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君なしではダメ

奎亮さんが新しく用意してくれたのは、ツインルームだった。

「キャンセルが出た部屋なので大丈夫ですよ」

そう言ってにっこり笑った奎亮さんに、小さく頭を下げる。

「うっわぁ、すっげ~!この部屋、外のミモザが一望できるんだ!」

感嘆の声に振り返ると、爽汰が窓から身を乗り出しそうな勢いで外を眺めていた。

「スゴイね、ねっ!瑞希兄さん!」
「ああ、そうだな…」

先刻、大人気なく泣いてしまった所為か爽汰の顔をまともに見られないまま隣に立つ。
目を閉じると、微かに風に揺れるミモザの葉の音が聞こえた。

不意に手を握られて、爽汰を見る。





窓を開けてミモザの花を見ていると、隣に瑞希兄さんが立った。
何も言わず、俺の事もちゃんと見てくれない。
それが寂しくてもどかしくて、隣にある手をそっと握る。

「瑞希兄さん…」
「………」

やっと俺を見てくれた瑞希兄さんの目許は赤くなって少し腫れていた。

「俺、兄さんの事が好きだよ」
「爽汰…」
「本当だよ。俺には兄さんしかいないんだ、瑞希兄さんじゃないとダメなんだ」

俺を避ける様に、再び俯き視線を逸らした人を堪らず抱き締める。





「そっ、爽汰っ…!」
「今はまだ弟でも良い、友達でも良い。でも…いつか俺の事を1人の男として見て欲しい」

俺より少し高い位置にある肩が、微かに震えているのが分かった。
俺より少し背の低い人を、肩と腕の痛みも忘れて強く抱き締める。

「……爽汰、離せよ」
「嫌だ!離したら瑞希兄さん、きっとまた俺の前から居なくなっちゃう!」

首に掛けた包帯に吊られた左腕にそっと触れた。
宥める様に左腕をそっと摩る腕に少しだけ力を緩める。

「バ~カ。どっちみち今日は此処に泊まるんだから、何処にも行きやしないよ」
「……それは…そうかもだけど…」
「爽汰、分かってるのか?俺を好きっていう事は、この先世間には隠し通さなきゃいけなくなるんだぞ?」
「構わないよ。俺は瑞希兄さんが傍に居てくれたらそれだけで良い。何も怖くないよ」
「爽汰…」
「ねえ、兄さん。もう諦めてよ。俺から逃げないでよ」

真っ直ぐに俺を見る爽汰に覚悟を決める。
瑞希兄さんがやっと俺を真っ直ぐに見た。

「爽汰、俺にも爽汰だけだよ」
「瑞希兄さん…」
「俺にも爽汰しかいない。俺は…爽汰がちゅき…」
「え?」


数秒間の沈黙の後、2人して盛大に吹き出す。


「何で!何で一番大事なところで噛むかな~」
「うっ、煩い!!」
「ねえ、もう1回言って?」
「煩い煩い!言わない!ぜーったい言わない!」

急いで離れ様とした体を背中から抱き締められて、大人しくされるがままとなる。
慌てて離れ様とする体を背中から抱き締めると、大人しくされるがままとなった。


暫くそうした後、どちらからとも無く手を繋ぐ。

「…綺麗だね……本当に」
「ああ…綺麗だな」
「また此処に来ようね。今度は一緒に」
「ああ、そうしよう」

繋いだ手にぎゅっと力を込めて、青空に揺れるミモザの花を2人で眺めた。


- 終 -

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