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即興小説

利害の一致

 結婚は人生の墓場という格言がある。かくいう私も結婚とは人生の墓場であり、地獄への門であると考えている。周りの人間は私を心から祝福してくれたが、彼女との結婚は私にとっての幸福とは結びつくものではない。
 確かに彼女は人並みに美しく、性格も良い。料理上手で仕事にも精を出している。才色兼備な彼女を伴侶にした私を皆が祝福したが、私の心は満たされなかった。彼女が嫌いな訳ではない。互いに親の進めた見合いから始まった関係だが、互いに嫌な部分があるわけでも、互いが嫌いあっている訳でもない。だが……
「お兄ちゃん。ほら、折角の結婚式なんだから笑わなきゃ!」
「姉さんも。なんだか二人とも酷い顔をしているよ。笑って笑って」
 私の妹と彼女の弟。控室で死んだ魚の目をしている私たちを笑顔にしようと近づいてきた彼らに自然に私の頬は緩んでいく。それは隣の彼女も同じようだった。互いに異性と結婚するつもりのなかった私たちが結婚を選んだのはただの利害の一致なのだ。可愛らしい義理の弟(妹)に「お兄ちゃん(お姉ちゃん)」と呼ばれたい。あわよくばそのままお近づきになりたい。その願望を叶えるべく私たちは結婚の道を選んだのだ。
 こんな打算的な結婚だと知っているのは彼女と私の二人だけ。この秘密を彼らに話す日が来るのか、それとも墓場まで持っていくのかはまだわからない。だが、今この瞬間。私たちは確かに幸せだった。
(お題:打算的な結婚)
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