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サクランボが実る頃

「あれ?閉まってる」

まだ午後2時過ぎだというのに、ミモザ館の玄関には【Closed】の札が掛かっていた。
抱えた荷物を持ち直すと裏へと回る。

「こ~んちは~、奎亮けいすけ兄さ~ん?居ないの~?」

裏の勝手口は鍵が掛かっていなかった。
でも中を覗いてもやっぱり誰も居ない。

「留守…かな。にしても鍵、不用心だな~」
「あれ、大翔ひろと?どうしたんだ?」

不意に名前を呼ばれて振り返ると、ブルーに白のピンストライプのシャツにジーンズというカジュアルな服に身を包んだ透真とうまさんが、シャツの袖を捲りながら厨房に入って来た。


ちょっ、こんなラフな恰好なのにこんなにカッコイイなんて反則じゃん!!


「お~い、大翔?」

思わず見惚れていると、反応のない俺を不思議に思ったのか透真さんが掌を俺の目の前でひらひらと振った。

「大翔?」
「あっ、ごごごめん!!何でもない!」

我に返り、恥ずかしさを隠す様に置いてあった荷物を抱え上げる。

「こここれっ!この荷物が届いたから持って来たんだけど…」
「あぁ、ありがとう」

荷物を受け取ると透真さんは事務所の方へと姿を消した。
それとなく辺りを見回しても、奎亮兄さんの姿は無く声も聞こえてこない。


珍しいな、何を置いてもミモザ館が最優先の奎亮兄さんがミモザ館を閉めるなんて…


「どうした?キョロキョロして」

戻って来た透真さんに

「ねえ透真さん、奎亮兄さんは?ミモザ館を閉めるなんて何かあったの?」

そう訊くと、ほんの一瞬真顔になった透真さんが直ぐにまたいつもの笑顔を見せた。

「奎亮さんなら水谷さんの所に行ったよ」
「え!那智なち兄さんに何かあったの!?」
「違うよ。そうじゃなくて奎亮さん、何か無性に水谷さんに会いたくなったんだってさ」
「へ…へぇ…」
昨夜ゆうべ、急に『明日と明後日は臨時休業にする』なんて言い出したんだよ。まあ予約も入ってなかったから良かったけどさ、ちょっとビックリするよな」


何だそれ!ただの惚気じゃん…相変わらずだなぁあの二人は。
でもそうすると、もしかして那智兄さんの首筋にまたあのキスマークが…


驚くというよりも呆れつつ、いつかの那智兄さんの鎖骨近くに見えた赤い痕を思い出して、思わず両手で顔を覆った。



うわぁ~!!思い出しただけで、か…顔がっ!



ふと、視線を感じて顔を上げると、透真さんがじっと俺を見ていた。

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