本編

「い゙だい゙ い゙だい゙ い゙だい゙ い゙だい゙!」

 煉の悲痛の叫びが部屋中に響く渡った。悲痛の叫びの原因は体から出てきた赤い炎だった。炎は揺らめきながら皮膚を焦がしていく。同時に肉を焼く匂いが部屋を漂い始める。それに気づいた俺と氷雨は煉の元へ駆け寄り、声をかけた。

「大丈夫⁉︎」

 氷雨は慌てて分厚い上着を脱いで煉を抱きしめた。なんで氷雨が煉を抱き締めているのかは2人の病気に関係している。煉は体が燃える烈火病、そして氷雨は煉と正反対で体が凍っていく氷晶病。彼らは正反対の病気のため進行を遅らせることができる。煉は体を冷やすことで、氷雨は体を温めることで。だから2人は抱きしめあっているのだ。

「今包帯持ってくる。」

何もすることが出来ない俺は包帯を取りに行こうとした。だけど煉は俺の洋服を掴み、止めた。

「はぁ、はぁ…… 紺もう大丈夫だからいい……」

 少し治ったみたいだがまだ苦しいようで煉は顔を歪めていた。

「でも……」

「大丈夫だって」

「ダメだ! 傷が酷くなるだろ」

 これ以上放置しておくと煉が苦しいだけだ。だから早めに治して欲しい、その一心で強く言った。だけど、逆にそれが悪かったのか、煉は大きな声で叫ぶように言葉を放った。

「うるさいなぁ! お前はいいよな。こんな痛みも味合わずに死ねるんだからな。」

「……ッ!」

「煉くんそれはッ…」

「いや、煉の言う通りだよ。ごめんしつこくて……」

「……」

「俺部屋に戻るよ」

 氷雨はすぐに煉を鎮めようとしたが、俺は迷惑をかけられないと思い一言言うと自室に戻った。部屋を出る時、氷雨は何とも言えない表情で俺を見ていた気がした。自室に入ると、俺はすぐに鍵をかけ、ベッドに腰を下ろした。目を閉じて、深く息を吐くと煉の声が蘇った。“痛みを味合わずに死ねる” これは多分この家に住んでいる俺以外の3人が望んでいることだろう。俺らはそれぞれ死に至る不思議な病気にかかっている。その中でただ一人、俺だけが苦しみを味合わずに永遠の眠りにつける。

 『永眠病』
日に日に寝る時間が増え、最終的には永遠の眠りにつく病気。ただそれだけ。火が出る訳でもないし、凍ってもいかない。ただ寝るだけ。

俺は煉の言った通りだと思った。みんなと違って苦しまずに死ねる俺はなんとも幸せな最後なのだろう。俺は目を腕で覆い隠して寝そべると急に眠気が襲ってきた。

「起きないと……」

 病気の進行を遅らせるためには寝ないようにしないといけないが、俺は眠気に負け寝てしまった。








「此処は何処だ」

 目が覚めると知らない場所に居た。周りを見渡すが只々暗闇が広がっているだけだった。音や匂いはしない。何も無い暗い部屋だ。まるで俺みたいだと自嘲しながらも此処を出る方法を探し始めた。

「誰か居ますかー」

 歩き続けるが出口は見えず、大きな声で叫ぼうが何も反応はない。ここから出られるのか雲行きが怪しく、疲れと不安を吐き出すように息を吐いた。そしてまた探索へと一歩踏み出した。








 あれから何分経ったのか、どれぐらい歩いたのか。只々暗闇しか広がらない世界は、俺の感覚を麻痺させ始めていた。

「おーい誰かー」

 意味はないと思うが少しの可能性に縋りつき叫ぶがまたも反応はない。もう助からないと思った瞬間──

 ベチョ……ペチョ……

 何か粘着性のある液体っぽいものの音が、後ろからした。疑問に思い、俺はゆっくり振り向くとそこには居たのは俺より倍ぐらい大きい謎の生命体だった。そいつはボタボタと粘性の液を垂らしながら何本もの触手が蠢かせ、頭部には5、6個あるビー玉のような赤く光る目が俺を見下ろしていた。まるでこの世の生物と思えない悍ましく背徳的な冒涜的な雰囲気を纏う、そんな恐ろしい生物。それが俺の後ろにいた。

「えっ……」

 驚きのあまり俺がそう呟いた瞬間、俺の視界は真っ暗になり、俺は勢いよく起き上がった。

「はぁ、はぁ……」

 運動後のように苦しくなる肺に酸素を入れようと呼吸した。ゆっくりと辺りを見回すといつも見慣れた机にパソコンなど、自室に置いてある物が視界に映った。

「自分の部屋か」

 俺は現実に戻ってこれたと安心すると同時に、さっきのあの何と表現すれば良いのか分からない冒涜的な生物を見たせいか吐き気が俺を襲った。急ぎながらも静かに扉を開けてトイレに駆け込んだ。吐き終わると丁度。

「ご飯の時間だよ」

 と氷雨に呼ばれた。口を濯いでからリビングに行くと煉が居たが、さっきのことがあったせいか俺と目を合わせてくれず、ずっと別の場所を見つめていた。
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