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二度目の告白 ~君なしではダメ~

「………無いって言ったら…嘘になるかな」

少し俯いて、呟く様に那智さんが言った。

「初めて爽汰と一緒にミモザ館へ行った時、お前も見たって言ってた雑誌、あれを…俺も見たんだ。あの奎亮の写真見て……俺、すっげえ心が揺れた。奎亮は俺から離れて行かないって、心の中で勝手に思ってたんだろうな。俺の知らない奎亮に、何だか置いてかれた様な気持ちになった。そんな風になって初めて……俺は奎亮が好きなんだって気づいたんだ」
「那智さん…」
「爽汰と二度目にミモザ館で会った時の事、憶えてるか?」
「……俺が瑞希兄さんと喧嘩して追い掛けて行った時だよね」
「そう。あの時もさ……千屋さんを特別扱いする奎亮を…」
「特別扱い?」
「こんな言い方するとさ、爽汰はイヤかもしれないけど…奎亮にとって千屋さんは特別なんだと思う。ミモザ館を大切に思う奎亮の気持ちをちゃんと理解して、彼自身もミモザ館を大切に思ってくれてる。あの二人には俺の知らない絆?みたいなものがある気がするんだ…」

那智さんが寂しそうに、小さく微笑んだ。

「…俺ね、瑞希兄さんに写真を撮って貰うのが夢っていうか……目標の一つだった。モデルを始めるきっかけをくれたのが兄さんだったから、その目指す先にも兄さんと…て思ってた。けど兄さんは俺の前から居なくなっちゃって……。ミモザ館でまた会えて、俺の気持ちを伝えて、兄さんからも好きって言ってもらえて……でも…」
「…でも…まだ不安?」

一度俯く。微かに視界が滲んだ。

「…瑞希兄さんは……自分から連絡をくれる事は殆ど無いんだ。電話もメールもいつも俺からで。…この前も “兄さんと一緒にご飯行きたい” て言ったらダメだって…」
「それは爽汰の事を思ってだろ?爽汰が事務所の人以外の誰かと一緒に居れば良くも悪くも憶測で記事にされて騒がれるかもしれない。それを避ける為に…」
「分かってる。でも会いたいんだ。理由とか無くても……好きだから会いたいんだ」
「爽汰…」
「那智さんの気持ち、解るよ。瑞希兄さんが撮った氏原さんや林さんの写真、凄く良い表情だったもん。俺それ見て思ったんだ、 “ああ、瑞希兄さんがこんな表情にさせたんだなぁ” て。そう思うと妬けた。二人共本当に良い顔してたから。きっと氏原さんや林さんの気持ちとか思いとか、ちゃんと理解して受け止めて……だからあんな写真が撮れたんだと思う」

視界がどんどんボヤけて行く。

「今の俺は…瑞希兄さんの気持ちが分からないんだ。兄さんは本当に俺を好きなのか、それともあの時は単に俺に同情しただけなのか…」
「そんな事っ…!」
「会いたいって、一緒に居たいって……一度でも言ってくれたら、そしたら…」

頬を滑り落ちる感触に、手の甲を擦りつける。

「…ごめんね。こんな事那智さんに愚痴っても仕方ないのに」
「……良いよ、気にするな」
「写真集の件だけどさ、…確かめたいんだ、瑞希兄さんが本当に俺を好きなのか。氏原さんや林さんの時みたいに兄さんがちゃんと俺を見て、俺の想いを受け止めてくれるのか」
「………もし、もしもだぞ?…ダメだったら?」
「俺には瑞希兄さんしかいないけど……、その時は諦めるしかないよね」

つい力無く笑うと、那智さんが心配そうな泣きそうな顔を見せた。

「もう~、那智さんがそんな顔しないでよ!ほら、食べよう。せっかくの料理が冷めちゃったね」



半分無理矢理に口へ押し込んだ料理の味は、余り憶えていない。


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