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君なしではダメ

地元を離れて8年が過ぎた。
学業を離れてからモデルとしての仕事に専念した事が良かったのだろう。
大学卒業後の2~3年ほど前からモデルとして世間に認知される様になり、着実に経験と実績を積んで来られたと思う。
事務所が俺を売り込んでくれた事もあるし、勿論俺も努力を怠らなかった。
その甲斐もあってか、この春それなりに知られたブランドのモデルとTVのCM出演という仕事が舞い込んできた。

「水谷、今まで本当に頑張ったもんなぁ。俺も嬉しいよ!」
「やだなぁ、早瀬さん達事務所の支えがあったからですよ」
「水谷、これからもっともっと頑張ろうな!お前を応援してくれているファンの為にも!」
「はい!」




早瀬さんに自宅マンションまで送ってもらうと、寝室へと真っ直ぐに向かう。
ベッドサイドのボードに飾った何枚もの写真を1枚1枚指差す。

「これが去年、これが一昨年、こっちが3年前」

順番に写真を指差してから目を閉じる。
直ぐに奎亮の笑顔が脳裏に浮かんで来た。
静かに目を開ける。
目の前のミモザの写真に奎亮の笑顔が重なって……消えた。

「奎亮、俺やっと少しは自慢できる仕事が来たよ。もっともっと頑張るから俺の事、応援してくれよな。俺も奎亮を応援してるから」


大学卒業の直前に奎亮のおじさんが怪我をした事が切っ掛けで、今のミモザ館は奎亮が切り盛りしているという話を母さんから聴いていた。
ミモザ館を閉めようかという話も出たらしいけれど、ペンション経営を辞める事に一番反対したのが奎亮で、卒業と同時に経営をおじさんから引き継いだらしい。

正直、無理じゃないかと思った。
でも同時に、奎亮らしいとも思った。
おじさんとおばさんがどんなにミモザ館を大事にしていたか、彼奴はちゃんと分かっていた。
そしてそんなミモザ館を「俺も好きなんだ」と言った奎亮を誇らしく、羨ましく思った。


「俺も奎亮に負けない様に、俺にとっての奎亮みたいに俺も奎亮の誇りになれる様に頑張るから、その時は会いに行くから……だからもう少し待っていてくれ」



全ての写真の裏に書かれた『今年も綺麗に咲いたよ。いつか見に来てくれ』の文字を、ゆっくりと1枚ずつ指で辿った。

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