Jour de muguet ~君なしではダメ~
「奎亮兄さ~ん、荷物持って来たよ~」
フロントで声を掛けるも誰の姿も見当たらない。
「お~い!け~いす~け兄さ~ん!」
「元気だなぁ、イチは」
くすくす笑いながら奥から出てきたのは、コックの白い制服が眩しいほどに似合い過ぎる透真先輩だった。
「……お、おはよ…透真…さん…」
その姿に思わず目が眩んで、妙にぎこちない挨拶を交わす。
「おはよう、イチ。と言っても、おはようって時間じゃないな、もう」
「…え?…あっ、ああ!」
フロントの壁に掛けている時計は10時30分を過ぎていた。
「荷物ってどれ?」
「あ、野菜は裏口に回してあるよ。こっちは洗剤とタオルね」
「ん、分かった。持つよ」
「奎亮兄さんは?」
「何かさ、水谷さんがちょっと熱があるらしくって看てる」
「え?那智兄さんが?」
「あ、イチっ!」
背中で透真先輩の声を聞きながら、いつも那智兄さんが使う部屋へ走って向かった。
部屋のドアを小さくノックすると
「どうぞ」
中から奎亮兄さんの声がした。
「お邪魔しまぁす」
そっとドアを開けるとベッドの上で上体を起こした那智兄さんと、その横で椅子に座っている奎亮兄さんが居た。
「あれ?大翔、どうした?」
「那智兄さんの具合が悪いって聞いたから…大丈夫なの?」
「ありがとな、大翔。心配してくれて」
「昨日ちゃんと髪を乾かさずに寝たから風邪ひいたのかもな」
「ダメだよ那智兄さん、気をつけないと。モデルは体が資本だよ」
「ああ、分かってるよ」
そう言って笑った那智兄さんの笑顔が何処か艶っぽく見えて、胸の内で首を傾げる。
「あ、もしかして荷物を持ってきてくれたのか?大翔」
「うん。透真さんに渡したよ」
「サンキュ。俺ちょっと1階に行ってくるから、大翔は那智を看ててくれるか?」
「うん、分かった」
奎亮兄さんが部屋を出て行った後、兄さんが座っていた椅子に座る。
那智兄さんが両手で持っていたマグカップにゆっくりと口をつけた。
「ほんとに大丈夫?顔が少し赤いよ?」
「………うん、大丈夫だ…」
那智兄さんがゆっくりと、何度もマグカップを口に運ぶ。
「…奎亮が言ってたけど」
「え?」
「大翔は……林さんの事…」
「……奎亮兄さんは鋭いね………うん、ずっと好きだった。今もまだ……好き、かな…」
「そっか…」
徐に腕を伸ばした兄さんが、俺の頭をそっと撫でた。
「届くと良いな…大翔の想い」
「ありがと、那智兄さん…」
僅かに俯いた時、那智兄さんが着ているセーターの少し大きめに開いた首許から、鎖骨の近くに赤い痕が覗いた。
それが何を意味するのか直ぐに分からなくて
「那智兄さん、それどうしたの?」
「え?」
「首の下、赤くなってる」
自分の体の同じ様な位置を指差した。
すると、一瞬にして耳まで真っ赤になった兄さんが動揺を丸出しにして
「あ、えっと、これは…その…」
狼狽える姿に、その痕の意味にやっと気づいた。
「ああっ、あの、その、何て言うか…ごめん…」
「……いや…」
俯いて聴こえないくらい小さな声で何か言った兄さんに、俺まで恥ずかしくなる。
奎亮兄さんってば!!
何が「風邪ひいたのかも」だよ!?兄さんの所為じゃん!!
