春の日
薫兄と出会ったのは小学校二年生の時だった。
その年の春、引っ越してきたばかりの俺は見知らぬ土地の友達も居ない環境が心細くて、学校へ行きたくないと泣いて両親を困らせてばかりいた。
ある日、いつものように玄関で愚図っていた俺に声を掛けてくれたのが薫兄だった。
「今日から一緒に学校へ行こう」
そう言って差し出された手を握り返せずに居る俺に、にっこり笑って
「ちょっとずつで良いから友達になろうね」
無理に手を繋ぐ事も無く学校までの道程を毎日並んで歩いた。
俺が遠慮して少し後ろを歩けば合わせるように歩く速度を落とし、俺が立ち止まると「どうしたの?」と一緒に立ち止まってくれた。
何日かして漸く自分から学校へ行くようになると、俺の家の斜め向かいに住んでいた薫兄は、自分の家の前で俺が来るのを待つようになった。
「ねえ、勇登って呼んでも良い?」
「…うん………ぼ、僕も…か、薫お兄ちゃん…て呼んでも良い?」
「うん、良いよ」
初めて会った日と同じように笑って頷いてくれた薫兄が、俺に向かってもう一度手を伸ばした。
「勇登、学校まで手を繋いでいこう」
「え?」
「そうすれば迷子になる事もないし、何も怖くないだろ?」
「……うん!」
差し出された手におずおずと手を伸ばし、そっと握るときゅっと握り返してくれた手は、俺よりもずっと大きく感じられた。
いつしか「薫お兄ちゃん」から「薫兄」に呼び方が変わっても、繋ぐ手は変わらず温かかった。
その年の春、引っ越してきたばかりの俺は見知らぬ土地の友達も居ない環境が心細くて、学校へ行きたくないと泣いて両親を困らせてばかりいた。
ある日、いつものように玄関で愚図っていた俺に声を掛けてくれたのが薫兄だった。
「今日から一緒に学校へ行こう」
そう言って差し出された手を握り返せずに居る俺に、にっこり笑って
「ちょっとずつで良いから友達になろうね」
無理に手を繋ぐ事も無く学校までの道程を毎日並んで歩いた。
俺が遠慮して少し後ろを歩けば合わせるように歩く速度を落とし、俺が立ち止まると「どうしたの?」と一緒に立ち止まってくれた。
何日かして漸く自分から学校へ行くようになると、俺の家の斜め向かいに住んでいた薫兄は、自分の家の前で俺が来るのを待つようになった。
「ねえ、勇登って呼んでも良い?」
「…うん………ぼ、僕も…か、薫お兄ちゃん…て呼んでも良い?」
「うん、良いよ」
初めて会った日と同じように笑って頷いてくれた薫兄が、俺に向かってもう一度手を伸ばした。
「勇登、学校まで手を繋いでいこう」
「え?」
「そうすれば迷子になる事もないし、何も怖くないだろ?」
「……うん!」
差し出された手におずおずと手を伸ばし、そっと握るときゅっと握り返してくれた手は、俺よりもずっと大きく感じられた。
いつしか「薫お兄ちゃん」から「薫兄」に呼び方が変わっても、繋ぐ手は変わらず温かかった。