ワンシーン

⚠︎監禁もの

翡翠「蜘蛛」
鏡夜のことが大好き。ストーカー。

鏡夜『蝶』
翡翠の友達。最近ずっと見られているような気がする。翡翠が自分のことが好きなのは知らないし、蜘蛛なのも知らない。

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『あれ…?ここは…』

 目を覚ますと知らない部屋にいた。立ちあがろうとすると右足が重く、ジャラジャラッと金属のぶつかる音がする。何だろうと思い右足を見ると、簡単に壊れなさそうな頑丈な足枷が付いていた。何処に鍵があるのか探そうとした瞬間──

「ねぇ何処に行くの?」

 聞き慣れた声が背後から聞こえた。

『───ッ!』

「アハハッ驚いた顔可愛い♡」

『何でお前が……』

 そこにいたのは愉しそうに、口元に弧を描いた翡翠がいた。

『ここは何処なんだよ!』

「まぁそんなこといいでしょ。
 実はね僕蜘蛛なんだよねぇ〜」

『えっ……』

 急に翡翠にカミングアウトされ、驚愕する。だって蜘蛛は俺ら蝶を喰う敵だ。蝶は蜘蛛に捕まったら逃げられず、ただ泣き喚き喰われるだけの被食者だ。

「俺を喰うつもりなのか…?」

 俺の恐怖心が翡翠にバレないように、奥歯を噛み締め、声が震えそうになるのを抑える。

『うーん、どうしようかね?』

 目を細め、嗤いながら言ってくる。恐怖が体を支配する。息がし辛い。心臓がバクバクと大きな音を立てて脈打つ。

「お、俺は蛾だぞ」

 嘘を言う。蛾は俺たち蝶と似ているが、毒を持ち、蜘蛛が蛾を喰らえば死に至る。蜘蛛にとって蝶と蛾は見分けがつけづらく、喰う時に慎重に見極めないと自分まで死んでしまう。だから、蜘蛛にとって蛾は怖いのだ。

 だけどそんなことはお構いなしとばかりに嗤いながら、俺を見下ろす。

「僕は鏡夜くんが蛾だったとしても全然いいよ。」

 そう言うと俺の頬をペロリと舐める。翡翠のザラザラとした舌が頬を擦り、生暖かくねっとりとした唾液が付く。舌が離れると頬についた唾液は、空気に触れスーッと冷えていく。

「んっ… 美味しい。フフッもし蛾だったら一緒に死のうね♡ あぁ… 早く喰いたいなぁ♡」

『や、やだ… 死にたくない……』

 涙が溢れて視界がボヤける。もう虚勢なんかは張れない。もう限界だ。どのみち俺は翡翠に喰われて死ぬ運命しかないんだ。別の選択肢なんかない。逃げるなんて絶対に無理だ。蜘蛛の巣に引っかかった、哀れな|俺《蝶》は踠いても逃げることは絶対に出来ない。俺がもう無理だと絶望すると。

「あぁごめん… 怖かったよね。嘘だよ。
 鏡夜くんのこと喰わないから。安心して。」

 申し訳なさそうに、俺を優しく抱きしめる。その温かさを感じると震えが止まり、恐怖心が消えた。

 何で?さっきまで怖かったのに… 普通は逆に恐怖心が湧き上がる筈なのに。何でこんなにも安心してしまうの?

「大丈夫だよ… 大丈夫だよ…」

 優しく言う翡翠の声が、さっきとのギャップで頭の中がぐちゃぐちゃになる。

「好きだよ鏡夜くん。好き… 大好きだよ。」

 翡翠が囁く愛の言葉が、頭の中で反響する。もう分かんない。考えられない。ただただ好きという言葉が繰り返される。



『好き… 俺も、俺も好きだよ♡』

「アハハッ堕ちてくれた。好き、いや、愛しているよ、鏡夜くん♡」
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