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君なしではダメ

「やっぱり瑞希兄さんだったんだね、この写真を撮ったの」

爽汰がポケットから取り出したのは、あの雑誌のミモザ館のページの切り抜きだった。

「写真の下にさ、クレジットがあったんだ。Chiyaって…まさかと思ったよ、名字が同じだけの別人かもしれないって…でも俺には……何となくだけど瑞希兄さんじゃないかって分かったんだ…」
「それでミモザ館に?」
「うん。写真に写ってた氏原さんに聞いたら何か分かるかもと思って…でもまさか、那智さんの知り合いだとは思わなかったよ!」

態とらしいまでに明るく笑って見せた爽汰の視線は揺れ、その口許は震えている。

「…どうして?……どうして、瑞希兄さんは……俺の前から居なくなったの?」





「……お前はモデルとしてどんどん人気が出ていたし……いつの間にか俺の知らない、手の届かない世界の人間になっちまったから…」

瑞希さんが、苦しそうに切なそうに言葉を選んでいるのが分かった。

「でも!俺にモデルを薦めたのも、オーディションの書類を送ったのも!その写真を撮ったのも全部!瑞希兄さんじゃないかっ!!」
「こんな事になるなんて思わなかったんだよっ!こんなっ…爽汰がこんなに遠くに行っちまうなんて……思いもしなかったんだ!」

瑞希さんが拳にした両手を顔に当てた。
その目許は隠れて見えないけど、震える拳が瑞希さんが泣いているのだと教えてくれる。

「…俺の撮った写真が切っ掛けで…爽汰が遠い存在になったと思ったら……もう人は撮れなくなった…」





「瑞希兄さん、俺の傍に居てよ。何処にも行かないでよ…」
「そんな事っ…できる訳ないだろ?」
「俺には瑞希兄さんが必要なんだ!兄さんが嫌でも俺は兄さんの傍に居るもん!!」

まるで子供が駄々をこねる様な爽汰の言い種に、思わず笑いそうになったのを必死に我慢する。
けれどそれに気づいたのか

「そんな事言って、お前にはもう他に大切な人が居るんだろ?」
「え?」
「雑誌に載っただろ?普通はあんな風に誰かを庇わない。しかも怪我してまで。あの庇った人って……この人なんだろ?」

微かに赤くなった目許が俺を見るのに、慌てて首を振った。

「おっ、俺はそんなんじゃなくて!本当にただの共演者で……それに俺には好きな人が居るし…」

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