本編

「ふざけるなよ、心配することが一つもないはずないだろ!」

「うるさいうるさい! 俺がお前のことを心配したのに時には、俺の話を聞かなかったくせに! お前に口出しする権利なんてねぇだろ!」

「──ッ!」

「俺にはお前ら痛みなんて分からなよ! ただ悪夢を見ているだけの俺は我慢しないと いけねぇんだよ! 悪夢を見るだけで痛みもなく死ねるんだからなッ!」

「悪夢って……」

「暗闇だけが広がる世界で化け物と追いかけっこして喰われる。ただそれだけの夢だよ」

「ただそれだけって。そんな悪夢を見て平気でいられるはずないでしょ!」

「当たり前じゃん? 平気でいられるはずなんてないんだよ。 そういえば、今日はまたあの悪夢だと分かった瞬間、発狂したせいで直ぐに喰べられちゃったよ。アハハハハッ」

 まるで何も無かったかのように話す紺くんは、光はなくどこまで昏く深い奈落の闇を湛えた瞳で僕らを見つめる。僕はそんな紺くんを見て背筋に冷たいものが走った。

「なんで平然とした様子で言うの……」

「ん〜なんでなんだろうね? 俺にも分からないや」

 紺くんはニッコリと笑い、 首を傾げた。

「ごめん紺……」

 黙っていた煉くんが紺くんを力強く抱きしめると、驚きイヤそうな顔をして煉くんを自分から離そうとする。

「離れろ煉!」

「やだ! お願いだからいつものお前に戻ってくれ!」

「うるさい! お前はッ!」

「分かっている。僕に口出しする権利なんてないことなんて。それでも僕は紺の辛そうな顔が見たくないんだ!」

「紺くんお願い、我慢しないで!」

 煉くんに続いて氷雨くんも紺くんに抱きついた。僕はそれを見て優しく抱きしめ、囁くように話しかける。

「いいんだよ、紺くん。我慢しなくいで、辛かったら僕たちに話してよ」

 少しだけ沈黙が流れる。

「俺は、我慢しなくていいの?」

 迷子の子供のような不安げな表情で僕達に聞く紺くんの頭を撫でてあげる。

「いいんだよ、いいんだよ……」

「怖かった、怖かったよ。俺一人だけで化け物に追われて……」

 紺くんは僕たちに抱きつき泣きじゃくった。泣き疲れたからなのか、それともさっき全部言ったおかげなのか分からないが、今は幸せそうに寝ている。
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