このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

二度目の告白 ~君なしではダメ~

瑞希兄さんに頭を下げて、那智さんは足早に俺達から離れて行った。
手で何度も顔を拭っていたけど、最後にチラッと見えた那智さんの顔はほんのりと赤くなって涙の痕が見えた。

「爽汰」

名前を呼ばれて振り返ると、瑞希兄さんが俺を…真っ直ぐに見ていた。

「知ってるか?ライラックの花言葉」
「…え?」

瑞希兄さんが近くの枝に手を伸ばし小さな花弁にそっと触れた。

「ライラックの花言葉は “思い出” “友情” 、白い花もあってさ “青春の喜び” なんていうのもあるんだと」
「へぇ…じゃあこの紫の花にもまた別の花言葉があるの?」
「紫のライラックの花言葉は…… “恋の芽生え” “初恋” だ」
「やっぱり兄さんは詳しいね。凄いや!確かミモザやスズランの花言葉も教えてくれたよね」
「…憶えてるのか?」

瑞希兄さんが少し驚いた顔で俺を見た。

「ミモザの花言葉が “秘密の愛” でスズランの花言葉は “幸せが再び訪れる” だったよね。俺ね、瑞希兄さんの言った事は何でも憶えてるって言い切れる自信があるよ」

真っ直ぐに兄さんを見ると、兄さんも俺を真っ直ぐに見た。

「瑞希兄さん、那智さんの質問に答えたんなら俺の質問にも答えてくれる?兄さんにとって氏原さんはミモザ館の親しいオーナーだって言うなら、林さんは取材の対象だっただけだって言うなら……なら俺は?俺は兄さんにとってどういう存在?兄さんは俺のコト、…どう思ってるの?」

声が震える。
震え出しそうになる足元を必死に堪えながら視線を落とす。

「俺は兄さんが好きだよ。世界中の誰よりも好きだ。この前も言ったけど、瑞希兄さんが傍に居てくれたら何も怖くないんだ。俺の気持ちは今も変わってないよ。でも……兄さんの気持ちが分からない。兄さんは本当に俺を好きなのか、それとも…」
「爽汰」

頬に触れた温もりに視線を上げると、直ぐ目の前に瑞希兄さんが居た。
その指先がゆっくりと数回頬を行き来した。

「…俺はお前に魅かれる自分をセーブする為にお前にモデルを薦めた。でも俺の撮った写真が切っ掛けでお前が遠い存在になったと思ったら…人を撮る事が怖くなった。それじゃダメだって、お前の…爽汰の傍に居たいなら俺も変わらなきゃいけないって、だからまた人を撮る様になったんだ」
「…兄さん」
「なぁ爽汰、お前言ったよな?俺と一緒に仕事がしたい、俺に写真を撮って欲しかったって。その夢を叶えるからお前も俺の夢を叶えてくれるか?」
「兄さんの……夢?」
「…俺が言った事は何でも憶えてるんじゃなかったのかよ?」

瑞希兄さんが少しだけムッとした顔を見せた。

「…もしかして、『誇りを持って仕事してる奴がいる。いつか其奴を撮るのが目標だ』てヤツ?…いやでもアレは!林さんから聞い」
「……嫌なのかよ?」

瑞希兄さんが俺の唇をムニュッと摘んだ。
その手を握り思いっ切り顔を左右に振る。

「そんな訳ない!絶対に無い!」

握っていた兄さんの手を引き指先に唇を寄せる。

「兄さんに俺を見て欲しい。俺を受け止めて欲しい。俺も兄さんの全部を受け止めるから」
「…爽汰、……好きだよ」
「…にぃ…さん」
「俺には爽汰しかいない、俺は…爽汰が好きだ」


瑞希兄さんが俺を見て微かに笑った。
その微笑みと兄さんからの二度目の告白が、俺の全身を優しく強く包み込んでくれる気がした。


「兄さん…キス、して良い?」
「バっ!…此処、外だぞ!?」
「え~?……したい。もっとキスしたいし、…もっと触れたい」

“触れたい” に込めた意味に気づいたのか、瑞希兄さんが頬を赤らめて俯いた。


「…俺だって………したいよ…」


もうその言葉だけ充分だった。
瑞希兄さんの両頬に手を添え唇を重ねた。
角度を変えながら何度もその柔らかな唇を吸う。
離れ様として兄さんの手が俺の髪に絡みそのまま引き寄せられた。
兄さんからのキスに全身が痺れる様な快感に支配される。
解けて離れて行く唇を惜しむ様に瑞希兄さんを抱き締めた。



優しい風が俺達を包む様に吹き抜けて行く中、ふと視界を揺れる小さな花が掠めた。

「ねえ、瑞希兄さん」
「…何だ?」
「ライラックって普通花弁は四枚?五枚?」
「うん?」
「殆ど四枚なのにこれだけ五枚あるんだ」

腕の中から瑞希兄さんが俺の指差した先を見る。

「ホントだ、珍しいな」
「へえ、珍しいんだ」
「……花弁が五枚のライラックを見つけた人は、誰にも言わずにその花を飲み込むと愛する人と永遠に幸せになれる、そんな言い伝えがあるらしいぞ」
「えー!俺もう言っちゃったよ?…でもそっか」

腕を伸ばし花弁が五枚の花を摘まみ取ると、口の中へと入れる。

「バっ、バカ!何やって…!?勝手にそんな…」
「え~?だってこの花を飲み込むと愛する人と永遠に幸せになれるんでしょ?」
「んな事しなくたって俺はっ!」

瞬時に顔を真っ赤にして、瑞希兄さんは再び俺の腕の中に収まった。

「兄さん、顔上げてよ」
「……」
「キスして、好きって言って」
「……」
「じゃ~あ~、…『ちゅき』って言って」
「…………煩い」



僅かに顔を上げてくれた人に目を閉じ顔を寄せると少しして「好きだ」という微かな声と共に柔らかな温もりが唇に触れたから、腕の中の人をぎゅっと抱き締めた。


19/20ページ
スキ