何とか気持ちを落ち着かせ様と椅子から立ち上がった時、ノックが聞こえた。
「は、はい?」
変に上擦った声で応えると、ドアが開いて痕を付けたであろう張本人が入って来た。
「那智、透真がお粥作ってくれたよ」
奎亮兄さんに続いて透真先輩が小さな鍋とお椀、それにスプーンを乗せたトレイを持って入って来た。
「まだ熱いから気をつけてくださいね、水谷さん」
「あ…ど、どうもありがとう…」
お椀にお粥を装って那智兄さんに手渡す奎亮兄さんに、何故か見てはいけない光景を見ている気がして、静かに部屋を出た。
フロントで声を掛けるも誰の姿も見当たらない。
「お~い!け~いす~け兄さ~ん!」
「元気だなぁ、イチは」
くすくす笑いながら奥から出てきたのは、コックの白い制服が眩しいほどに似合い過ぎる透真先輩だった。
「……お、おはよ…透真…さん…」
その姿に思わず目が眩んで、妙にぎこちない挨拶を交わす。
「おはよう、イチ。と言っても、おはようって時間じゃないな、もう」
「…え?…あっ、ああ!」
フロントの壁に掛けている時計は10時30分を過ぎていた。
「荷物ってどれ?」
「あ、野菜は裏口に回してあるよ。こっちは洗剤とタオルね」
「ん、分かった。持つよ」
「奎亮兄さんは?」
「何かさ、水谷さんがちょっと熱があるらしくって看てる」
「え?那智兄さんが?」
「あ、イチっ!」
背中で透真先輩の声を聞きながら、いつも那智兄さんが使う部屋へ走って向かった。
部屋のドアを小さくノックすると
「どうぞ」
中から奎亮兄さんの声がした。
「お邪魔しまぁす」
そっとドアを開けるとベッドの上で上体を起こした那智兄さんと、その横で椅子に座っている奎亮兄さんが居た。
「あれ?大翔、どうした?」
「那智兄さんの具合が悪いって聞いたから…大丈夫なの?」
「ありがとな、大翔。心配してくれて」
「昨日ちゃんと髪を乾かさずに寝たから風邪ひいたのかもな」
「ダメだよ那智兄さん、気をつけないと。モデルは体が資本だよ」
「ああ、分かってるよ」
そう言って笑った那智兄さんの笑顔が何処か艶っぽく見えて、胸の内で首を傾げる。
「あ、もしかして荷物を持ってきてくれたのか?大翔」
「うん。透真さんに渡したよ」
「サンキュ。俺ちょっと1階に行ってくるから、大翔は那智を看ててくれるか?」
「うん、分かった」
奎亮兄さんが部屋を出て行った後、兄さんが座っていた椅子に座る。
那智兄さんが両手で持っていたマグカップにゆっくりと口をつけた。
「ほんとに大丈夫?顔が少し赤いよ?」
「………うん、大丈夫だ…」
那智兄さんがゆっくりと、何度もマグカップを口に運ぶ。
「…奎亮が言ってたけど」
「え?」
「大翔は……林さんの事…」
「……奎亮兄さんは鋭いね………うん、ずっと好きだった。今もまだ……好き、かな…」
「そっか…」
徐に腕を伸ばした兄さんが、俺の頭をそっと撫でた。
「届くと良いな…大翔の想い」
「ありがと、那智兄さん…」
僅かに俯いた時、那智兄さんが着ているセーターの少し大きめに開いた首許から、鎖骨の近くに赤い痕が覗いた。
それが何を意味するのか直ぐに分からなくて
「那智兄さん、それどうしたの?」
「え?」
「首の下、赤くなってる」
自分の体の同じ様な位置を指差した。
すると、一瞬にして耳まで真っ赤になった兄さんが動揺を丸出しにして
「あ、えっと、これは…その…」
狼狽える姿に、その痕の意味にやっと気づいた。
「ああっ、あの、その、何て言うか…ごめん…」
「……いや…」
俯いて聴こえないくらい小さな声で何か言った兄さんに、俺まで恥ずかしくなる。
奎亮兄さんってば!!
何が「風邪ひいたのかも」だよ!?兄さんの所為じゃん!!
何とか気持ちを落ち着かせ様と椅子から立ち上がった時、ノックが聞こえた。
「は、はい?」
変に上擦った声で応えると、ドアが開いて痕を付けたであろう張本人が入って来た。
「那智、透真がお粥作ってくれたよ」
奎亮兄さんに続いて透真先輩が小さな鍋とお椀、それにスプーンを乗せたトレイを持って入って来た。
「まだ熱いから気をつけてくださいね、水谷さん」
「あ…ど、どうもありがとう…」
お椀にお粥を装って那智兄さんに手渡す奎亮兄さんに、何故か見てはいけない光景を見ている気がして、静かに部屋を出た。