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二度目の告白 ~君なしではダメ~

「爽汰、例の話は考えてくれたか?」

数日が経って再び社長に呼ばれた。
社長は普段からゴリ押しや無理強いをする事は無い。
今まで受けた仕事は全て俺が納得済みで引き受けた物だ。
だからこそ、此処まで社長が拘る今回の件は、俺にとってだけでなく事務所にとっても良い話なのだろう。

「具体的にはどういったコンセプトの写真集なんですか?」
「そうだな。仕事やプライベート…あ、勿論全部じゃないぞ。ほんの一部だがお前のプライベートでの素顔や日常を切り取る事で、ファンにはより身近に感じてもらえるし新たなファンを獲得できると思うんだよ」
「新たな顧客も獲得できると良いんだけどな~」
「素直過ぎるのは玉に瑕だぞ、六倉むつくら爽汰」

苦笑いする社長に笑い返す。

「それで那智さんは何て?」
「何でもお見通しだな。水谷には友情出演として撮影に加わる事を打診したら快諾してくれたよ」
「そうですか。良かった~」
「それでお前からの希望は無いのか?」
「俺の希望は一つだけです」
「お、何だ?」
「撮影は千屋ちや瑞希というカメラマンにしてください」




初めて那智さんと一緒に仕事をした少し前、書店で偶然手にした雑誌で瑞希兄さんを見つけた。
いや、今思えばあれは偶然じゃなく必然だったのかもしれない。
確かに少し疲れていた。
もう何年も瑞希兄さんに会えないままだった。
会いたくて会いたくて、会えない辛さとどうして居なくなったのか分からない寂しさで何処か遠くに行ってしまいたい、そんな気持ちで居た時に目に留まった旅行雑誌の表紙に書かれた【花がいざなう隠れた名宿】の見出しに心が惹かれた。

「へぇ、こんな所に行ってみたいな」

ペラペラと捲っていた指が止まり、ある写真に目が引き寄せられた。


澄み渡る青い空を背景に、輝く様に咲き誇る黄色い花
沢山のその黄色い花をつけた木々に囲まれる様にして建つ白いペンション


「ミモザ館か…こんなペンションなら何もかも忘れられるかな」

ペンションの写真と一緒にオーナーさんの写真も掲載されていて、その優しくて穏やかな笑顔に、直ぐ傍に恋人でも居るのかなと勘繰ってしまう様な雰囲気が滲み出ていた。
その写真の下に書かれていたのは…


【撮影:千屋瑞希】


自分の目を疑った。
直ぐにでもこのペンションに電話をしてオーナーさんに尋ねてみようか?
それとも出版社に問い合わせた方が確実だろうか?
そんな考えが頭の中を駆け巡った。
けれどよくよく考えてみれば、いきなりそんな事を言って見ず知らずの他人に返答してくれたりはしないだろうし、もう直ぐ次の仕事の撮影が始まる。
そんな中で、もし万が一にも瑞希兄さんについて何か知る事ができたなら、俺はきっと全てを投げ出してでも会いに行こうとするだろう。
そんな事をしたら事務所だけじゃない。
きっと兄さんにまで迷惑を掛ける事になる。
それだけは…絶対にやっちゃいけない…


結局、俺は急く心に何とかブレーキを掛け雑誌を購入するだけにした。



いつか、必ずまた瑞希兄さんに会える事だけを信じて。


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