ワンシーン
僕は何も分からず、ただただ目の前で繰り広げられている景色を茫然と眺めていた。
「あははっ!」
そして、耳には楽しげに笑う男の声が響き、鼻は充満する鉄の匂いを吸い、瞳は真っ赤に染まった部屋と無惨な姿に変わった親だけど親では無い物を写した。喉奥から込み上げてくる気持ち悪さに我慢できず、床に酸性の液体を吐き出す。喉を焼く様に湧き上がってくる胃液に苦しみながら、僕はこんな普通の人生を歩めば感じたり見ることのない筈の匂いや景色に、何故この場に居るのだろうかと疑問を持った。
目の前はただただ深紅で染められた世界に、肉塊と化した両親らしき物、そして肉塊から見える頭蓋骨の奈落のような空っぽの穴が僕を見つめ、まるで「何故お前だけが……」と呪いを込めた視線を送ってくる。
「あれ? 吐いちゃった?」
涙で歪む視界の端に口を歪め、怪しく笑う男の姿を捉えた。男は純粋な黒ではない青が混じった様な紺色に近い髪を赤く染め、同じ色の瞳は深淵を湛え、何処までも深く暗い光の無い瞳だった。
「お前は誰なんだ! そして、何でこんなことを……」
痛い喉から搾り出す様に必死に声を出し、この景色を作った男に言い放った。
「俺はレイ。何でって依頼だからに決まっているだろ? まぁ楽しいからって言うのもあるけど。」
楽しそうに目を細めながら言うその回答に僕は理解が出来なかった。
依頼だから? 楽しいから? 意味が分からない。そんな理由で人を殺していいのか!
まるで何一つおかしい事はないと言うケロッとした表情でいるのが一番理解し難かった。
「意味が分かんねぇ。」
格下が睨んだところで怖がらないだろうが、それでも僕は怨みをこいつにぶつけることしか出来ない。
「本当に面白いねぇ君は、気に入ったよ。」
そう言うとレイは僕に近づき顎を掴んできた。よりはっきりとこの男の闇が見えた気がした。この男に光など無いのだと。あるとすれば狂気の青い光だけだろう。
「お前な……」
何するんだよと文句を言おうと開いた口は言葉を紡ぐ前にレイの口によって塞がれ掻き消された。
「ングッ……」
深淵を湛えた瞳に一瞬飲み込まれそうになったが、口内でぬるっと動くレイの舌に驚き、奈落に落ちる手前で踏み留まった。ただそれは良くもあり悪くもあった。
“気持ち悪い”
それは吐き気ではなく心から込み上げてくる嫌悪感だった。ただやられっぱなしなんて性に合わない。
ガリッ
僕の口内で蠢く舌を思いっきり噛めば、血の鉄の味が口に広がった。
「いった〜」
流石に痛かったのかレイは僕から離れ、眉を顰めた。ペッと血が混じった唾液を床に吐けば、口に広がる鉄の味は薄らいだ。
「クソ野郎が!」
吐き捨てる様に言えば、キョトンとした様に目を丸くして僕を見下ろす。だけど次の瞬間、レイは弧を描く様に口角を上げ、目を細め、腹を抱えて笑い声を零した。笑い声が止まり、再び僕を見る瞳はまるで新しい獲物を見つけたかのようだ。
「やっぱりお前を連れて帰る。」
そう言うと僕の服を掴み、肩に担ぎ歩き始めた。暴れようとすると、鋭い殺気と冷たい金属の様な物が首に当てられた。僕はヒュッと喉を鳴らすことしか出来ず、そのまま何処かへ連れて行かれた。これがレイとの出会いだった。
「あははっ!」
そして、耳には楽しげに笑う男の声が響き、鼻は充満する鉄の匂いを吸い、瞳は真っ赤に染まった部屋と無惨な姿に変わった親だけど親では無い物を写した。喉奥から込み上げてくる気持ち悪さに我慢できず、床に酸性の液体を吐き出す。喉を焼く様に湧き上がってくる胃液に苦しみながら、僕はこんな普通の人生を歩めば感じたり見ることのない筈の匂いや景色に、何故この場に居るのだろうかと疑問を持った。
目の前はただただ深紅で染められた世界に、肉塊と化した両親らしき物、そして肉塊から見える頭蓋骨の奈落のような空っぽの穴が僕を見つめ、まるで「何故お前だけが……」と呪いを込めた視線を送ってくる。
「あれ? 吐いちゃった?」
涙で歪む視界の端に口を歪め、怪しく笑う男の姿を捉えた。男は純粋な黒ではない青が混じった様な紺色に近い髪を赤く染め、同じ色の瞳は深淵を湛え、何処までも深く暗い光の無い瞳だった。
「お前は誰なんだ! そして、何でこんなことを……」
痛い喉から搾り出す様に必死に声を出し、この景色を作った男に言い放った。
「俺はレイ。何でって依頼だからに決まっているだろ? まぁ楽しいからって言うのもあるけど。」
楽しそうに目を細めながら言うその回答に僕は理解が出来なかった。
依頼だから? 楽しいから? 意味が分からない。そんな理由で人を殺していいのか!
まるで何一つおかしい事はないと言うケロッとした表情でいるのが一番理解し難かった。
「意味が分かんねぇ。」
格下が睨んだところで怖がらないだろうが、それでも僕は怨みをこいつにぶつけることしか出来ない。
「本当に面白いねぇ君は、気に入ったよ。」
そう言うとレイは僕に近づき顎を掴んできた。よりはっきりとこの男の闇が見えた気がした。この男に光など無いのだと。あるとすれば狂気の青い光だけだろう。
「お前な……」
何するんだよと文句を言おうと開いた口は言葉を紡ぐ前にレイの口によって塞がれ掻き消された。
「ングッ……」
深淵を湛えた瞳に一瞬飲み込まれそうになったが、口内でぬるっと動くレイの舌に驚き、奈落に落ちる手前で踏み留まった。ただそれは良くもあり悪くもあった。
“気持ち悪い”
それは吐き気ではなく心から込み上げてくる嫌悪感だった。ただやられっぱなしなんて性に合わない。
ガリッ
僕の口内で蠢く舌を思いっきり噛めば、血の鉄の味が口に広がった。
「いった〜」
流石に痛かったのかレイは僕から離れ、眉を顰めた。ペッと血が混じった唾液を床に吐けば、口に広がる鉄の味は薄らいだ。
「クソ野郎が!」
吐き捨てる様に言えば、キョトンとした様に目を丸くして僕を見下ろす。だけど次の瞬間、レイは弧を描く様に口角を上げ、目を細め、腹を抱えて笑い声を零した。笑い声が止まり、再び僕を見る瞳はまるで新しい獲物を見つけたかのようだ。
「やっぱりお前を連れて帰る。」
そう言うと僕の服を掴み、肩に担ぎ歩き始めた。暴れようとすると、鋭い殺気と冷たい金属の様な物が首に当てられた。僕はヒュッと喉を鳴らすことしか出来ず、そのまま何処かへ連れて行かれた。これがレイとの出会いだった。