Jour de muguet ~君なしではダメ~
ミモザ館を飛び出し停めてあった車まで走って戻る。
鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込むも、こんな時に限って服に引っ掛かって直ぐに出て来ない。
「イチ!待てよ!」
背後から聴こえた声に指先が焦る。
「ああっ、もう!」
やっと取り出した鍵を地面に落としてしまった。
ミモザ館を飛び出した一ノ瀬が車に乗り込もうとしているのが見えた。
「イチ!待てよ!」
俺の声にビクリと跳ねた体が、落としてしまった鍵を拾い上げるとそのまま車の中に消えそうになって、更に足を速めた。
「イチっ!」
追いついた一ノ瀬の腕を掴み此方側に向かせ様とすると、嫌がる様に体を捻り逃げ様とするから
「待てって!大翔!!」
一ノ瀬を車に押しつけ、逃げ道を塞ぐように腕を伸ばした。
透真先輩に初めて『大翔』と呼ばれて正直嬉しかった。
でも同時に怖かった。
「ごめん、ごめんなさい…先輩…」
こんな風にしか喜べない情けない自分を、こんな形でしか自身を慰められない惨めな自分を見られたくなくて俯く。
「…先輩は俺の事 “友人として知りたい” て…なのに……ごめんね…気持ち悪いよね?こんな…男なのに…」
堪え切れなくて溢れ出した涙が声を震わせた。
一ノ瀬の肩が震え出す。
少し長い前髪でその顔ははっきりとは見えないけど、震える声と体で泣いているのは明らかだった。
「……ごめんね…気持ち悪いよね?こんな…男なのに…」
その言葉に、一ノ瀬の腕を掴んでいた手を離し少しだけ頭を抱き寄せた。
「………何でだろうな…」
「…え?」
「俺も自分で分からないんだけどさ、…イチに…大翔に『好き』て言われて……嬉しかった…」
「え…」
顔を上げた大翔はボロボロに泣いててちょっと笑えるくらいだったけど、可愛いと思えた。
「それに俺、前にも言ったろ?『自分の信頼する人が大切に想う人ならその人達の力になりたい』て。男同士を気持ち悪いなんて思わないよ」
「それは……でも透真先輩は女の人が好きでしょ?前はちゃんと彼女が…」
「また “先輩” て…名前で呼べって言ったろ。それに彼女が居たのって高校の時の事だろ?あれからは俺、彼女なんて居ないよ。それにあの子には昔の夢を諦めた時にあっさりフラれた。『コックなんてつまらない』て言われてね」
「そんなっ!」
「だから嬉しかった。大翔が俺の一番大切にしていた言葉を言ってくれて。俺にとって大翔は誰よりも信頼するに値する人間だ。その大翔に想われて嬉しくない筈無いんだよなぁ」
「透真…さん…」
大翔の目を真っ直ぐに見る。
涙で濡れている所為なんかじゃなく、本当に綺麗だと思った。
「なぁ大翔……少し時間をくれないかな?」
「え?…じか…ん?」
大翔の両肩をしっかりと掴む。
両肩から透真さんの手の熱が伝わる。
「昨日も言ったけど俺は大翔が好きだよ。でもそれは…まだその…大翔が俺に向けてくれてる気持ちとは……何て言うか、距離感?温度差?みたいなのがあって…」
上手い言葉が見つからなくて焦ってしどろもどろになる。
焦って必死に言葉を探す透真さんが何だか可愛く見える。
「…だから同じスタート地点に立てるまで、少し時間をくれないか?」
「……良いの?」
「え?」
「…俺……待ってても良いの?透真さんの事……好きでいて良いの?」
「………当たり前だろ…」
嬉しくて、本当に嬉しくて心の底から笑う。
花が咲く様に笑う大翔に心臓が跳ねる。
透真さんの手が動いて、ゆっくりと体を引き寄せられる。
大翔の体をそっと引き寄せ、その体を両腕の中に閉じ込める。
「………透真さん」
「…うん」
「できれば少しだけ急いでね。じゃないと俺……どんどん好きになっちゃうから」
「……ああ…分かった」
