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君なしではダメ

「えっと、じゃあこの用紙に必要事項を記入していただけますか?」
「はい。あ、那智さん…彼の分も俺が支払いますので」
「えっ、い、いいよ、爽汰!俺が自分で払うから!」
「ダメだよ、俺がお願いして泊まってもらうんだからさ」

驚いた那智がフロントまで飛んで来た。
六倉さんはそんな那智の肩をポンポンと叩きニコニコと笑っている。

「…那智、お前からお金を貰う訳には…」

窺う様に声を掛ける。

「…奎亮、今の俺は客だから……そういう訳にはいかないだろ」

那智の口から出た “客” という言葉が何故かとても余所余所しく聞こえて、那智との間に目には見えない距離が感じられた。





「俺もチェックインの手続きするから…」

そう言うと、奎亮が黙って紙を差し出した。
黙々とそれを書いている間チラリと上目遣いで見た奎亮は、寂しそうな悲しそうな顔をしていた。



…何で、……何でそんな顔をするんだよ?今だけでも笑っていて欲しいのに…



言葉にできない想いを飲み込んで、紙とペンを奎亮に戻す。

「ではこれが六倉さんの部屋の鍵で、こっちが那智の部屋の鍵…」
「氏原さんは那智さんとお知り合いですか?」

奎亮がカウンターに並べた鍵を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、爽汰の言葉に思わず体が固まる。

「……ええ、親友です。親同士仲が良かったので、幼馴染と言うか…腐れ縁、ですかね」

奎亮の言葉が胸に痛かった。
そう、きっと奎亮にとって俺はただの腐れ縁の幼馴染…ただの親友。


俺だけが……ずっと……


「六倉さんはもしかして、あの記事にあった那智を庇ってくれた方……ですよね?」





那智が驚いた顔で俺を見た。

「えっ、スゴイですね!よく分かりましたね?あ、でも記事に名前も載ってたし分かるか」
「いえ、記事を読む前に写真を見て直ぐに那智だと分かりました。六倉さんは…すみません、今やっと一致したんです」

六倉さんを真っ直ぐに見て、そして頭を下げる。

「那智を守ってくれて、ありがとうございました」

顔を上げて那智を見ると、その目が微かに潤んでいるのが分かった。

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