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君なしではダメ

通された部屋にキャリーケースを置くと、ベッドに背中からダイブする。
この町に帰って来てから数十分の間に起こった出来事に、頭も心も追いつかない。

「…はぁ~っ」

少し落ち着こうと大きく息を吐き出した時

「那智、お茶…入れたんだけど…」

ノックの後に躊躇いがちな声が続いた。





「スゴイですね~!これ全部、外のミモザの木ですか?」

六倉さんがエントランスに飾ってある写真を食い入る様に見る。

「ええ。よく此処をご利用くださるお客さんで、写真好きな方がいらっしゃるんですよ。その方が撮って下さったんです」
「へえ~、スゴイなぁ。ね、那智さん!」

六倉さんが反対側の壁際に立つ那智を振り返った。
それには答えず曖昧に笑った那智に、胸がざわざわして落ち着かない。





「もしかして、ここの記事が載ってた雑誌のあの写真、あれを撮ったのも同じ人ですか?」

爽汰の言葉に心臓が止まりそうになる。

「ええ、そうです。よく分かりましたね」

柔らかく笑った奎亮に心が悲鳴を上げそうになる。

「とてもステキな写真でしたから。氏原さんもモデルみたいでしたよ」
「本職がモデルの方にそう言われると何か…恥ずかしいですね」

少し頬を染めた奎亮に、少しでも早くこの場所を離れたくなって背を向ける。

「那智?」

此処へ来た時と同じ様に奎亮に呼び止められたその時

「こんにちは、奎亮さん」
「瑞希さん!お久しぶりですね!」

ドアが開く音に続いて、奎亮を呼ぶ親し気な声が聞こえた。
それに答える奎亮の声に思わず振り返った先で見たのは

「……そっ、爽汰っ?!」
「瑞希兄さん…」

目を見開き、固まった様にお互いを見つめる爽汰ともう1人の青年だった。

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