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二度目の告白 ~君なしではダメ~

「千屋瑞希?」
「はい。元々は風景写真専門のカメラマンらしいんですけど、最近は人も撮ってるみたいで。前にチラッとですけどその人の写真を見た事があって、凄く良いなと。もし俺が写真集を出す事があれば絶対にこの人に撮って貰いたいと思っていたんです」

多少の脚色は入っているけど、概ね事実だ。
きっと俺が言っても瑞希兄さんは聞き入れてはくれないだろう。
でも事務所を通して正式に依頼すれば兄さんももしかしたら…。
仮に兄さんが難色を示したとしても、今を時めく人気モデルからの指名を出版社も無視はできないだろうから、俺の希望は十中八九通ると思う。
そんな打算はおくびにも出さず、社長を真っ直ぐに見て言う。

「俺の初めての写真集ですもん、やっぱり端から端まで納得のいく一冊にしたいじゃないですか。このカメラマンならそれができると思うんです」
「ふ~ん…千屋瑞希、ねぇ」
「…ダメですかね?やっぱそれなりに名前の通った人じゃないと」

人差し指で机をトントンと叩いていた社長が数分考える様な仕種を見せた後

「まぁ、俺も “希望があるなら検討する” て言った手前仕方ないな。ダメ元で出版社に打診してみよう」
「本当ですか?ありがとうございます!」

大きく頭を下げながら、社長には見えない様に小さくガッツポーズをした。




その日の夕方、

「爽汰」
「あ、那智さん」
「ちょっと時間、良いか?」

事務所を出ようとして那智さんに呼び止められた。
誘われるまま事務所のスタッフ達とよく行く近くの居酒屋へと足を向ける。
其処は居酒屋といっても大小の個室が複数あり店のスタッフも心得てくれているから、仕事の話やプライベートな事も周りを余り気にせずに話す事ができる。
店に着くとこじんまりとした個室に通された。
飲み物と幾つかの料理を注文した後、那智さんが少し躊躇い勝ちに口を開いた。

「爽汰、例の写真集の事だけど…」
「あ、那智さんも参加OKしてくれたんだってね。ありがと」
「ああ。…それでさ、お前……カメラマンに千屋さんを指名したって?」
「うん」
「………何か……あった?」

言葉を選ぶ様にして話す那智さんに顔を上げる。
真っ直ぐに那智さんを見ると那智さんも真っ直ぐに俺を見た。

「…別に無いよ。どうして?」
「マネージャーの早瀬さんが『千屋瑞希ってカメラマンを知ってるか?』て…それにお前は公私はちゃんと区別して来ただろ?」
「…そっか」
「『俺の地元にあるペンションを紹介した雑誌で名前を見た事がある』て答えたけど…、言わない方が良かったか?」
「……ううん。…ごめんね、何か心配?迷惑?掛けちゃって」
「そんな事は無いから良いけど…」

飲み物と料理が運ばれて来てテーブルに並べられている間、黙ったままの俺を那智さんが静かに見つめているのが分かる。

「…爽汰?」

店員が部屋を出たのを確認して那智さんを見る。

「……那智さんは氏原さんの気持ちを疑った事ある?」
「えっ…?」
「氏原さんが本当に自分を好きなのか…不安になった事って無い?」



那智さんの瞳が揺れた。


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