透真さんの声色に、直ぐに追いついて貰える予感がした。
腕の中の温もりに、直ぐに追いつく予感しかなかった。
鍵を取り出そうとポケットに手を突っ込むも、こんな時に限って服に引っ掛かって直ぐに出て来ない。
「イチ!待てよ!」
背後から聴こえた声に指先が焦る。
「ああっ、もう!」
やっと取り出した鍵を地面に落としてしまった。
ミモザ館を飛び出した一ノ瀬が車に乗り込もうとしているのが見えた。
「イチ!待てよ!」
俺の声にビクリと跳ねた体が、落としてしまった鍵を拾い上げるとそのまま車の中に消えそうになって、更に足を速めた。
「イチっ!」
追いついた一ノ瀬の腕を掴み此方側に向かせ様とすると、嫌がる様に体を捻り逃げ様とするから
「待てって!大翔!!」
一ノ瀬を車に押しつけ、逃げ道を塞ぐように腕を伸ばした。
透真先輩に初めて『大翔』と呼ばれて正直嬉しかった。
でも同時に怖かった。
「ごめん、ごめんなさい…先輩…」
こんな風にしか喜べない情けない自分を、こんな形でしか自身を慰められない惨めな自分を見られたくなくて俯く。
「…先輩は俺の事 “友人として知りたい” て…なのに……ごめんね…気持ち悪いよね?こんな…男なのに…」
堪え切れなくて溢れ出した涙が声を震わせた。
一ノ瀬の肩が震え出す。
少し長い前髪でその顔ははっきりとは見えないけど、震える声と体で泣いているのは明らかだった。
「……ごめんね…気持ち悪いよね?こんな…男なのに…」
その言葉に、一ノ瀬の腕を掴んでいた手を離し少しだけ頭を抱き寄せた。
「………何でだろうな…」
「…え?」
「俺も自分で分からないんだけどさ、…イチに…大翔に『好き』て言われて……嬉しかった…」
「え…」
顔を上げた大翔はボロボロに泣いててちょっと笑えるくらいだったけど、可愛いと思えた。
「それに俺、前にも言ったろ?『自分の信頼する人が大切に想う人ならその人達の力になりたい』て。男同士を気持ち悪いなんて思わないよ」
「それは……でも透真先輩は女の人が好きでしょ?前はちゃんと彼女が…」
「また “先輩” て…名前で呼べって言ったろ。それに彼女が居たのって高校の時の事だろ?あれからは俺、彼女なんて居ないよ。それにあの子には昔の夢を諦めた時にあっさりフラれた。『コックなんてつまらない』て言われてね」
「そんなっ!」
「だから嬉しかった。大翔が俺の一番大切にしていた言葉を言ってくれて。俺にとって大翔は誰よりも信頼するに値する人間だ。その大翔に想われて嬉しくない筈無いんだよなぁ」
「透真…さん…」
大翔の目を真っ直ぐに見る。
涙で濡れている所為なんかじゃなく、本当に綺麗だと思った。
「なぁ大翔……少し時間をくれないかな?」
「え?…じか…ん?」
大翔の両肩をしっかりと掴む。
両肩から透真さんの手の熱が伝わる。
「昨日も言ったけど俺は大翔が好きだよ。でもそれは…まだその…大翔が俺に向けてくれてる気持ちとは……何て言うか、距離感?温度差?みたいなのがあって…」
上手い言葉が見つからなくて焦ってしどろもどろになる。
焦って必死に言葉を探す透真さんが何だか可愛く見える。
「…だから同じスタート地点に立てるまで、少し時間をくれないか?」
「……良いの?」
「え?」
「…俺……待ってても良いの?透真さんの事……好きでいて良いの?」
「………当たり前だろ…」
嬉しくて、本当に嬉しくて心の底から笑う。
花が咲く様に笑う大翔に心臓が跳ねる。
透真さんの手が動いて、ゆっくりと体を引き寄せられる。
大翔の体をそっと引き寄せ、その体を両腕の中に閉じ込める。
「………透真さん」
「…うん」
「できれば少しだけ急いでね。じゃないと俺……どんどん好きになっちゃうから」
「……ああ…分かった」
透真さんの声色に、直ぐに追いついて貰える予感がした。
腕の中の温もりに、直ぐに追いつく予感しかなかった。