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二度目の告白 ~君なしではダメ~

デスクに戻り椅子に座って天井を仰ぎ見る。

「…さん。瑞希さん?」

窺う様な声にそっちを見ると、ドミニクがアイスコーヒー片手に心配そうに俺を見ていた。

「サンキュ」

差し出されたグラスを受け取りストローに口をつける。

「話って何だったの?」
「別に~。写真集の撮影をしないかって話~」
「写真集?瑞希さんに?」
「ああ。何かさ~、直々のご指名なんだと~」
「指名って……もしかして…… “幼馴染” ?」

ストローをくるくると回すとグラスの中の氷がカランと鳴った。




爽汰は昔から俺に対する気持ちを隠さなかった。
大っぴらに「好き」と言葉にする事は無くても、爽汰の態度が視線が表情が…その全てが俺に「好き」と伝えていた。
俺も最初はそれを受け入れていた。
爽汰の “好き” は兄貴分として俺が好きなんだと思っていたし、俺も弟として爽汰が好きだったから。
でもいつの頃だったか、爽汰に抱きつかれる度に自分の心臓がドキドキする様になった。
繋いだ爽汰の手が、いつもより熱く感じる様になった。
爽汰が傍に居る事が嬉しいのに苦しくて、でも離れたくなくて…

四歳も下で弟も同然の爽汰に自分が魅かれているのだと気づいた時、この想いは墓場まで持って行こうと思っていた。
小学生で既に告白されたり、中学に上がれば入学式の数日後に数人から告白されるぐらいにはルックスも良く性格も明るい爽汰の周りには、いつも女の子が居た。
俺も何故か不思議とモテたけど、時折り感じる “何か違う” という感覚に長続きはしない事が多かった。
今思えばそれは……隣に居るのが爽汰じゃないからだったんだろう。


直ぐ傍に、隣に爽汰が居る事が当たり前になり過ぎていたんだ。


「お前さぁ、モデルとか意外とイケるんじゃないか?」
「いや無理だから。何言ってんの?」
「そんなのやってみなきゃ分かんないだろ?」
「いや分かるって!」
「お前いつもムカつくぐらいに自信満々のクセに、何でこういう時は尻込みするんだよ?」
「だって…それは…」
「大丈夫だって。俺がお前を最高にカッコ良く写真撮ってやるから」

あの言葉は自分の気持ちにブレーキを掛ける為と、ムカつくぐらいモテるのに特定の彼女を作らない爽汰を揶揄う気持ちが半分ずつだった。
照れながら、でも嬉しそうに俺の言うままにポーズを取る爽汰が可愛くて、俺も夢中でシャッターを切った。
モデルのオーディションを見つけて来ると写真を選び書類も俺が書いた。
胸の内で少なからず思っていた、 “俺の幼馴染はこんなにカッコイイんだぞ!” と。
そんな爽汰に想われているかもしれない事が……幸せだった。


けれど、


オーディションに合格しレッスンを受け始めた爽汰と会えない日が続くと、それがいかにちっぽけな幸せだったかを思い知らされた。
その後モデルとしてデビューし瞬く間に人気を得ていった爽汰は、誰もが知る名実共にトップモデルとして歩き始めたからだ。
いつも俺の後ろを追い掛けていた、自分より背が低い俺をしょっちゅう揶揄っていた、いつだって俺の隣で笑っていた爽汰はもう居ない。
俺の知らない、手の届かない遠い世界の人間になってしまった。
爽汰にモデルを薦めたのも、爽汰がモデルになるきっかけを作ったのも、誰よりそれを応援して喜んだのも俺だ。



そう思うと誇らしい思いと同時に、どうしようもなく寂しくて苦しくて……俺は “人” を撮る事ができなくなった。


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