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春の日

「薫兄、卒業おめでとう~」
「おぉ、ありがとな~勇登」
「あ~ぁ、折角また薫兄と一緒に学校に行けるようになったと思ったら、もう別々になっちゃった。一年なんてあっという間だよ」
「仕方ないだろ。それとも何か?俺に留年しろとでも?」
「良いね!二年留年したら同じ学年だよ」
「この野郎!」

次の春を迎えるという事は、俺と薫兄がまた別々の道を歩くという事を意味していた。
しかも今度は今までの中学や高校とは訳が違う。薫兄は大学生になる。
途中まで一緒の通学路じゃない。休日や試験休みの日に気軽に会える訳じゃない。


薫兄は、少し離れた町の大学に進学が決まっていた。


もう、暫くの間は簡単に会えなくなる。
一緒に買い物に行ったり映画を見たり、お互いの家でゲームをしたり好きな音楽の話をしたり、今まで当たり前のように過ごしていた時間がこれからは当たり前ではなくなるのだ。

「勇登~、俺が居なくなるからって学校サボったりするなよ~」
「…うん」
「それから、宿題が分からないからって忘れたフリも無しだからな~」
「……うん」
「それと…って、勇登?」

俺の首をヘッドロックしていた薫兄が、普段なら何とか逃げ出そうとする俺のいつもと違う反応を不思議に思ったのか、覗き込むようにして窺った。

「は、勇登!?どうしたんだよ!」
「ううん……何でもない…」
「何でもない訳ないだろ!…何で泣いてんだよ」
「………薫兄」
「うん?」
「………寂しいよ…」
「勇登…」

薫兄の肩に顔を押しつけるようにして埋めながら小さく呟く。

「薫兄が居ないと…俺、寂しいよ…」
「…勇登」

俺の首に回されていた腕が緩み、あやすように背中を撫でる掌の感触

「勇登、俺も寂しいよ…」
「……薫兄」

顔を上げると、少し潤んだ瞳が俺を見ていた。

「二年経ってお前が高校を卒業して、もし俺と同じか近くの大学に進学するならさ、また一緒に学校へ通えるよ。そしたらまた手を繋いで通うか?」
「…大学生になっても手を繋ぐの?………うん、それも良いかもね」
「二年なんてあっという間だ。今までもそうだっただろ?」
「……うん…」
「待ってるからな、勇登」

ぎゅっと俺の背中を抱き締めてくれる薫兄を、俺も同じように抱き締める。

「うん。卒業おめでとう、薫兄」



その日は、家までの道程も手を繋いで帰った。

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Clap