Jour de muguet ~君なしではダメ~
食堂の椅子に1人座ったまま、買ってきた雑誌のページを見るともなく捲る。
透真先輩の写真が掲載されたページで指が止まった。
『誰にも恥じる事のない仕事がしたいと思った』
あの瞬間の透真先輩を本当に恰好良いと思った。
先輩だけじゃない。
ミモザ館を守る為にはどんな労力も惜しまない奎亮兄さんも、ずっと憧れていたモデルの仕事を頑張る那智兄さんも恰好良い。
そして、きっと千屋さんや六倉爽汰も自分の仕事に誇りを持っているのだろう…だからあんなに人を魅了する写真を撮ったり撮られたりできるんだ。
「…なぁんか……俺1人だけカッコ悪ぅ…」
開いたままの雑誌の前に両手で頬杖をついた。
「誰が恰好悪いって?」
「わっ!?」
不意に後ろから声を掛けられて心臓が跳ねた。
「あ、何だ…透真さんか…吃驚した~」
「悪い、驚かせたな。で、誰が恰好悪いんだ?」
透真先輩が向かいの椅子を引いて座る。
「ん~、いやさぁ…透真さんも奎亮兄さんもみ~んな自分の仕事に責任とか誇りとか持って頑張ってて恰好良いじゃん?それに引き換え俺は…て思ったらさぁ...」
「何で?イチだって恰好良いじゃん。それこそ昔から」
「え…?」
思いがけない言葉に、先輩を真っ直ぐに見る。
「俺はずっと思ってたよ、イチは恰好良い、凄いなって」
そう言うと先輩は再会した時と同じ様に、俺の頭をそっと撫でてくれた。
「…っ!」
「だからさ、そんな風に自分を卑下するなよ」
優しく動く掌に何も言えなくなって俯く。
俯いた一ノ瀬の手許に自分の写真を見つけた。
「あ。この雑誌、態々買ってくれたのか?」
「…う、うん…」
雑誌を自分の方に引き寄せる。
記事を目で追いかけて行くと、ある箇所で目が留まった。
顔を上げて一ノ瀬を見る。
何故か、俯いてはっきり見えない顔を真っ直ぐに見たいと思った。
「……初めてミモザ館に来てイチと再会した日、イチが言ってくれた言葉…凄く驚いたけど…嬉しかったよ」
「え…?俺、何か言ったっけ?」
顔を上げた一ノ瀬が少しキョトンとした表情で俺を見た。
その顔を素直に可愛いと思った。
「言ってくれたろ?『料理で人を幸せにできるなんて凄い』て」
「ああ、だって本当にそう思ったから…」
「此処」
記事のとある箇所を指差す。
「この取材で、俺が一番思いを籠めて言ったのがこの “人を幸せにする料理を作りたい” だったんだ。そんな事知らない筈のイチに同じ事を言われて、俺すっげえ嬉しかった」
「そ、そんな…」
「イチはさ、学生の時から家の仕事を一生懸命手伝ってきたし、それを今も続けてる。今日も千屋さんと六倉さんを仲直りさせただろ。奎亮さんや水谷さんを見てても分かるよ、2人共本当にイチを信頼して大切に思ってる。イチは人と人を繋ぐ事ができる最高に恰好良い奴だよ。俺はそんなイチが羨ましいし好きだな」
「……………ありがと……透真さん…」
薄く濡らした目許を袖で拭いながら俯いた一ノ瀬の頭を、もう一度そっと撫でた。
透真先輩の写真が掲載されたページで指が止まった。
『誰にも恥じる事のない仕事がしたいと思った』
あの瞬間の透真先輩を本当に恰好良いと思った。
先輩だけじゃない。
ミモザ館を守る為にはどんな労力も惜しまない奎亮兄さんも、ずっと憧れていたモデルの仕事を頑張る那智兄さんも恰好良い。
そして、きっと千屋さんや六倉爽汰も自分の仕事に誇りを持っているのだろう…だからあんなに人を魅了する写真を撮ったり撮られたりできるんだ。
「…なぁんか……俺1人だけカッコ悪ぅ…」
開いたままの雑誌の前に両手で頬杖をついた。
「誰が恰好悪いって?」
「わっ!?」
不意に後ろから声を掛けられて心臓が跳ねた。
「あ、何だ…透真さんか…吃驚した~」
「悪い、驚かせたな。で、誰が恰好悪いんだ?」
透真先輩が向かいの椅子を引いて座る。
「ん~、いやさぁ…透真さんも奎亮兄さんもみ~んな自分の仕事に責任とか誇りとか持って頑張ってて恰好良いじゃん?それに引き換え俺は…て思ったらさぁ...」
「何で?イチだって恰好良いじゃん。それこそ昔から」
「え…?」
思いがけない言葉に、先輩を真っ直ぐに見る。
「俺はずっと思ってたよ、イチは恰好良い、凄いなって」
そう言うと先輩は再会した時と同じ様に、俺の頭をそっと撫でてくれた。
「…っ!」
「だからさ、そんな風に自分を卑下するなよ」
優しく動く掌に何も言えなくなって俯く。
俯いた一ノ瀬の手許に自分の写真を見つけた。
「あ。この雑誌、態々買ってくれたのか?」
「…う、うん…」
雑誌を自分の方に引き寄せる。
記事を目で追いかけて行くと、ある箇所で目が留まった。
顔を上げて一ノ瀬を見る。
何故か、俯いてはっきり見えない顔を真っ直ぐに見たいと思った。
「……初めてミモザ館に来てイチと再会した日、イチが言ってくれた言葉…凄く驚いたけど…嬉しかったよ」
「え…?俺、何か言ったっけ?」
顔を上げた一ノ瀬が少しキョトンとした表情で俺を見た。
その顔を素直に可愛いと思った。
「言ってくれたろ?『料理で人を幸せにできるなんて凄い』て」
「ああ、だって本当にそう思ったから…」
「此処」
記事のとある箇所を指差す。
「この取材で、俺が一番思いを籠めて言ったのがこの “人を幸せにする料理を作りたい” だったんだ。そんな事知らない筈のイチに同じ事を言われて、俺すっげえ嬉しかった」
「そ、そんな…」
「イチはさ、学生の時から家の仕事を一生懸命手伝ってきたし、それを今も続けてる。今日も千屋さんと六倉さんを仲直りさせただろ。奎亮さんや水谷さんを見てても分かるよ、2人共本当にイチを信頼して大切に思ってる。イチは人と人を繋ぐ事ができる最高に恰好良い奴だよ。俺はそんなイチが羨ましいし好きだな」
「……………ありがと……透真さん…」
薄く濡らした目許を袖で拭いながら俯いた一ノ瀬の頭を、もう一度そっと撫でた。