本編

 僕は寝ている紺くんの頭を優しく撫でる。もう少し、もう少し早く気づいていれば、こんなことにはならなかっただろう。ズキリと胸が痛くなる。それは病気のせいなのか、それとも。今回のことで分かったが僕は自分のことしか考えていなかった。だから紺くんが最近4時ぐらいにトイレに行っているのを知っていても何もしなかった。偶々だと心に言い聞かせて、僕はずっと気づいていたのに見て見ぬふりをしていた。今回じゃないもっと前から……

 紺くんの病気が悪夢・・だと知った時から





 あの日は確か痛みを紛らわせるために、夜遅くゲームをしていた。

「ん〜 疲れた……」

 立ち上がりグーっと体を伸ばす。寝る前にトイレに行こうと音を立てないように開け、廊下は暗いから転ばないようにゆっくりと歩く。すると何処からグスッグスッ……と誰かの泣いている声が聞こえた。何処だろうと思い探すと紺くんの部屋から聞こえるのが分かった。僕は静かに紺くんの部屋に入ると、紺くんがベッドで涙を流しながら

「やだ、助けて……」

 と小さな声で呟いていた。

「大丈夫だよ」

 僕は優しく頭を撫でてあげると嬉しそうな表情になる。紺くんの病気は眠るだけだと思っていたけど、もしかすると。

「………」

 僕は紺くんの涙を優しく掬うと、すぐに部屋から出た。扉を閉めると足の力が抜けズルズルと滑り、扉に背をくっ付けて床に座わりこむ。胸元の服を強く握りしめる。

 心臓が痛い。ドキドキしているし苦しい。何でこんな時に病気が。痛い。痛い。何でこんなに痛いんだ。こんなの知らない。身体中が暑い。

 冷静になろうとゆっくり目を閉じる。さっきあったことが思い浮かんでくる。

 空いている窓から入る冷たい風が僕らを包み、カーテンがゆらゆらと揺れる。そして窓の外の月が僕らを照らす。月明かりに照らされた瞬間、紺くんの顔がハッキリと見えるようになった。夜のような深い青い髪、真珠のように輝く涙、綺麗な真っ白な肌、そして血色のいい唇。僕はゆっくり顔を近づける。あと少しで触れるぐらいになった時

「んぅ……」

「───ッ!」

 危なかった。あそこで紺くんが声を出していなければ、あと少しでキスを。そして僕は部屋を出て今に至る。何で僕はキスなんかを。もう分からない。何もかも分からない。分かるのはただ心臓がうるさくて痛いだけだ。
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