅いのはわかっていた。
「今からサインもらっといたほうがええよな~」
どこかから生徒手帳とペンを取り出した部長に、慌てて否定する。
「サインとか!今のは全然冗談ですから!」
「はは、わかってるわ。からかっただけや」
慌てる私を見て、部長はやっぱり楽しんでいるのだろうか。
そして、からかわれていた一瞬だけは忘れていたけれど、昨日のことを再び思い出す。そして、思いださなければよかったと思う。
「でも部長、何でミーティングから戻ってきたんですか」
「何で、て。部室の鍵持ってるの俺やろ?戸締りせな」
「あ、」
そうだった。気づくのが遅すぎた。
今日から1,2年だけの新体制となって、部長と副部長になった小石川先輩とオサムちゃんは、部活が終わってからミーティングをしていた。小石川先輩はミーティングで使う教室にラケットバッグを背負って行ったから、私は部長も小石川先輩もそのまままっすぐ帰るものだと思っていて、他の部員が帰って自分も制服に着替えた後、部室を1人占めしながらゆっくり仕事を片付けていたのだ。
「それから、もう1つの理由はな、支倉に用事あったんや。まだ部室にいてる思って」
「私に用事?」
「……なんや今日いつもと違うよな? ちなみにそう感じてたのは俺だけやないで。 小春も謙也も心配しとったわ」
前言撤回。私はやっぱり女優には向かないようだ。
「俺としては空元気って言葉がいちばんしっくりくるんやけど、何かあったん?」
「何かって、何もないですよ。昨日あんまりゆっくり休めなかっただけで」
「……ふーん」
あからさまに納得してない声色での相槌は、妙に腹が立つ。
「ほんとですよ!久々に梅田に買い物に行ったら疲れちゃったんです」
「え、ほんま? 俺も昨日あのへん行っててんけど」
はい、知ってます。彼女さんらしき人と歩いてるのを見ました。
というセリフは心の中だけにとどめておいて、驚いたふりをする。
「ほんとですか?!」
「ああ。せっかくのオフやっちゅーのに姉貴に連れ出されてな。マジしんどかったわ」
え?
こういうオチですか?!
「お姉さん?!」
「え?言うてへんかったか?俺、姉と妹おんねん」
「は、初耳……!」
あの美人な彼女さんは部長のお姉さんだったのね……。
部長に彼女がいるという噂が立っていないのも、昨日並んで歩いているわりにはカップルっぽく見えなかったのも、これで説明がつく。
「……美形遺伝子」
「何か言うた?」
「いっ、いえ」
あの女の人が部長の彼女さんではなくてすごく嬉しいのだけれど、一気に疲れが出た。昨日1日悩んだ自分はいったい何だったんだろう。
「けど、良かったわ。疲れてるだけで、結局何もあらへんかったんやもんな?」
「まあ、正確に言うと、今なくなったというか……」
「え?」
「いえ、気にしないでください! あ、そろそろ部室閉めないと――」
「まーた都合悪なったら話題変えよる」
――あ、ばれてる。
もう半年もほぼ毎日顔を突き合わせていれば、あの個性派ぞろいの四天宝寺を束ねている部長なんだから、私の行動パターンなんて完全に読めているのだろう。
「せやけど、元気になったんやったらええか。ほな言われたとおり、部室閉めるで」
部長は私の頭を軽く撫でる。久しぶりに部長にいいこいいこをされた気がしたけれど、実際に妹さんがいると知ったら、こっちはこんなにどきどきするというのになんだか本当に妹のようにしか思われていないようで、素直に喜んでいいものなのかわからなくなる。しかし、今は万に一つ、部長が私のことを好きになってくれたとしても、まだ部長とマネージャーの関係を保たなければいけない時なのだ。これくらいでちょうどいい。
私は部室の電気を消して、部長はポケットから鍵を取り出す。そして施錠をして、校門へ向かう。
「それじゃ、部長、お疲れ様でした」
「あ、今日もしかして帰り、寄るとこあるん?」
「え?いや特に……」
「俺もこっちやねん。いっしょに帰らへん?」
そんな誘いを、断れるはずもなく、そして、断るはずもなかった。