本編

 ?? side

 僕らは気付かなかった。
 崩壊の始まりの音が小さく鳴り響いていることを──
 僕の小さな行動が。この後、僕らの関係を壊してしまうことを。この世に永遠に変わらないものは少ない。そんなことにあの時の僕は気付いていなかった。




 紺 side

 あの日翡翠にキスをされてから、ずっと翡翠のことが気になって仕方がなくなった。この気持ちが恋なのか、それともキスをされて恥ずかしいだけなのか分からない。ただ翡翠を見ていると心臓がバクバク言って、体温が上がる。何でだろうとボーっと考えていると

「なぁ紺。話したいことがあるんだ」

 真剣な面持ちで煉が話しかけてきた。そんな表情で話しかけてくるから、それだけ重要なのだと感じた。

 どうしたんだろう。もしかして病気が早まったとか? もしそうだったら。不安に駆られながら煉の後を着いていく。

「入って」

 連れてこられたのは煉の部屋だった。多分他の人に聞いてほしくないんだろう。

「それで話って?」

 恐る恐る聞く。不安が心の中で蠢く。

「紺、お前翡翠のことが好きだろ」

「えっ!」

 突然のことで驚いた。まさかそんなこと聞いてくるなんて。

 そんな俺が翡翠のことが好きだなんて、そんな。

「ぁ、えと……」

「どっちなの」

「す、好き、かもしれない……」

 戸惑っていると強く言われ、ゆっくりと声に出した途端、体から湯気が出るのではと思うほど急激に暑くなった。

「なぁ紺、そんな気持ちはここに持ち込まないで欲しい」

「え……」

 今まで見たことのない鋭く冷たい目で見られる。ギュッと心臓が掴まれたような感覚がする。

「なぁ僕ら四人はずっと支え合って行くって言ったじゃん」

「うん」

「もし紺と翡翠が付き合ったらどうするんだよ!」

「どうって今までと」

「今までと? 変わらないって思っているの? ねぇ紺」

「……」

 俺は分からなかった。その先がどうなるかなんて。

「付き合ったらどうせ出ていくんだろ! そしたら僕と氷雨だけが残される。そんなの嫌なんだよ!」

「じゃ、じゃあ出ていかないなら」

「どっちにしろこの関係は変わるんだよ! 一緒に居てもやっぱり二人で居たがるだろ。僕らは奇病持ちなんだよ。僕と氷雨だけじゃ無理なんだよ」

 俺は、俺は。

「分かった。離れないから。大丈夫だから。付き合ったりしない。というか出来ないよ。翡翠が俺のこと恋愛的に好きなはずないじゃん。絶対仲間としてだからッ。」

 優しく抱きしめて言う。

 心配しなくても大丈夫だよ。まず付き合うことが無理なんだよ。絶対翡翠は俺のこと恋愛的に見てないよ。絶対、絶対そうだよ。

 翡翠が俺のこと好きじゃないなんて考えたせいか涙が出てきた。

 あぁ、何でこんなにも辛いんだ。気づかなければ良かったのに。

 翡翠じゃないのに心臓が痛い。
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