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君なしではダメ

「おはようございま~す」
「おはようございます、瑞希みずきさん。よく眠れましたか?」
「ええ、もうぐっすりと!」
「良かったです。もう直ぐ朝食の準備ができますので、それまでもう少しお待ちくださいね」

テーブルの上を整えると一旦厨房へと戻る。
スープを温めた鍋を持って食堂に戻ってくると、瑞希さんが庭に面した窓の前で大きく伸びをしていた。

「今日も好い天気ですね」
「本当に。ミモザの花の黄色が青空に映えますよ。部屋の窓から見えるミモザも綺麗ですけど、この食堂の大きな窓から見上げるミモザはやっぱり格別ですね!」
「そうでしょ?今年も綺麗に咲きましたから」


千屋瑞希さんは自称風景写真専門のカメラマンとかでここ数年、春先になるとこのミモザ館に暫く滞在している。


「毎年『今年が一番綺麗だ』と思うんですが、今年はまた格別だと思いますよ」
「きっとオーナーである奎亮さんの愛情の賜物ですね。植物も人間と同じで愛情をかけた分だけ、ちゃんと応えてくれますから」

振り返ってにっこり笑った瑞希さんに自然と笑みが零れる。

「ありがとうございます。元々は両親が世話をしていたから、何だか植物というより兄弟みたいに思えちゃう時があるんですよ。バカみたいでしょ?」
「そんな事ないですよ……どんなに近くに居ても本心が見えない人間よりかはずっと…」
「え?何ですか?」

一瞬遠くを見る様な目で窓の外を見た瑞希さんの、呟く様な言葉が聞き取れなくて再度尋ねる。

「ご存知ですか?ヨーロッパでは3月8日は “ミモザの日” と言って、男性が恋人や奥さんに日々の感謝の気持ちを込めてミモザの花を贈るそうですよ」

でも俺の問いかけには答えずに、こちらを向いた瑞希さんがにっこりと微笑んだ。

「へえ、そんな習慣があるなんてステキですね」
「本当ですよね。ロマンチックというか…」
「ミモザの花にそんな役目があるなんて初めて知りました。教えてくれてありがとうございます」
「いえ…さぁて、今日もバシバシ撮り捲るぞ~!朝ご飯は何ですか?」
「オムレツです。昨夜のうちに仕込んでおいたソースがお口に合えば良いんですけど」
「奎亮さんの料理はどれも美味しいです」

そのまま何事も無かったかのように笑い椅子を引く瑞希さんの横顔に、何か気に掛かるものを感じつつカウンターに向かった

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