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春の日

「…んっ…はっ、やめ……ハヤ、ト…」

強引にキスされて、息ができなくて苦しいのに…勇登の体は離れてくれない。

「…ん……んんっ!?」

抉じ開けるように唇の間から侵入してきた湿った物体に驚いて、目一杯の力で勇登の胸を突き飛ばした。

「なっ…にすんだよ!?何考えてんだよっ、お前はっ!!」

手の甲で濡れた口許を拭う。
込み上げてくる怒りで涙が滲む目で勇登を睨むと、その表情は怒っているように見えるのに……勇登の目は悲しそうに揺れた。

「………なんで?」
「え?」
「さっきの人とはキスしてたじゃん……なのに、どうして俺とはダメなの?」
「……は?……お前、何…言って…」
「俺の方が薫兄の事を知ってる!俺の方が薫兄の事を分かってる!俺の方がっ!!…俺の方が薫兄の事……好きなのに…」
「勇登………お前…」

勇登の目から涙が一筋零れた。
俯きそれを隠すように手で拭う姿に、幼い頃の勇登の姿が重なって…



俺は唐突に理解した。



何故、彼女とキスから先に進めなかったのか
何故、彼女に触れる度に胸の奥が痛かったのか

その疑問の答えは全て同じだったんだ。


【勇登じゃないから】


勇登じゃないからドキドキしない
勇登じゃないからその先に進めない

俺は……勇登の事が好きだったんだ…



一歩勇登に歩み寄り、その顔を見上げる。

「……勇登…」

ゆっくりと上がった顔は、初めて会ったあの頃みたいに何かに怯え、その目は不安そうに揺れて見えた。

「勇登、……ごめん」
「……薫兄」
「ごめん、ごめんな……勇登…」

手を伸ばし勇登の頬を濡らす涙を指先で拭う。
ゆっくりと肩に寄り掛かる頭を抱き寄せると、そっと、でもぎゅっと体を抱き締めてくる腕に、勇登の少し大きな背中を抱き締めた。



勇登の肩の向こうに薄紅色の花が一輪、空に向かって咲いているのが見えた。

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Clap