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君なしではダメ

「那智、大学に合格したんだって?」
「ああ。事務所が寮も用意してくれたし、これからもっともっと頑張らなきゃ」
「那智なら大丈夫だよ、絶対に!」
「…うん、ありがとう。そういう奎亮も大学決まったんだろ?」
「ああ。俺は地元の大学だから、那智みたいな大きな学校じゃないけどな」
「何言ってんだよ!学校の規模なんて関係無いよ。奎亮、経済学部に主席で合格したっておばさん泣きながら喜んでたぞ?俺なんかより全然スゴイじゃん!」

奎亮の両手を握り、真っ直ぐにその双眸を見つめる。

「奎亮はさ、本当にスゴイよ。誰かに言われたからじゃない、自分からおじさんやおばさんの力になろうとしてる。…俺はさ、…俺のモデルになりたいなんてのはただの独り善がりな夢だけど……奎亮の “ミモザ館を守りたい” て夢は胸を張って言って良いと思うよ…」
「……那智…」
「俺さ、……俺、絶対頑張って誰もが知ってる有名モデルになるから、その時は奎亮が守るミモザ館を………俺も一緒に守らせてくれ」
「………ありがと……那智…」

奎亮の双眸が一瞬切なそうに揺らめいた…そんな気がした。

でも直ぐにその揺らめきは消えて、奎亮は笑った。
線になるくらい細めた眸で笑う笑顔は、俺が一番好きな奎亮の表情だった。
その笑顔に嬉しさと切なさで胸がいっぱいになって……何だか堪らない気持ちになって、奎亮の肩にそっと額を乗せた。

「大丈夫だよ那智。那智はきっと誰もが羨む様なモデルになれるよ。だから俺も頑張るよ。頑張ってミモザ館を守るから、那智が世界中の人が知ってる有名人になるまで守り続けるから。…その時はミモザ館の宣伝をしてくれよな?」
「……うん」
「お互いに頑張ろうな、那智。それぞれの夢に向かってさ」
「…うん…うん、奎亮…」

微かに震える声を必死に隠そうとしているのを、気づいているのかいないのか、頭をそっと優しく撫でてくれた奎亮の背中を少しだけ腕に力を込めて抱き締めた。



高校を卒業後、地元を離れる為に駅に向かった俺を、奎亮は最後まで手を振り笑顔で送り出してくれた。

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